数字のマジックにご注意
投資というのは、数字を見て行うものですが、実は、この解釈は、初心者にとっては、大変難しいものでもあるということを、知っておいて損はありません。
統計や、各種資料が豊富なアメリカにあって、こうした「マーケッティング資料」をどう解釈するかは、こちらのほうのリテラシーにかかっています。
実は、この前、こうした「統計」を利用して、自分に都合のよい結論を引き出し、物件案内を魅力的に見せようとしている例を、見かけました。
物件を掲載していた業者さんに問い合わせをしてみましたが、「その物件はもう売れています、詳細は、自分には、よくわかりません」ということでした、、、。
その物件案内によると、
■ このエリアは、ここ、1年で、14%台のappreciation【値上がり】を経験している
といった趣旨のことが書かれており、資料が引用されています。
しかし、せっかくなので、引用されている一次資料を、確認してみると、それは、小さいエリアごとの、過去のaverage sales priceを示しているものです。
つまり、2006年に、当該物件が存在しているエリアで、取引された物件の価格の平均値と、2007年の、同エリアで取引された物件の価格の平均値とが、比較されている資料なわけです。
確かに、平均売却価格を比べると、14%台の値上がりが、当該エリアで経験されていることは、好材料といえます。
ですが、細かく言えば、それは、別に、ある家が、実際に、翌年、14%の値上がりを記録したという意味ではなく、その事情には、いろいろな状況がありえます。
たとえば、、
■ 2007年に、新築物件の分譲がそのエリアで行われ、中古より少し高かった
といった理由ですね。
いずれにせよ、そのエリア別統計の母数は、このエリアについては、300軒台と、多いともいえません。しかも、前年度には、400軒に近い売買が行われているのが、2007年度には、13%の販売軒数の減少を見ていますから、「売却軒数自体は、落ちた」ともいえるわけですね。
興味を持って、そのエリアの話を地元のレアルターに聞いてみたところ、「これまで、悪いエリアだったのだが、ダウンタウンに近く、その意味で、近年、便利だといったことで、見直されている」といった感じのことを言っていました。
こういう場合は、管理なんかは、当面、苦戦するかもしれません。
まだ、「昔このエリアに居住していたタイプの人たち」を相手に賃貸することになりそうです。新しく移り住んできてくれるヤッピーのような人を入居させるには、間がかかるのですね。
また、当該物件は、いわゆる、multifamily(二軒屋)なのに、周りは、値段が半分の一軒家ばかり。
直近エリアで、二軒屋物件の近隣売却歴があまりなさそうなのです。実際、去年売買が盛んだったのは、一戸建てタイプばかりなのですね。
そうなると、当該物件については、頼りの物件査定も、それほど、精度が求められない可能性があります。
現在のアメリカの銀行は、審査が厳しく、物件に対する目は、厳しくなっています。
なので、この傾向が続けば、購入後、数年後に、喜びいさんで、「リファイナンスのための査定」を受けたら、購入時に当て込んでいたよりずっと低かった、といった可能性も、完全に排除は出来ません。
この、査定の問題は、私も物件を扱っていると、よく対面する問題で、査定の精度が安定するためには、
■ 直近1マイル四方に、
■ 直近6ヶ月以内に
■ 対象物件と比較できるような種類やサイズの物件の売却歴が多数
あるという、「取引の活発さ」が要求されるのです。しかも、
■ 競売などがたくさんあるエリアだと、査定も、そうした方向に引きずられがち
なのが現実。
こういう「理想条件」がない中での査定は、業者さんや立場によって、30%も誤差があっても、まったく不思議はありません。
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いかがでしょうか。
お叱りを受けるかもしれませんが、私自身は、その地域のマーケッティングの統計というものを、あまり、細かく見ていく手法は、好きではありません。
「どう解釈するか」「どんな数字を引っ張ってくるか」というのは、「言ったものがち」「好きなものを使う」という面もなきにしもあらずなんです。
上の物件が存在する都市は、総合的に、4-7%の値上がりが安定して見込めるといわれており、それは、別にうそではないわけです。
しかし、初級の遠距離投資家は、気をつけないと、こういう「統計」を見て、その都市の「よい物件」と、そうでもない物件の区別がつきにくいまま、投資を始めてしまうはめに陥りかねません。
当該物件は、どうやら、満室でも、数百ドルのロスが計上される計算。いったん、二つの部屋が、空室になったら、毎月、30万近くのローンを払うことになります。
総合的に言って、高収入のアメリカ在住者の投資案件1件目には、おかしくないかもしれないとは思いました。マイナス分が、税金の控除の対象になるからです。
しかし、融資条件が劣る日本在住者が、短期値上がり期待をするような形でエントリーをしてしまったら、はっきり言って、「計算が甘かったことを後悔するかも」かも、と思わざる得ませんでした。
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こういう「数字のマジック」には、引っかかる人が後を立たないということがあるため、ちょっと、注意を喚起するため、この記事を書きました。
「そんなことが?」と、びっくりされた方は、私のセミナーなどに、ぜひ出席して、こうした「マジック」にとらわれずに、【自分にとっての物件のよしあし】(自分の状況はほかの人の状況と違います!)を、冷静に物件を分析する目を、培う努力を、払っていただきたいと思います。
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