WALKABLE, BIKEABLEは、もう新語じゃなくて、トレンドだ!
対米不動産投資家の中山道子です。皆さんも、自転車、好きですか?
日本でも、評論家の勝間和代さんが、しばらく前に、「都内の便利なところに住んで、自転車でどこにでも行きます」的なライフスタイルを採用しているということを読みました。
エコで、健康的、節約・時間短縮にもなって、悪いことは何もないですよね。郊外に居住するスーツ着用の会社員では難しいですが、少し自由な職業やライフスタイルを持っている方が、おしゃれなマウンテンバイクで都内を縦横無尽って、イケテるイメージですよね。
米国でも、実は、BIKEABLEという言葉が、メディアに登場するようになっています。(MERRIAM WEBSTERには、2011年のワシントンポストの記事が、紹介されています)
日本で、バイクというと、モーターサイクルのことだと思いますが、これは、和製英語で、バイクは、米国では、BICYCLEの略ですね。
当初、口語だったのが、定着したのでしょう。このBIKEABLEというコンセプト、都市や不動産市場のあり方にも、ニュートレンドを起こしている可能性あり、です。
もともと、米国不動産の指標のひとつとして、先行していたのが、WALK SCOREとWALKABILITY。
WALKABLEは、そこまで新しい造語ではないようですが、WALK SCOREを数値化したウエブサイトは、
というところで、こちらは、2007年から。ZILLOWやREALTORなどの不動産関係サイトで、よく取り入れられているので、同社の本来のサイトをご覧になったことがない方でも、この用語自体は、ご覧になっているかと思います。
ウオーク・スコアは、ウーカビリティ、つまり、徒歩圏が、どれほど便利であるかのものさし。具体的には、お店やレストラン、図書館、銀行、学校などが、どの程度、徒歩圏にあるか、がポイントです。
そんな同社がバイカビリティスコアを発表したのが、2012年。
考察の対象になっているのは、
■バイク専用レーンがあるかどうか
■起伏があるかどうか
■目的地(お店など)や道路の便利さ
■実際のバイカーがどれくらいいるか
で、提携サイトでは、まだ、バイカビリティ・スコアは、表記されず、ウオーク・スコアだけの表記ですが、ウオークスコア社の自社サイトで住所を確認すると、
> ウオーク・スコア
> トランジット・スコア(乗り換え容易度)
> バイク・スコア
が三つとも、出てきます。
こうした動向は、ここ数年、特に強く感じるようになりました。ガソリン価格は、今下がっていますが、高騰を経験したことが、状況に拍車をかけた部分も大いにあるでしょう。
これに関連し、2014年に出た「30の先進都市を研究し、米国の方向性についての政策提言」を行っている団体のレポートを読んだところ、なかなか面白かったので、ご紹介します。ここでは、ウオーカブル、バイカブルの上位概念的なFOOT TRAFFIC(徒歩圏)という考え方が採用されています。
執筆者の一人は、ブルッキングス研究所のシニア・フェローで、デベロッパー系団体の資金を取り付け、ジョージ・ワシントン大学ビジネススクールとの提携で実現したようです。業界団体のリサーチなのですが、つまりは、「商業不動産開発の方向性」を見極めようとするビジネス側のニーズにこたえるために書かれたので、私たちにとっても、意味がある業界トレンドでしょう。
それによると、
■ これまでの不動産は、世論調査の用語法に倣い「都市部」(central city => urban)と「郊外」(outlying counties => suburban)という二元論で捉えられてきた。ここで、業界の方向性をより正確に捉えなおすとすると、この二元論は、実質上は、"drivable suburban" vs "walkable urban" という対比として描ける。
■《車で運転して行き来することの出来る郊外》の開発は、20世紀後半の経済成長を経験したデベロッパーにとって、重要なものだった。人口密度は低く、相互エリア間の道路建設が重要で、石油消費を促した。仕事はわかりやすく、儲かった。
■それに対し、《歩ける都市部》開発は、人口密度が高く、不動産の種類は雑多にわたる。隣接エリアとの間にも、車以外に、移動の手段として、バスや自転車、電車などのいろいろなオプションが並存する。ここでは、普段の生活は、徒歩で行える。
21世紀前半の成長は、ここに求めるべきだが、そのためには、各レベルでの行政などのゾーニング等都市計画を合わせた統合的な支援政策が必要だ。また、状況が複雑なので、ここで儲けるためにはスキルがいる。
