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《となりの億万長者》著者の死にあたって スタンリー先生、ありがとう

もう1週間以上たってしまったので、タイムリーでなくなったかもしれませんが、私も好きな著者、「資産100万ドル以上の資産層の研究」の草分け、トマス・J・スタンリー氏が、71歳で、アトランタで、2015年2月28日に、自動車事故で死亡されたということです。

ブログはいつも読んでいるので、訃報は、ブログで知り、「高齢ゆえ?」と思いましたが、実は、追突事故だったようです。

影響力のあった本なので、ニューヨークタイムズをはじめ、いくつかの新聞で、記事がかかれました。また、彼は、大学で教鞭をとっていたので、そうした記事には、コメント欄で、「先生ありがとう。授業を聞いて、地味な生活を送り、アーリーリタイヤすることに成功しました」といった元学生のかたがたの声もちらほら。

stanthomas.jpg
NYTの記事についた読者コメントのひとつ。

《大意: 30年以上前に、先生が教鞭をとるジョージア州立大学で、富裕層に対するマーケッティングの授業を受け、夫に、ずっとその話をしてきました。先生が本を出す前から、質素な生活を心がけ、50台でリタイヤできました。地味な中古車にずっと乗り続けていますが、二度と働く必要はなく、海外旅行も自由にできます。多くの人の生活を変えた先生に、感謝。ご冥福をお祈りします。》


記事自体は、こちらから。

Paying Tribute to Thomas Stanley and His ‘Millionaire Next Door’

それほどご存じない方のために、簡単に振り返りますと、スタンリー氏は、マーケッティングの研究者で、富裕層に対するマーケッティング方法を当初研究していたのですが、4冊目の本(彼の弟子だったWilliam Danko氏との共著)、

The Millionaire Next Door, 1996

は、少しアプローチを変えて、「富裕層はどんな人たちか」ということを、一般の人向けにわかりやすく説明し、その内容で、誰でも、努力と規律があれば、意味のある額の資産を形成することができるということを説いていたため、「ミリオネアノウハウ本」的な受け入れ方をされ、時代を超えたベストセラーになりました。

その後、日本でも、翻訳が何回も出たりしています。



彼の研究が一般化する前は、一般人の認識というのは、

> 資産家というのは、
> もともと金持ちで、
> 湯水のようにお金を使う
> 一般人とは別の人種

といったイメージでした。

それが、統計や調査、インタビューなどの手法を駆使した彼の研究の結果、下のようなことがわかります。


> 米国における資産家、これを、「純資産100万ドル以上」と定義すると、彼らは、
> 小規模事業主や、場合により教師などの低所得の層をも含む普通の人々で
> 医師や弁護士などの高額所得者とすら限らず
> 多くは、質素な生活をして、堅実な投資にまい進することで、資産を残す


彼の研究で決定的だったのは、

      「収入」と「資産」が、いかに違うか

ということを、あらゆるデータから、実証研究していたことでしょうか。今でも、この違いを掌握するかしないかで、認識は大きく異なります。

所得が低くても、資産の多い人も世の中にいますし、所得が高いのに、資産が低い人も、多数存在しています。

たとえば、借金なしで、100万ドルの価値のある農場に生活し、農業を営みながら、収益5万ドルを上げ、うち2万ドルで生計を立て、しかも、銀行や証券会社に、30万ドルの金融資産を持っている世帯が存在するとすると、このかたがたは、そうは見えないでしょうが、確実に、ミリオネア。しかも、資産に対する納税率は、大変低くなるでしょう。

それに対し、学生ローン、家のローンなど、負債合計が、100万ドル、収入は30万ドルもあるのにもかかわらず、所得に対する課税率が、最高税率に近い世帯は、高額所得でも、「自分の生活はカツカツ」「税金ばかりでまったく手残りしない」「いつになったらリタイヤできるんだろう?」と思っているわけです。

少しだけ、脱線すると、そのため、前者の家計は、ますます、お金持ちになる傾向が強く、現在、オバマ政権は、「高額所得者」ではなく、「資産保有者」に対して、補足率をいかに高められるかを、検討し始めています。(20年前に買ったブルーチップの株式を売らないで、日々地味に暮らしている低所得のウルトラ資産家というのは、課税しにくいのですね。特に、日本人から見てびっくりなのが、米国では、現在、相続税が、500万ドル以下の資産継承には、まったく課税がされないことでしょうか。)

