Gentrification とは何か 統計的により頻繁に起こったのは貧困の広がりの方だった!
対米不動産投資家の中山道子です。
今日は、GENTRIFICATION(エリアが向上すること)とはなにかについて。また、投資家として、いかに、冷静にジェントリフィケーションを評価するべきかということについて考えてみたいと思います。
課題: 2018年現在、不動産の購入は、米国では、大変困難になっています。理由は、ずばり、高値と供給不足。
対策: 今後エリアが改善しそうな場所で割安物件を購入し、賃貸をして値上がりを待つ?
以下、上のストラテジーを検討してみたいと思います。
といっても、初めにお断りをしておくと、統計を見るという話なので大雑把な観点からの俯瞰で、個別のエリアや戦術について特に具体的な意味があるというようなお話とまでは言えません。
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実は、最近、「10万ドルくらいの物件を買いたいと思って相談をしていたが、”そのランクは扱っていない”と断られてしまった」というご相談者様がおいででした。しかし、私は、むしろ、”お断りされた業者さん”に、あっぱれと申し上げたいです。
早速相談者様にも、「それは、よかったです」とご返信しました。
理由は、ズバリ、そのランクの物件を買っても、賃貸経営は、困難を極めるだろうということが想定されるため。
米国籍、米国居住者様なら、米国内で与信があるので、10万ドルを頭金に使い、ローンを取ることができますが、現在、在外者には外国人ローン取得は難しいため、10万ドルという大金は、「たかが十万ドル」の扱いになってしまいます。
このランクの物件では、賃料は、800ドル、850ドルといったところでしょう。
850ドルが世帯月収の3割というと、逆算して、賃借人の世帯年収は、3万4,000ドル程度。
米国の世帯年収の中央値が5万9,000ドルになっている現在(子供がいる場合は6万8,000ドル)、10万ドルという投資額で、学生や20台向けのワンルームではなく、家族持ち向けも対象に入る2ベッドルーム以上の物件を選んでしまうと、気をつけないと「貧困層」への賃貸という逆風を要求されることになります。
収入が400万近いのに、貧困層というと怪訝に思われる方もおいででかもしれませんが、給料、住居や医療費の高騰が著しい米国では、これは、世帯年収でいうと、ボトム3割に入ってしまうので気をつけましょう。(個人単位であれば、ちょうど中央値です。)
しばらく前ならいざしらず、2018年の今、エリア的にも安定するところで購入するのは難しいので、予算が10万ドルの場合、「エリアが改善するのを期待して」ということになってしまいます。
そこで、ジェントリフィケーションという話題になるわけです。
ジェントリファイとは、改善する、向上する、という意味で、不動産や都市計画上、エリアの人口統計学的な属性が向上することを言います。
よく知られている例としては、ニューヨークのミートパッキング・ディストリクト(Meatpacking District)、でしょうか。
その名の通り、倉庫が並んでいて、肉屋さんが多く営業する商業エリアだったはずが、いつの間にか、おしゃれなナイトライフやショッピングがエンジョイできる高級な場所となったということですね。周囲の居宅も、おしゃれな高額物件が次々誕生することになりました。
マンハッタン全体に対してミートパッキング・ディストリクトの住宅価格がいかに高騰したかについては、グラフを含め、下のリンクをご参照ください。
こんなことが、我が物件のあるエリアに起これば、しめたものですよね。
ということで、米国経済が成長する中、こうした期待を胸に抱く投資家様もおいでかもしれませんので、ここで、統計で出ていることを、多少紹介してみたいと思い立ったわけです。
結論から言うと、「10万ドルで家が買えるような街では、ジェントリファイは、起こらない確率が高い」と承知しておきましょう。
まず、援用しようと思うのは、1970年から2010年にかけて、「貧困エリア」と判断された1,100区画のエリアを、実に40年にわたってフォローした研究。
原文は、下のPDFから御覧ください。あるコンサルティング会社の研究員が、都市計画の大学の先生と共同発表した論文です。
Neighborhood Change, 1970 to 2010
Transition and Growth in Urban High Poverty Neighborhoods
1970年段階で、人口が3割以上、貧困と定義された1,100区画のエリアを主要都市でピックアップ、その後をフォローするという研究。対象となるエリアの区画の総数は、1万6,000区画ほどですので、当初、全区画のうち、6.8%において「居住者のうち、3割以上が貧困層」でした。
40年後、これら1,100区画のうち、750区画が、依然、「人口30%以上が貧困」に該当しました。大雑把に言って3割が、「脱貧困エリア」を果たした?と言うことです。
しかし、この数字をみて、「3割の打率でエリアがジェントリファイ出来た」と言えるでしょうか。