■ 現在、《歩ける都市部》モデルとなるエリアは、開発済み都市部不動産の1パーセントでしかない。85パーセントは、依然、ベッドルームコミュニティである。こうした将来のアメリカの発展モデルを提供する《歩ける都市部》のトップ10の例は、ワシントンDC、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、シカゴ、シアトル、ポートランド、アトランタ、ピッツバーグ、クリーブランド。
■ ウオーカブル度を確定した後に、こうした都市群を調べてみると、一番ウオーカブルな3都市群(ワシントンDC、NY、ボストン)と、ウオーカブルな中でも、一番下位に来た3都市(タンパ、フィーニックス、オーランド)とを比べると、一人当たりのGDPは、52%も前者3つのほうが高い。
■ オフィスレンタルについてみると、NYCはあまりに高いので、アウトトライヤーとして除くが、それでも、「トップ・ウオーカブル都市の商業賃料」は、「運転可能な郊外部」のそれと比べて、74パーセント高かった。
■ 不況期の商業不動産の動きは、オフィスと店舗両方につき、ほとんどが、これらの《歩行可能なエリア》で起こった。これは、スプロール化現象に今後のストップがかかる兆しだと思われる。
■ 今後のウオーカブルは、今、急ピッチでウオーカブルが進行しているデトロイトのように、都市内での再生として行われるだけではなく、今後、都市部には、ウオーカブル開発をする余地がないNYC(現在マンハッタンはすでに全面的にウオーカブル化が完了していて成長するなら、島の外に行くしかない)や、高額所得者であっても、市内のウオーカブルなエリアに住むというオプションがないシカゴのように、郊外にも求めていくべきだ。
など、多岐にわたります。
まだ、このエリアは、調査やリサーチが始まったばかりで、広く確定した結果が出ているわけではありません。
レポート内でも、「実際の不動産の価格とウオーカビリティとの関係についての調査など、もっと、いろいろなリサーチが望ましい」という結論になっています。
重要な仮説が、「高学歴、高額所得者とウオーカビリティとの関係」。
「高学歴者は、ウオーカビリティに、価値を置いている」「高学歴者は、所得が高い」「ウオーカブルなエリアは、全体比はまだ1パーセントなのに、過度に生産性が高い」、というわけです。
ただし、関係があることはわかったが、どういう因果かはわからないし、レジデンシャル不動産については、匹敵する研究もないという注意書きもあります。
もうひとつの重要なポイントは、「20年前には、ウオーカビリティとこうした賃料等の高低などの生産性の高さとの間には、連関がなかった」ことがわかったことでしょうか。当時は、まだ、郊外開発による高成長が、全国的に経験できていた最後の時期だったわけでしょう。
価値観的に見ても、20年前の高額所得者にとっては、より高級な車を買うこと自体が、ステータスだっただろうと思われるのに対し、今の高額所得者にとっては、いかに健康でスマートに生きるかというハイクオリティなライフスタイルのほうが、重要になったのかもしれません。
このレポート自体では、取り上げられていませんが、他の動きを見ても、世代的に見ると、ミレ二アルズ層、つまり、2000年前後に、成人した層については、ライフスタイルがこれまでのバブリーなベビーブーマーとは違うことは指摘されてきており、この層が、ウオーキング、自転車などが好きな身軽志向世代であることは、間違いないようです。
ウオーカビリティ、バイカビリティ志向は、高学歴、高額所得者に限ったものとは思えませんが、(所得が低い人に、「徒歩圏に、いろいろお店があるのと、車でないとスーパーにいけないのとでは、どっちのほうがいいですか?」と聞いて、「後者です」と答えるというのは、考えにくいです)そうした志向を満たすことが出来るのは、よりオプションやリソースのある人であるだろうことは、容易に想像がつきます。となると、そうした「ロケーション」が、どんどん割高になっていく「雪だるま効果」は、ありうるでしょう。
ただ、気をつけなければいけないのは、このウオーカブルという観念が、とてもわかりにくいものであること。
例えば、デベロッパー向けのこのレポートでも、「郊外型開発は楽だったけど、ウオーカブル都市圏で開発に成功するためには、相当なノウハウが必要だ」という指摘があります。
レジデンシャルにいたっては、NYCのマンハッタンにオフィスがある高学歴者がどこに住むかといえば、やはり、郊外になるわけで、高額所得者であれば、絶対、職住隣接とウオーカブル、バイカブルが実現できるわけではありません。
しかし、フットトラフィックを増やしていくことが、商店街を生み出し、犯罪率を低下させ、近隣不動産の価値を高めていく、そういったケースは、今、いくつも報告されているようです。
この団体がかかわり、素晴らしい成績をあげた例として、「イリノイ州のノーマル市」のケーススタディが興味深かったです。ここは、シカゴダウンタウンから2時間以上かかるので、通勤圏とは、言いにくいですが、このような「郊外部のミニタウン」でも、タウン内のダウンタウンエリアをウオーカブルにする投資をした結果、大きな成果が得られたというのです。
