アフリカン・アメリカン化が加速する? ボルティモア暴動に思う
対米不動産投資家の中山道子です。
2015年ゴールデンウイーク中に、ボルティモア暴動の結果としてか、関係警察官6人が起訴されました。
これは、警察に逮捕されたエディー・グレイ(25歳)さんが、署に搬送中に、車の中で死亡をしたということがきっかけ。いわゆる、警察によるBRUTALITY(暴行)問題の一環と認識され、抗議行動が激化し、州知事による非常事態宣言が下され、なんと州兵が1,500人動員される事態になったということです。
平和的なデモも行われていた反面、警官に対する投石の他、放火、略奪などが行われ、何十人もの逮捕者が出たと報道されました。
しかし、今回は、地元の暴徒に対し、全米ネチズンの目は、とても冷たいのが特徴。
被害者に同情が集まっていないわけではないのですが、ボルティモア市の場合、人口の6割が黒人で、黒人女性の市長、黒人男性の警察長官、黒人女性の州検事総長と、トップ関係者も、黒人ばかり。関係する警官6人のうち、3人も、黒人です。
今回、「黒人に対する警察による差別的暴力」を非難するデモの突き上げをくらい、州の検事総長は、これらの警察官6人を早々に起訴することに。十分な時間を使って立件ができると冷静に判断したからではなく、「早く起訴しないと市民が暴れるかもしれない」という政治的判断が先にたったと思われてしまいました。
警察長官も、今回のこの「スピード起訴」には、街を守る警官を守るという観点から、不満を抱えているといわれています。
大手メディアは、まだ、意見記事などは出さない構えですが、ヤフーニュース報道に、ネチズン・コメントが日本時間5月3日段階で、5,000件近くがついており、みな、暴動に、批判的なのが特徴的です。
発言者の人種は、わからないものも多く、コメント内容からは、確かに、黒人が多いようには見えない反面、ヤフーアカウントが必要なので、単なる匿名「ネトウヨ」式の感情的な人種差別発言が連ねてあるわけではなく、短いながら、みんな、それなりの見識を持って発言していますので、世論の動向を読むのにも、参考になります。
記事自体は、検事総長による警官起訴の決定を受けて、暴徒が沈静化し、普通のお祝いムードのデモ行進へと変わるという概要。
Peaceful Baltimore demonstrators praise top prosecutor
コメント例は、下のような感じです。
「政治的な起訴だ。これで、証拠を調べたら、無罪だったらどうなる?」「こうした黒人や、暴動を扇動する黒人運動の指導者たちは、自ら反省するところはないのか? 犯罪はよくて、取締りはいけないのか?」「今の米国社会は、十分多様で、いろいろな民族の人間が、成功を目指して切磋琢磨しあっている。アフリカ系アメリカ人男性だけが、なぜがんばれない?」などなど。。。
今回のケースでは、死亡したグレイさんが、実際にドラッグ売買に関与していたらしことや、警官側が全員白人で、被疑者だけが黒人といったあからさまな構図がないといった状況も大いに関係していそうです。
下は、不動産にからむという観点から特に興味深く思ったネチズン・コメント。
「勝手に祝杯を上げていろ。これまでだって、ボルティモアは、ビジネスローンや住宅ローンを取るのが、大変だっただろう? 今後は、不可能だぞ。 万が一、奇跡的に、家屋、ビジネスが購入できても、保険をかけることができると思っているのか? 車の保険にいくらかかるようになるかも考えたのか? ボルチモアは、20年たっても、回復できないような経済的ダメージを、自らに課してしまった、、、」
"Go ahead and celebrate. Think it was hard before to get a business or residential loan in your community before? impossible now. If you are somehow able to start a business or buy a house, what type of insurance can you get and how much will it cost? How much more will it cost to insure your car in those zip code now? Yes, congratulate yourself now and blame whitey later when your community can't even marginally recover 20 years from now."
