3月米中古住宅販売は増加、税控除期限控え駆け込み Seasonally and Annually Adjusted とは何か
ちょうど、このことについて書こうと思っていたところに、ロイターに、よいニュースがあったので、紹介します。「よいニュース」というのは、ニュース内容が明るいとか、そういうことではないのですが、まずは、上、ロイター通信のタイトルです。
本文は、原文リンクこちらから。
短い記事なので、リンクがブロークンになったときのため、下に、ペーストしてみておきます。
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[ワシントン 22日 ロイター]
全米リアルター協会(NAR)が22日発表した3月の中古住宅販売戸数は前月比6.8%増加し年率換算で535万戸となった。今月末の住宅税控除措置の期限を前に、消費者が駆け込みで住宅購入に動いた。
ロイターがまとめた市場予想は528万戸だった。
中古住宅の販売戸数は増加したものの、活動水準は住宅市場混乱前と比べ依然大きく低迷している。
ゼファー・マネジメントのマネージング・ディレクター、ジム・アワド氏は「住宅市場について徐々に底入れしている可能性があるとの見方を強めている。ただ、今後差し押さえ物件が増えるとの見通しが楽観的な見方に水を差すだろう」と語った。
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今日注目したいのは、この場合の”annually adjusted”なんです。
実は、この記事は、微妙に不正確です。
間違いというより、字数制限やわかりやすさのために、省略しているのです。一般の方には、どうでもいいレベルのことで、他方、これが、不正確だということがわかる必要のある立場の人は、この記事を読めば、自分で、実際のところがわかる立場の人ですので、この内容でも、問題ないです。
どこのことか、お分かりになりますか?
全米不動産協会(National Association of Realtors、上では、全米レアルター協会と)のこの統計は、本来、
seasonally and annually adjusted
なもので、ここで言及があるように、単なる「年率」ではないんですね。
そもそも、annually adjustedって?
という方もいるかもしれません。
どういうことかというと、統計というのは、トレンドを追っていくことに意味があるところ、年次でしか、統計を取らないと、2009年の統計が出るのは、2010年頭、そして、次の統計が出るのが、2011年頭では、皆さん、ご商売になりません。
そのため、NARは、毎月、統計(この場合は、中古住宅売買件数)を取るのです。
しかし、そうすると、今度は、考えてみてください。
日本でも、「ニッパチ」という言葉がありますが(2月と8月に、物が売れないこと)、アメリカでも、月によって、シーズンによって、売れる月と、売れにくい月が、例年、あるわけです。
このブログでも毎回書いてあるように、通常、秋以降、冬に向けては、国の多くのエリアで雪が降ったりすることもあり、オフシーズンになります。
賃貸や売買が活発になるのは、2月のタックスシーズン。税の還付がIRSから届き始めるころと言われています。
そういう、季節性があるので、「1月は、何戸売れた、5月は、何戸売れた」といった月統計を取って、それを報告するだけでは、一般の人間にとっては、この情報の価値は、大変低いわけですね。わかりにくいからです。
「3月の数字が、どういう数字かをもっとも適切に評価する」ことが、統計の役割ですが、その目的のためには、3月に売れた物件数の総戸数という絶対数に着目したり、または、前月2月の売却戸数と比べても、しかたがないことになります。
そこで、統計に、「前年度比の季節調整」を加味し、この数字を見ていかないと、意味がないということになるわけです。
具体的に言うと、今年の3月の数字を、過去(通常去年)の年の3月の数字と比べていくことで、初めて、「2005年の3月は、中古住宅は、これだけ売れていたのに、昨今の3月は、この程度か。これでは、2010年の中古市場は、やはり、バブル期とは比べ物にならないな」という、予想も、ついてきます。
この記事で、3月の中古物件販売戸数は、535万戸というのは、実際に、3月一ヶ月で、535万戸もの物件が売買されていたわけでは、もちろん、ありません。
3月の一戸建て、コンドミニアム、タウンハウスの総売却件数は、実際には、合計で、42万7,000戸だったようです。
つまり、この537万戸というのは、3月時売買総数である、42万7000戸という数字を、加工した数字。
歴代の3月の売買件数や他の月の売り上げぶりと比べているのみならず(seasonally adjusted=季節換算)、今年の3月の勢いが、そのまま、1月から12月まで、同じ勢いだったとして、季節換算を加味した年率換算をすると(annually adjusted)、「この3月の勢いというのは、年率でいうと、535万戸売却につながる勢いを示す数字です」、とこの記事は、そういうことを報道しているわけです。
こうなると、情報は相当加工されていますが、その反面、わかりやすくなり、ある程度ウオッチングをすることで、
「2005年時は、700万戸だった中古住宅取引件数も、1999年ごろの500万戸台に逆戻りか。当然かもね」
とか、
「2010年2月の中古物件販売件数は、季節アンド年率換算で、501万戸規模だった。1月は、505万戸だったんだから、まあ、中古市場は、3月を見ると、上向き基調だな」
とか、
「2009年の米国の中古物件販売総数は、結局、515万6,000戸だったから、それと比べると、1月、2月は、slow start だったけど、4月に向けて、ちょっと、上向くかも♪」
といった評価を、下すことも可能になるわけです。
ちなみに、日本の中古住宅の流通規模は、平成18年のデータで、18万戸で、米国の25分の1の規模。
さらに脱線すると、今年の新築着工件数は、日本は、多少減っても、多分、70万戸台が予想されるため、業界は、戦々恐々ではありますが、それでも、大幅な年次調整が当たり前の米国の倍くらいになるでしょう。人口は、ご承知のように、向こうが、3倍で、2005年のバブル時は、米国も、100万戸以上、新築、作っていましたケド。
米国経済は、散々に見えるかもしれませんが、ある意味、毎年、新築着工件数をこれだけドラスチックに自動調整できる弁を持っているというのは、恐ろしくも、すごいことですね。そのツケは、失業率に出ているのかと思います。
日本は日本で、新築偏重が、この業界を回しているという現状を容易に変えられない、そういう状況、ステールメイトが続きますので、新築ジリ貧と中古微増を今後、10年でも、20年でも、必要な限り、ずっと続ける、そういう受身な微調整型市場を支えることが、政策決定権者的には、現実的なのかと思います。
この間、そのツケを払うのは、米国のように、失業者ではなく、貯蓄をし、雇用も安定していて、価値が下がることがわかっている新築を作る/買うホームオーナーですから、そう考えると、日本社会のよき伝統である、所得再配分構造は、依然、ここでは、今後しばらくは、健在だといえるのかと思います。
新築住宅市場規模自体が縮小していくときまでに、国の中古住宅の価値向上戦略が功を奏して、同等以上の市場規模を作り出すことができればいいですが、素人ながら、今のところ、そちらの兆しには、大きな期待はできなさそうな気もします。最悪の場合、やはり、単に、市場規模が縮小し、国力が大幅低下する一大要因になりうるでしょう。
完全に脱線してしまい、しかも、特段根拠のない、いい加減な発言に終わりましたが、一応、今日のお題は、”seasonally and annually adjusted の意味”なのでした。
日本でも、この考え方は、実質、取り入れられていますが、統計自体として、ここまで加工して出してくるということは、一般的でないので、ご説明することとさせていただきました。
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