更に突っ込んで、「エリアの貧困率が、全米貧困率より低くなったエリア」をピックアップするとします。単に、「脱貧困エリア」だけではなく、ミートパッキング地区が周囲のエリアよりずっと良いエリアになったのと同じように、「周囲より良いエリア」になる確率ですね。
そうすると、1,100区画中、100区画しか、該当しなかったのです。つまり、10%を切ります。
その上、1970年の段階で、「貧困率3割未満」だったエリアは合計1,100区画だったのが、2010年の段階で、その区画総数自体が、3倍になっていたのです。
つまり、「ダメエリア」の1割のみが、ジェントリファイした。
その半面、「貧困率3割でない」はずのその他エリアのうち、2,000区画ほど(1万6,000区画のうちの1割以上)が、40年の間に「貧困率3割エリアに格下げ」になったようなのです。合計すると、”ダメ区画”は、全対象区画のうち、7%弱から実に19%へと、比率を上げています。
中長期不動産投資をする際に、流石に40年の期間を想定するのは行き過ぎでしょうから、この調査で、毎10年毎の経緯が発表されていれば、もっと、不動産投資家にとってはメリットがあったかと思いますが、51億人が居住する都市部広範囲エリアを対象とした大規模調査であるため、ご紹介しました。
他に良い研究がないかと、見ていくと、例えば、ハーバード大学の研究者がグーグルの協力を得て行ったシカゴ貧困エリアの調査というのがあります。
ここでは、「白人が、人口比35%以下のエリアでは、ジェントリフィケーションは起きなかった。黒人比率が4割上の地区でも、難しかった」という、人種多様化(脱黒人化)が一つのメルクマールとなっていたという話です。
Stark findings in Google-enabled study of Chicago neighborhoods
この他、2013年のクリーブランド連邦準備銀行の調査においては、「NYやサンフランシスコ、ボストンなどの大都市では、ジェントリフィケーションがより頻繁に起きるが、それ以下のランクの都市ではそれほど生じない」という傾向が出ています。
Gentrification and Financial Health
その研究では、2000年から2007年までの間にいろいろな都市において、
「物件価格が下位5割に該当するエリア」が、「上位5割ポジションにアップするかどうか」
をジェントリファイの定義としています。
そうしたところ、調査対象となった全都市の平均的なジェントリフィケーション比率は、1割。つまり、「下半分エリア」の1割のみしか、「上半分エリア」へと上昇をしていません。
しかも、対象エリアの1割以上においてジェントリファイ(物件価値上昇)が起こった都市は限られており、リストアップすると、主要都市でのほうがジェントリファイの傾向が強く、フツーの地和都市は、平均値である1割をクリアしないことが一般的であることがわかります。
ニューヨーク18%
サンフランシスコ13%
ボストン26%
ワシントンDC19%
シカゴ16%
それに対し、日本人や富裕層に人気のはずのホノルルの場合、この時期、「下半分」の物件が「上半分」にアップした確率は実に4%にとどまっています。マイアミやヒューストンなど、一級都市に比べ、価格がそれほど割高でないということで、近年熱い都市も、2000年から2007年までの間のジェントリファイというのはそれほど起こっていない様子。
このように見ていくと、不動産が値上がりするに当たり、誰でもが、ある程度、普通に恩恵を受けることができるインフレ、景気という2大要因に比べ、ジェントリフィケーションのメリットを受けることが出来るエリアというのは、相当限られる気がします。
投資の場合、もちろん、エリアを選んで行うため、この統計はそのままには当てはまりません。現地のことに詳しい人が、具体的な材料がわかって、数年後に向け、戦略的に行動しているようであれば、エリアのジェントリファイの可能性は、1割よりずっと高いだろうと思います。
それでも、このベースラインになる数字は、「数年以上先のエグジットを前提に、割安物件を探そうとする投資家」にとっては相当恐ろしい数字ではないでしょうか。
現在、成約物件の中央値は、23万ドル。特段、特徴のないフツーの中古物件がこの値段なわけで、ロケーションが「フツーより良い」場合は、これに、場所代が上乗せになります。それ以下の価格の物件を投資として長期賃貸用に買うときは、それなりのリスクが生じる可能性があることを想定して行動しましょう。
《今現在、10万ドル前後またはそれ以下で、米国不動産投資に参入されたい場合は、賃貸経営に乗り出すより、REITを利用されるのがベターだと感じます。私自身は、こうした問題に対応するに当たり、長期にわたってエリアにコミットしなければいけない賃貸経営ではなく、「短期展望」に基づいて行動することで、リスクをコントロールするようにしています。このご予算から参加が可能ですので、ご関心がある向きはメルマガご登録されてみてください。》
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☆ この記事では、都市計画の権威、RICHARD FLORIDA先生の下の記事で紹介されていた研究をピックアップしました。
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