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Fair Housing とはなにか

こんにちわ。日本では、わかりにくい海外の不動産コンセプトというのはたくさんあり、特に、このフェア・ハウジングというのは、日本では、本当になじみがないのだなと改めて思い起こされることが、今回、ありました。

私はフェイスブックへの書き込みを結構やっているのですが、自宅で使っているLENOVOについて、書き込みをしたところ、私に、リアルタイムに、メッセージを送ってこられた方がいて、その方は、わざわざ、私に


+++
Thinkpadの修理は中国ですか。日本IBMも中国資本になったのでしょうか。中国製はいまいち信頼を置けず、避けていますが、いい機械なのでもったいなく思っています。
+++


というメッセージを送ってきたのです。

アイコンは、不動産業者であることが一目でわかるロゴ。プロフィールを見ると、新宿で営業されています。本来業務用でアカウントを展開されているはずの方が、私の趣味の書き込みに、どういう時間つぶしなのかは判りませんが、いずれにせよ、ロジックの飛躍についていけず、私は、「日本で修理をしました。ところで、そのような不見識なことをおっしゃっていると、中国のお客さんに嫌われてしまいますよ」と返事をしたところ、


++++++
いや中国人・朝鮮民族も信用していませんから、こちらからことわっています。
++++++


と、しつこいですが、実名、商号表記のこの法人宣伝用のアカウントを使って、堂々と、返事をされてきたのです。

このようなやり取りを開示するだけで、言葉遣いからして、不快になる方もおいでかもしれません。私も、人を槍玉に挙げるようなネガティブな行動は、本来は遠慮するようにしていますが、今回だけ、問題状況をお伝えするために、直接の引用を、お許しください。

というのも、ここで、考えてみると、実は、日本では、顧客を、「プロフィール(この場合は、人種/文化圏)に着目してご遠慮する」という行動に対して、規制は、直接的には、ないのです。

日本国憲法は、差別を禁じていますが、あれは、行政が、差別をしてはいけないという意味で、私人間においては、契約自由の原則のほうが強いと一般に思われています。そして、この業者さんも、「嫌いなやつとは取引はしないぜ」と、まさに、自由主義国家日本において保障されている契約自由の原則を謳歌しているわけです。

それに対し、自由社会の大先輩?でもあるアメリカでは、実は、差別の長い厳しい歴史を持っているせいで、公民権運動以来、「私人間取引においても、商売をやっているやつは、差別をするな」と、営利業者の行動を大いに規制する連邦法が、制定されており、不動産関係においては、その法律は、

Fair Housing Act(住居に関係する機会均等法)

と呼ばれています。

最初の制定は、運動が盛んだった1960年代。現在の機会均等法の基礎は、1988年の改正を経ているようです。

内容としては、不動産関係において、

race, color, religion, sex and national origin、disability and familial status


■人種
■肌の色
■宗教
■性別
■国籍・出身国
■障害
■家族構成(18歳以下の子供を持っていたり、妊娠したりしていること)


に関連し、性別、宗教と家族構成に対する限られた例外を除いて、差別を禁止することが目的。

どういう項目が禁止対象となっているかというと、HUD(US Department of Housing and Urban Development、連邦住宅都市開発省)の該当ページはこちら

対象となっているのは、「ほとんどの住居」で、ただし、4室以下のオーナー居住案件、ブローカーを経ない取引の対象となる一戸建て、メンバー制の団体が経営する建物が、一部の例外を認められるということです。

基本的には、大家さん、業者さんをはじめ、関係者は、どのような立場であっても、これらの特徴に基づき、家を借りたり、買ったり、ローンを組んだり、居住物件における利用を制約されたり(例:共有部分立ち入り禁止)、入居条件を変えたりといった居住に関連する諸個人の権利行使を、拒否したり、妨害することもいけないのです。

これは、私人間の人間関係を相当広範に規制する法律で、業者さんの行動、大家さんの行動のみならず、「隣人」といった立場の人の行動に対しても、直接規制をかけるものです。

私が赤ん坊のとき、両親が勤務していた南アフリカなんかでも、当時は、白人と非白人は、出入り口や座るところが違っていたということですが(実は南アでは、当時、日本人は、名誉白人と定められ、ほかのアジア人と異なり、白人と同席してよかったそうです。当時は、私たちも黒人のベビーシッターさんに育ててもらっていたのですが)、こうした風習があって、米国では、黒人暴動が起きたわけですので、そのような歴史を克服するために、「私人間の人間関係を連邦が直接、規制する」米国式の民主主義が、実現したわけなのですね。

現在でも、米国のいろいろな都市に、

Martin Luther King Boulevard
Rosa Parks Highway(公共のバスで、白人に席を譲ることを拒否した女性)

といった公民権活動のリーダーたちの名前を冠した道路が、存在します。私が投資をしているデトロイト市自体、公民権運動の結果、逆に、人種隔離が進んでしまった悲しい歴史を持つ都市ですが、これは、また別の機会にでも。


いずれにせよ、こうした過去があって、米国では、不動産関係における機会均等法は、大変な重みを持つ法律。業者さんは、おいそれと、人種自体への言及すら、できるだけしないようにしています。

