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400ドルの緊急出費がまかなえない! 「中流」アメリカ人の苦悩

最近の米国では、各種の景気指標自体は改善が続いているように見えます。不動産なんか、はっきりいって、人気地域は、どこも、バブってる感があり、”買い付け証明は、掲載価格よりずっと高く”なんていう状態が、ミッドウエストの田舎都市でも、普通です。

この前、ミシガンのディアボーンの知り合いのお宅にお招きを受けましたが、数年で、倍になった、今なら、100万ドルの値段がつくんじゃないか、なんていう景気のいい話でした。

しかし、それと同時に、「持てる者とそうでないもの」の格差の問題が、期せずして、ドナルド・トランプ、バーニー・サンダース両候補の予期せぬ善戦といったかたちで、政治課題、大統領選の主戦線に取り上げられるまでに至りました。

日本でも、ネット報道を見る限り、同様。「貧困層の問題」という観点だけではなく、「中間層自体が貧困化している」ことが指摘されている傾向も、まったく同じです。

そんな中、この前2016年5月のアトランティック誌に掲載されたこちらの「自分もミドルクラス、人から見れば、アッパーミドルだが、400ドルの緊急支出はまかなえない」という告白記事が、大いにトレンディングしています。

The Secret Shame of Middle-Class Americans

記事は、別の調査に触発された「個人的カミングアウト」。きっかけとなった調査は、ワシントンD.C.にある連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board, FRB)が行った

2014 Survey of Household Economics and Decisionmaking

のようです。

2015年の5月に発表されたこの世帯調査においては、「400ドルの緊急支出があったとき、それをまかなえる預金があるか」という質問に対し、6,000人近い回答者のうち、47パーセントが、

「借金をするか、物を売るでもしない限りは、400ドルの緊急出費がまかなえない」

と回答したようなのですが、アトランティック誌では、そこそこ有名な作家先生が、「外見からは、自分は、成功しているように見えると思うが、実は、自分も、400ドルの余裕がない47パーセント族。こういうことを告白するのは、性的インポテンツをカミングアウトするより、つらい。」と独白し、共感(というのかわかりませんが)を呼んでいるというお話。

どこが、トレンディングしているのかというと、この方は、この記事で、自分の履歴を詳細につづっているのですが、キャリアといい、家族のライフスタイルが、ほぼ、「きらびやか」といっていいくらいすごいのです。


記事のライター、NEAL GABLERさんは、著作を5冊出版した作家。これまで、そんな話は、親しい友人に対しても、したことはなかったが、

「これは、自分だけではなく、中産階級、場合によっては、アッパーのアメリカ人にも、みんな、起こっていることなんだ」

という実感がわいてきて、そのために、ディスクロージャーをすることにしたということです。

彼自身、自分が、大学院にも行った高学歴者、ハーバード大学にも籍を置くランクの研究者として名をはせているであるにもかかわらず、家計運用には、無知」であること、過去の選択のすべてが、不適切なものであったことを、認めています。

> 収入が不安定な作家を選んだこと
> コスト高のニューヨークに住むことを選んだこと
> 子供を2人生み育てたこと
> リサーチに時間がかかる本を書くキャリアを選んだこと
> クレジットカード借金の返済計画に着手するのが遅れたこと
> ブルックリンにCOOP式マンションを買ったこと
> 子供を私立に行かせたこと
> 共働きは、逆に、デイケア費用のほうが高くついたこと
> ロングアイランドに引っ越したら、ブルックリンの物件は、損切りに
> 子育てのために退職した妻は、その後職場復帰できなくなった
> 男のプライドから、「それなら働かなくていい」といってしまった
> 子供の大学に予想外の出費

などなど、都市型ホワイトカラー族にとっては、「あるある」シリーズ感満載かもしれません。

このかたは、本の一冊の映画化権を、なんと、あの有名なマーティン・スコーセッシ監督に売ったという実績もあるそうで、今は、憧れのロングアイランドのハンプトンズ住まい。(ハンプトンズは、旧軽井沢以上の豪華なイメージの避暑地です)

こうして手塩にかけたお嬢さんの一人は、スタンフォードに行き、その後、ローズ・スカラー(オックスフォード進学の奨学金。ビル・クリントン大統領もその一人)に選ばれ、現在は、ハーバード・メディカル・スクールに進学したというのですから、きらびやかなアッパーのイメージがにおいたってくるようです。

しかし、実態としては、彼は、「出版の前渡金(ADVANCE)が、単年度に、大きい金額となって課税されるので、実際には、資金繰りに苦しみ続け、常に、税金が払えない状態が続いていた」「自分の額面所得が高すぎて、奨学金がもらえなかったため、子供たちの学費は、結局、自分の両親がほとんどを負担した。それ以外に、行かせたかった学校に進学させる方法はなかった」などと述懐。