さて、彼の研究に戻り、以下に、いくつかのキーポイントを思い出して見ます。


■ 高額所得者
医師などの高額所得者は、一般に、結構浪費家で、資産家になる確率が、収入から考える期待値より低い。

■ 教師
大学であろうと、小学校であろうと、教師は、職業的にみて、所得のわりに、資産家になる確率が高い。質素な生活ができて、投資に必要なリサーチ能力が高いからと見られる。

■ 起業家・ビジネスオーナー
起業家といっても、地元の土砂販売業者とか、ガソリンスタンドのオーナー、牛の交尾のための種付けの専門家など、普通の人が「金持ち」と結び付けないようなタイプの泥臭いビジネスオーナーのランクにも、隠れた百万長者が結構な比率で存在する

■ 金持ちの居住エリア
中西部のような地味なエリアは、実は、人口や所得差を計算に入れて算出しなおすと、生活費が割高な東海岸、西海岸などと比べ、資産家の比率が高い。


などが思い起こされます。

単純ながら、自分の所得と支出を両方上手にコントロールし、それに、賢明な長期投資戦略が立てられれば、最大の成果がでるということですね。

典型的な「となりの百万長者」は、下手をすると、クーポン(割引券)を切り抜いてスーパーにいっては、棚に並んでいる一番安い日用品を買って済ませたり、外食するときは、マクドナルドで、1ドルのバーガーを子供に食べさせる。

車は古い型落ちトヨタ、家は、30万ドル以下の地味なスターターホーム、居住区は、資産家がいない普通のワーキングのエリア。家に招かれれば、ワインは、1本10ドルのもの、時計は、タイメックスで、周囲の人は、そうした方々が、資産家であることを知らないことのほうが多いとか。

こう書くと、「けち臭い」だけの人たちですが、資産の再投資のみならず、チャリティーへの寄付や、孫の教育費など、自分が意義があると思うことには、大いにお金を使うそうで、いわば、中小企業のビジネスオーナーマインドが、染み付いている「お金を大切にすることの意味がわかっている合理主義者」なのですね。

興味深いのは、この「富裕層研究」シリーズがあたって、スタンリー教授も、ダンコー博士も、二人とも、教職からリタイヤしたこと。彼ら自身、研究者であるのみならず、こうしたライフスタイルを実践する資産家でもあったのです。学者先生が、一般に、研究対象について、それほど実体験に即した現実的な理解が無いことが多いことを考えると、彼らのあり方は、実践と理論を交差させる理想の立ち位置ともいえたかもしれません。

スタンリー氏は、その後、富裕層へのマーケッティング方法を指南するコンサルタントとして、

「どんなエリアに金持ちが住んでいるかを研究するダイレクトマーケッティング戦略」
「となりの億万長者と仲良くなり、信用される方法」

などを指南する実践的な研究を続けていきます。

純粋な学術論文はあまり発表しておらず、いずれも、一般ビジネスマン向けの本として研究成果をまとめた例が多いようです。


最新本は、2011年の

Stop Acting Rich: And Start Living Like a Real Millionaire

キンドル版は、割合、手に入れやすい価格です。


意訳すれば「かっこつけず、本当の億万長者のライフスタイルを身に着けろ」=「本当のお金持ちは、お金の価値を知っています。お金を無駄にする表面的なライフスタイルではなく、実利主義的に蓄財しましょう」というメッセージをこめたタイトル。

私が、彼らの著作、『となりの億万長者』に触れたのは、10年以上前だったと思います。

2002年ころ、バブルということで、不動産でリッチになろうといったセミナー、ロバート・アレンさんや、出版ビジネス起業を薦めるマーク・ビクター・ハンセンさんのセミナーにがんばって出ていた時期がありました。

そのころ、セミナーの前振りは、大体、いつも、

「スターバックスで毎日、3ドル、4ドルのコーヒーを買っていると、金持ちになれないぞ。複利(compound interest)の威力を教えてあげよう。お金持ちになりたいなら、スタンレー先生の本を読むといいですよ。」

といった調子でした。

その後や最近は知りませんが、よく考えると、当時、あの二人やその周囲の人々が、そんな地味な生活していたという事実はぜんぜんないんですが、、、笑 

むしろ、同じセミナー内で、舌の根が乾かないうちに、彼らは、

「破産の1度や2度くらいしてないと、起業家としては、一人前じゃないよな」「そうだよ」
「クレジットカードなどを使って、other people's money をレバレッジし、不動産名義をゲットすれば、超リッチになれるさ!」
「魂のチキンスープシリーズなんか、最初の一冊だけは苦労したけど、あとは、他人の投稿をまとめただけで、めちゃくちゃおいしいんだぜ!君も出版で金を稼げるよ」