よくお話しするのですが、日本人が、米国に行って、


「白人や日本人が住んでいるエリアに投資をしたいが」
「自分の物件は、日本人にだけ、貸したい」


ということ(本音)をあまり正直に言っても、業者さんは、困ってしまいます。人種に着目した形で行動して、それにより、第三者からの苦情がHUDに出されたら、いくら、お客さん側の事情に基づいて行動したとはいても、ライセンス剥奪問題に発展しかねないからです。


++++++


もちろん、米国でも、本当のところは、こうした問題は、差別としても、あるいは、新しい棲み分けとしても成立していて、法律によって、理想社会が実現したわけではありません。たとえば、チャイナタウンなどといって、中国系のかたがたが、集まるエリアがあったりといった実質上の人種自主住み分けは著しいし、それが、一概にいけないとは言えません。カルフォル二ア州なんかですと、トーランス(Torrance)というエリアは、日本人が密集していることで有名で、やはり、日本人には、住みやすく、投資しやすいわけですね。

ですが、やり方を心得ていないと、つまりは、それにより被害を受けたと主張できる第三者が出ると、違法になるわけですね。

米国社会が、日本より進歩しているのか、にわかにはいえないですが、法制度としては、確かに、国家が、私人間において、基本的人権尊重の強制をするというのは、現代型。時代的にいって、一世代前、ニューディーラーたちによって事実上起草された日本国憲法には、そのような方向性は、部分的にしか、取り入れられていません。

そして、その後、日本では、住宅関係を始め、私人間の基本的人権問題については、法律を制定するといった方向性よりは、キャンペーンをするとか、人権委員を配置するといった、よりソフトなやり方で、啓蒙するという方向性で来ているわけですね。

その結果、例えば、日本でOKで、米国ではNGの行動として、

■金融機関は、外国籍の方に対しては、融資を別枠にしたり、国籍に基づき、拒否をしてかまわない
■大家さんは、「外国人お断り」と堂々と広告してかまわない

といったことが、今でも見受けられるというわけです。このほか、視覚障害がある方が、入居を希望するとなったら、「ペット不可案件」でも、「盲導犬OK」にしなければいけないなどの障害のある方向けの規定もあります。

こうした理念は、建前だけの話では割り切れません。外国人は、習慣が異なるから、ゴミだしなどがきちんとできないから、トラブル時に、会話が成立しないから、など、それなりに、感情論にとどまらない理由がある場合もあり、ひょっとすると、この業者さんも、ロケーションから言って、こうした「外人さんとのコミュニケーション成立」に苦労し、「もういやだ」となったのかもしれません。

私自身、米国の賃貸物件で、中近東出身のテナントさんが入居され、バスルームのトイレで、バスのシャワーを使いまくり、階下に水漏れしてトラブルになったことがあります。米国では、バスルームというのは、普通のお部屋。

基本、お風呂周り以外は、防水しないので、この場合のように、どうやら、防水なしの木の床張りで、”おしり洗いにハンドシャワー使い”をされたら、どうしようもありません。

それでも、私が、「今後は、中近東の方は遠慮したい」という権利は、アメリカでは、ありません。管理会社に内々に希望を伝えても、守ってはもらえません。そのようなことをしていることがわかり、通報となれば、業者さんも私も訴えられ、管理会社は、レアルター資格剥奪、私も、損害賠償請求の対象となったりしかねません。

そもそも、中近東出身の方が、全員、このようなことをするわけではなく、米国人で、別のトラブルを持ってくる人もいるわけです。

こうした中、地元の管理会社さんは、非営利や役所の通訳サービスをつかって、こうしたかたがたに、米国の風習や、家の使い方を教えることも、自らの仕事と心得るにいたっています。そもそも、米国の経済状況がこれほど悪い中、こちらは、テナントプロフィールを悠長にセレクトできる立場ともいえません。


米国式のほうがいいのか?「各人それぞれ」の日本のあり方で、いいのか。どちらにしても、問題が簡単に解決するわけではありません。

しかし、トラブルがあるから、回避する。面倒があれば、相手のせい。それで、お客さんに喜んでもらえ、自分の子供に尊敬され、また、社会のためになっていくものなのでしょうか。現代の「社会」は、国内社会だけではありません。これで、商売は、今後も安泰でしょうか?

そして、政策論として見ると、貿易立国である日本という「先進国」が、不動産業界のこうした慣行を野放しにし続けることにより、現在最大成長市場となってくれている新興諸外国に与えるメッセージはどのようなものとなるのでしょうか?

こんなことは、これまでにもいわれてきたことなので、私などが、いまさら、、、ですが、、、

昨今の統計を見ると、首都圏は、今年もさらに家賃下落傾向がくっきり出ています。(HOME’Sマーケットレポートは、最新版こちらを参照。)

震災の影響は、空室率にも、影を落としています。賃貸族は、私自身がそうであるように、逃げ足が速いのです。(2011年8月31日段階で、首都圏賃貸マンション業者の4割が、依然、震災後の影響があると答えています。こちらから。)こうした中、新大久保を擁する新宿区を拠点に、業者さんが、アジア系のお客さんを断るというのも、すごい余裕なんですけどね、、、汗


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