「確定拠出年金(401k)は、下の娘が結婚したときに、使ってしまい、ゼロ」
「前渡し金をもらった本の締め切りに遅れたら、訴えられ、泣きっ面にハチだった」

と、ダメダメトラブルが、続きます。

こうした個人的状況が、自分の個人の責任でもあると認めながら、他方で、「自分は、正直、上のほう。これだけ多くの米国人が、こういう状態にあるということで、国の状況、社会のありかたじたいが、病み始めてきているのではないか」「この数十年間、普通の米国人の所得は、まったく上がらずにここまで来てしまった」というリサーチが援用されています。


興味深いのは、こうした「日々の家計運用、支出ぶりや、緊急出費の困難度」といった側面に、学術的なリサーチが行われるようになったのは、本当に、最近のことであるという指摘。

所得についての研究はたくさんある。貯蓄についての研究も、たくさんある。しかし、いわば、企業経済でいう”資金繰り”に該当する部分については、あまり、家計の研究がされてこなかったようで、確かに、上でメンションされた連邦準備制度理事会で行われた消費者調査も、2013年が初年度です。

このように、「確定申告書を見ても、それとわからないほど、立派に見えるアッパーな人たち」にも、”余力がない生活”が蔓延しているのがアメリカ(や日本も?)という先進国。

現在のアメリカ人の生活は、例えば、私の子供のころの日本や、今の中国人の一般的な暮らしなんかに比べても、ずっと豊かなのですが、いわば、”張り子のトラ”状態。

米国式社会では、みなが、ミドルクラスのライフスタイルに、拘泥していることが、問題の一環であるという反省も、確かにされることはあります。

この文脈では、USA TODAY誌が、数年前に、行った「アメリカン・ミドルクラス」を実現するには、実際には、いくらくらいの所得が必要なのか?という試算も、よく取り上げられるようです。

それによると、


アメリカンミドルクラスの理想の生活ぶりをイメージすると、こんな感じ。

夫婦と子供二人の4人世帯が、

> 新築住宅購入で、年間1万7,062ドルの支出。(統計中央値27万5,000ドル)
> 農務省試算で、食費が、普通コースだと、1万2,659ドル
> 車は、1台でも、11,039ドル(AAA試算)
> 医療費は、9,144ドル
> 税金は、州税含め、30パーセント
> 子育ては、一人4,000ドル
> 大学進学準備金は、一人2,500ドル
> ファイナンシャルプランニングで、17,500ドルを老後資金(所得15パーセント)

逆算すると、これを実現するのに、年間必要所得は、額面で、13万ドル。しかし、実際には、世帯所得の中央値は、5万ドル台です。上のように定義するなら、アメリカンドリームは、実際問題として、中産階級の大多数が努力で達成できるライフスタイルではなく、アッパー20から25パーセントの人間のみが送ることのできる暮らし。

途上国暮らしも長く経験している私には、これだけの生活をしていながら、年々、去年よりさらに豊かになるべきだという傲慢な自信には、本来、根拠がないのではと、疑わざるを得ません。若いころは、アメリカ人の生活ぶりの豊かさに目がくらみましたが、今は、立派な家を見ても、「アッパーはそうではないが、中産階級の場合は、資産の6割は、持ち家にロックされている」といった統計しか、思い浮かびません。(笑)

U.S. Homeowners Are Repeating Their Mistakes
To diversify risk, American families need less home and more cash

私が子供のころ、我が家は、今風に言うと、5人家族3ベッドルーム1バスルームで、子供たち3人は、寝室2つをシェアしており、特につらかった覚えもありませんが、現在の米国で、”5人家族に、バスルーム1つ”は、中産階級の常識からすると、耐えられない辛苦となってしまった感があります。米国も、50年代、60年代の家は、2BRが普通でしたので(それらの多くは、屋根裏を二階にリフォームしたりして、3BRに仕立て直し、今でも使われていますが)、近年のグレードアップ志向の背景には、消費をあおるテレビやメディアの影響も確実にありそうです。

今、ちょうど、私の親友の一家も、家を買おうとしています。

彼女も、「普通の暮らしがしたいだけなのよ。別に、贅沢がしたいわけではないのよ。そのために、大都市をわざわざ避けて、この小さい都市に引っ越してきたのよ。」と力説していますが、それでも、現在、居住都市の物件販売中央値(20万ドル)より50パーセント高い物件(30万ドル)を買おうとしている自分のポジショニングが、「アッパー志向」であることは、どうしても、認めたくないようです。

こういう大人版の「同調圧力問題」というのは、子供のそれより、実は、ずっと、やっかいなものなのだと、こっそり、うちの子供には話しました。(大人の場合は、実際には、自分がそう思い込んでいるだけのことのほうが多くないですか?)

ただ、他人の浪費振りを非難するのは簡単ですが、しかし、上の記事でも指摘されているように、現代社会では、これが、現実問題として、大家さんは、中間アッパー層も含め、全人口の半分が、数百ドルの緊急出費に対応できない状況で、身分不相応な生活をしていることを、忘れないようにするべきだと感じます。私の経験では、資産家層の多くは、まったく違う立場にあるために、一般のかたが、こういう綱渡り式の暮らしをしている事実のみならず、その理由自体が、理解できなかったりするものなのです。


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