なんて、まさにバブリーな無責任発言をしだし、

「最後は、5,000ドルの教材買ってよ、2万ドルのインナーサークル会員にならないかい?」

と、押し売りになったわけです。


今考えると、笑ってしまいますが、そんな《ロジックが破綻している支離滅裂なセミナー内容》も、彼らの話術や仕掛けのすごさの魅力を目の当たりにし、世間知らずだった私にとっては、すべてがエキサイティングに見えたものです。「インナーサークル」には、さすがに、手が出ませんでしたが、5,000ドルのセミナーは、ハイ、買いましたね。

質素を教えようとしたスタンリー先生、まさか、バブル不動産を担ぎ上げるために、こんな人たちに、援用されるとは、思ってもいなかったでしょう。

しかし、思い起こしてみると、当時、彼らのセミナーで、「金持ちになるなら、《金持ち父さん》だけではなく、こんな本があるよ」といわれ、それが、私が、彼の著作に始めて触れるきっかけだったのではないか、ひょっとすると、多くの人にとって、同様なのかもしれないと、当時の自分や、時代の混迷ぶりを振り返るにつれ、多くのほろ苦い思い出がよみがえってきます。

若いころは、読書というのは、娯楽や時間つぶしのために行うものかと思ってきた私ですが、彼の本は、何度も読み返し、身につくまで、「勉強」したものです。最初の数年は、頭で理解しても、実際の行動には出ることができませんでしたが、今でも、オフィシャルブログ《こちらからどうぞ》は、ちょくちょく訪問しています。(今後は、残念ながら、もうあまり更新されなくなるでしょうが。)

お恥ずかしながら、読書の成果が上がってくるには、何年もかかりました。

よく、「成功には、メンタルが必要」といわれますが、実際、私自身、自分の気の持ちよう、覚悟といったものが、自分のライフスタイルのあり方をDICTATE(支配)するのだということが、頭だけではなく、体中で、得心できるようになるまでには、相当な道のりがあったのです。

この間に、人の「親」となり、彼らの本で、新たに響くようになったのが、「資産家の子供への接し方」。

なんと、

■ 大学入学以降、子供に、お金をあげればあげるほど、依存体質になり、資産家になれない

というのです。

これが、30過ぎならわかりますが、彼の調査によると、「大学入学後の援助からしてがマイナス」なのだといいます。苦学生であった人と、親が、大学の費用を丸抱えした人を比べると、40台になった段階での資産の蓄積率は、前者のほうが統計的に優位なほどに、高いのだそうで、唯一の例外が、学者や学校の先生なんだとか。

私自身、親に、大学進学時の費用や生活費をすべて出してもらい、その後、お金のことについて無頓着な時期が続きましたので、そういわれると、返す言葉がありません。あの頃、家計の切り盛り方法、アルバイト代を学費や生活費に一部でも回すように教えてもらっていれば、リテラシーがもっと早くあがったことは確実でしょう。

そもそも、自分が親になってみると、つい、


「親にしてもらったのと同じレベルの生活はさせないと、申し訳ない」
「いや、可能であれば、自分にはかなわなかったレベルの教育を受けさせたい」


と思いがち。それに対して、そうした「お花畑な夢」には、このように、実は、逆効果な場合がありうることを、子供が小さい段階で教えてもらえたのは、お金に換算しがたいバリューでした。

例えば、堅実に成功するビジネスオーナーのプロフィールというのは、《大学に進学する学力はあるが、有名校でなくてかまわず、しかも、卒業すらしなくても関係ない場合がまれでない。》ことを教わったのも、彼の本を通してです。

単発的に、そうした例があることは、ビル・ゲイツ氏のような人の話を読めば、わかるわけですが、そうした特別な才能のある特殊な例までいかなくても、《普通の地元の成功者レベル》で、そうした人の割合が、実は、想定外に多いといった統計は、一般的な教育書を読んでいるだけでは、なかなか、出てきません。

能力や成功と、表面的な学歴、経歴などとの関係が、正比例するわけではないことを、社会人としての実際の経験を経る中で、私たちは、みな、実感するわけですが、こうして統計を持って論じられると、そうした経験や、ロジックと合わさり、そうだよなあと得心します。

狭い意味の学力より大切だと、資産家が一様に答えたのは、努力、節制、家族同士の協力体制や、正直さ・誠実さ。。。

スタンリー先生、ありがとう。また、やはり研究者になられたお嬢さんと協力され、去年手がけておいでだった最新調査の結果、ブログで公表されるのを、引き続き、楽しみにしています。


ご冥福をお祈りします。


中山からのお願いです。
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