Report: Complete Streets Deliver More Than Just Good Vibes
アジア人にとっては、ある意味、当然な、そんな都市のあり方は、昔の米国では、サンフランシスコやニューヨークといった限られた都市部でしか、体験できないと思われてきましたが、今でも、土地自体は余っている米国にも、とうとう、コンパクトシティ化志向が本格化してきたようです。
「人口が増加し続ける先進国米国」ではありますが、それでも、土地自体は、平均的に有効活用がされるわけではなく、今後、人の流れが、どちらに向くかで、勝ち組と負け組の格差は、ますます大きくなるでしょう。
そのため、このデベロッパー系団体は、「行政への売り込みをしていく」ツールとして、こうした「未来都市マップ」を提示しているようで、米国で、通りをぶらぶらできるというのは、大変なプレミアムな価値ですから、こうしたトレンドは、今後も、支持を得ていくだろうという気がします。(マーケッティングとしても、さすがというレベルの洗練度だと思いました。)
実は、実際問題として、統計上、つまり、ビッグピクチャー上は、この10年で、より多くの人が、職場から遠くなったということが、指摘されています。
The Growing Distance between People and Jobs in Metropolitan America
これは、多くの都市部で、職が、郊外に移ったからのようです。都市部自体が、空洞化、スラム化し、危険になったというビッグ・トレンドのほうが、私たちにとっては、正直、依然、馴染み深いでしょう。良い例が、この前のボルチモアの暴動です。
なので、純粋に投資をする場合に、こうしたトレンドを前提に物件購入をするのは、当面は、少し、直近のリターンが、低くなりすぎる可能性があるのですが、しかし、上に述べたノーマル市なんかは、所得中央値4万ドルで、イリノイ州立大学のキャンパスがあり、物件は、数万ドルで買えるようなところで、しかし、こういう小さい町での最近のリーダーシップの結果、近年、以下のような賞をとっているそうです。(WIKIより)
November 19, 2014: Bronze Level Bicycle Friendly Community Award, League of American Bicyclists
2014: First in State for Most Minutes Read, 2014 Scholastic Summer Reading Challenge, Scholastic Corp. - Received by Glenn Elementary
2014: Chamber of the Year, Association of Chamber of Commerce Executives (ACCE) - Received by the McLean County Chamber of Commerce
2013: Honorable Mention - Mayor's Climate Protection Awards, United States Conference of Mayors - Received by Mayor Chris Koos
2013: Tree Cities USA Community Award, Arbor Day Foundation
2011: National Award for Smart Growth Achievement - Civic Places, United States Environmental Protection Agency
この研究がなければ、気がつくようなタウンではないかも。こういうことがわかったからといって、まったく関係ない人間が、「すわ、物件購入だっ!」となるかは、また別問題ですが、なかなか、面白いですよね。
いずれにせよ、米国で自宅を探している場合、「どんなライフスタイルを志向するのか」という観点から、知っておいて損はない長期的視点であると思いますので、ご紹介しておきます。米国居住の方は、「そうそう、私の住んでいるところも、最近、バイカブルになってきたんだよ」「確かに、ウオーカブルな賑わいっていうのが、盛んになってきた気がするよ」なんていう方が多数おいででしょう。
冒頭に述べたように、遠隔投資家の場合、レジデンシャルのツールとしては、WALKSCORE社のウオーカビリティ、バイカビリティ、トランジットスコアが便利です。
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