今日は、この論点を、検討してみたいと思います。
さて、属性という観点からだけではなく、地域、エリアによっても、住宅ローンのデフォルト率が変わるのも公然の事実。
しかし、私たちが思い至っていないこともあります。
この前、ある論文を読んでなるほどと思ったのですが、信用情報以外に、エリアリスクを勘案することは、フレディーマックなどの連邦関連機関が保証する一般的な住宅ローンでは、されていません。
これらのローンにおいては、ボルティモア市内で、与信がいい人が物件を買おうとしたら、郊外で、同じ与信の人と同じ利率になるのです。
しかし、実際には、暴動発生なんかまで考えると、火災発生率や損害に関連する各種コスト、リスクは、市内と郊外ではまったく異なります。つまり、融資を出す際の銀行の負うリスクは、明らかに、属性のみならず、エリアによっても、違うわけです。
属性に基づく融資判断をすることは、当然と思われています。しかし、エリアについては、、、
この論文は、このように、実際には、大きなギャップが生じているのに、現在、平準的な融資が行われている理由は、政治的なものである可能性が高いと指摘した上で、「試算すると、この政策の結果、エリア・リスクが低いエリアからの高いエリアへ、恒常的な穴埋め補填がされている可能性が、大きい。これは、不公平かつ不合理。困窮エリアに対する財政的支援がしたいなら、回りくどいやり方をせず、そうしたエリアに、直接、富の再配分の観点から、貧困対策として、財政補助をするのが合理的ではないか」という指摘をしていました。
非営利の全米経済研究所(NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH)で発表されたペーパーへのリンクは、下から。ノーベル賞受賞経済学者が多数籍を置き、政府諮問機関としても大きな役割を演じる権威ある研究所です。
Regional Redistribution Through the U.S. Mortgage Market
2015年のこの3月に発表されたばかりで、評価はまだわかりませんが、政治家はともかく、この原則論に反論できる経済学者は、いないのではないでしょうか。
私の認識では、この論点は、不動産業界、住宅政策上、ほとんど取り上げられたことはありません。しかし、まさに、今回のボルティモア暴動に関連する上のコメントを読んで、思い出してしまいました。
というのも、住宅ローンは、このような「政治的な支援パッケージ体制」があるので、ひょっとすると、今後も、住宅ローンの利率は、あまり変わらないかもしれません。しかし、とはいっても、逆に、だからこそ、「それじゃあ、もう、このエリアには融資しない」という銀行が増える可能性は大いに高まったわけです。
ダウンタウンの商業物件に対するローンは、こうしたレベルの連邦助成(や規制)はないはずなので、より顕著に、影響は出るでしょう。
しかも、火災などの保険については、確かに、すでに、リアルタイムで、料率がまったく異なり、住宅を購入したのにもかかわらず、保険をかけることがなかなかできずに、みなが大変困っているエリアというのが存在することは長らくわかっており、政策的な対応も行われてきました。
それが、例えば、デトロイト市の例。
デトロイト市では、特にデモが大問題になったケースは、昨今ありませんが、長年の財政問題の結果、警官の数が激減し、犯罪は、長らく野放しになってきたといわれています。スタッフがいる消防署と警察が連携しなければ、放火などは取り締まれません。このため、デトロイト市内では、家屋に保険を提供する火災保険会社が、どんどん少なくなっています。現在、「市内のどのエリアでも、利用できる保険」というのは、州と保険会社が共同で設立した非営利の最低保険(MICHIGAN BASIC)の制度が、最後の砦なのです。
そもそも、こうしたエリアというのは、児童公園すら、ないものです。公園を作る資金がないのではなく、メンテナンスをすることができないためですらなく、まあ、そうした建設のための財源という要因も、ないわけではないですが、地元の方々が言うには、最終的には、
《公園に、保険会社が、保険をオファーしてくれないから》
公園が、作れないんだそうです。
行政の許可や財団の支援による公園設立には、必ず、「保険をかけること」という条件があります。当然ですね。そして、デトロイトのような都市部では、これが最終的には最後のネックとなり、人々が和む場所が、ますます失われていくのです。
アメリカというと、豊かな自然環境や立派な公園を思い浮かべる方々は多いと思います。アメリカ駐在を経験された方なんかは、米国の豊かさに触れ、大変なアメリカ贔屓になって帰国されることも多いです。しかし、それは、「”お客様”や郊外族が見るごく一部のアメリカ」。実際には、お稽古事や私立学校どころか、「近所の児童公園への散歩という、”無料と思われているレベルの子育てリソース”すら、ほとんど経験しない状態で成長する子供たち」というのが、大量に存在する、それが、現代のアメリカでもあります。
ボルティモアの不動産事情、保険事情はまったく知りませんが、一部市内は、デトロイトの状況に、すでに似たようなレベルのはずと見ました。こう考えてみると、今後の「デトロイト化」は、このネットのコメントが危惧するように、避けられなくなるかもしれません。今は市内に3割存在する非黒人層も、これをきっかけに、さらに郊外への転出を加速化させていくことでしょう。
ボルティモア市内から通勤で一時間以内のエリアには、メリーランド、ワシントンDCエリア、さらにはバージニアと、米国最大面積を誇る高学歴・高所得者の居住エリアが広がっていますので、引越し先には、事欠きません。
連邦が、初の黒人男性大統領を誕生させ、その黒人大統領が、初の黒人女性を連邦検事総長に任命したというこの歴史的地点に立っても、一般的なアフリカ系アメリカ人男性とオーソリティーとの関係は、悪化する一方。国政レベルで活躍するこれらハーバード学閥のアフリカ系アメリカ人を見て、自分のロール・モデルと認識できるストリートの子供は、相当少ないだろうと思われます。
歯車の掛け違いが、ますます、状況を悪化させるこのマイナス・スパイラルが断ち切れない今、今後の都市格差は、ますます、進行していくかと嘆息をせざるを得ません。私たちにできることは、投資先に、注意をすることだけです。
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