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私にも、あなたにも、大家がつとまらなくなる日が来る! 投資判断のピークは、53歳で、後は下り坂だそうです

対米不動産投資家の中山道子です。

当然ながら、私の周囲は、不動産をやっている人たちばかり。お仕事上の知り合いは、ほとんど、

□ 大家さん業
□ 不動産関係者
□ 大家さん業参入希望者

といった感じでしょうか。

別の投資に成功した方が、不動産投資に着手しようとするパターンも、結構あります。

そういう場合、「どうして、今まで、不動産なんかやらずに、うまく行っていたのに、わざわざ、途中から、初心者になって、不動産投資のほうなんか、行こうとするか」というと、いくつか、パターンがあって、

□ 税金対策 減価償却や相続税対策が必要
□ 資産額が大きくなり、投資先を多様化しなければいけない
□ 株式など、今やっている投資に疲れる

という感じです。「投資で成功し続けるプレッシャー」というのは、成功者の場合、なおさら、ステークが大きくなり、疲弊感を伴うものなのだというのが、コンサルタントを名乗るようになってからの私にとっての気付きでした。今日は、こうした「中途転向組」も含め、

不動産投資業で成功することで、老後の安定が確保できる

と思っている方に、”素敵な警告”です。

実は、現役の大家さんも、みなさん、「そういう風」に思っているように見えることがありますので、私の考えを述べます。「そういう風に」というのは、「どういう風に」かというと、実は、私は、不動産で成功した後のエグジットを、正確にイメージしているように見える投資家さまに会った記憶がありません。まあ、手仕舞いするときは、人に相談する必要がないのかもしれませんので、私の個人的な印象は、脇におきましょう。


しかし、一般論として、あなたも(私もですが)、今後、高齢となり、いずれかは、死を迎えることになるわけですが、お互い、”お迎えの日”の朝まで、ばりばり、第一線で、不動産投資稼業が勤まるわけではありません。

パッシブインカムとはいいますが、不動産投資稼業というのは、自分で投資物件を管理しない場合でも、要所要所で、大きな決断を伴います。

お子さんが、必ず継いでくれるわけでもありません。配偶者が、そのとき、若くてエネルギーがあまっていて、リテラシーが高く、すぐに交代してくれる状態にあるわけでも、ないでしょう。

不動産だけではありません。多くの主体的な自己充実型投資活動は、頭が働く間に、自主的に、店じまいをする時期を決めることが必要になる場合のほうが多い可能性があるのです。


成功しているサラリーマン・タイプの大家さんの場合、マメで仕事熱心ですから、最後の最後まで、出入りの業者さんとの打ち合わせをし続け、現場で、ばったり行ければ、本望という人もいるかもしれませんが、そんな都合のいいことには、なりません。

それでは、どんな風になるのでしょうか? 例によって、研究小国のわが国には、たいした調査はありません。米国では、日本に先行して、参考になるリサーチが出始めていますので、見ていきましょう。

血の凍る2009年のある研究によると、「金融商品に関連するリテラシーは、一般に、53歳がピークで、それ以降は、下降線をたどり、85歳になった段階では、半数が、認知症となる。医学的な認知低下の診断が下されていない場合でも、実際には、高度に知的なレベルの能力は、低下の一歩をたどるものである。」のだそうです。

The Age of Reason: Financial Decisions over the Life Cycle and Implications for Regulation


注) こうしたアンケートの性質上、有効回答を寄せるほどの認知能力のない人を、集計上、計算に入れる方法は、ないため、アンケートの回答は、実際の分布状態より、高齢者の能力が高く反映される傾向が強いことを前提に、結果を読み込むことが必要です。


これは、連邦準備制度理事会直属の研究員やハーバード大学の研究者などが集まって行った調査。与信(信用)に関連する経済取引を10件取り上げ、商業データバンクの情報から抽出して調査したもので、大変読み応えがあります。理性の年齢というタイトルは、独立革命運動にも熱心だった哲学者トマス・ペインの著作『理性の時代』へのオマージュらしいですが、それはよしとして、内容をご紹介しますと、こんな感じです。

《概要》=============

ABSTRACT Many consumers make poor financial choices, and older
adults are particularly vulnerable to such errors. About half of the
population between ages 80 and 89 have a medical diagnosis of
substantial cognitive impairment. We study life-cycle patterns in
financial mistakes using a proprietary database with information
on 10 types of credit transactions. Financial mistakes include
suboptimal use of credit card balance transfer offers and excess
interest rate and fee payments. In a cross section of prime
borrowers, middle-aged adults made fewer financial mistakes
than either younger or older adults. We conclude that financial
mistakes follow a U-shaped pattern, with the cost-minimizing
performance occurring around age 53. We analyze nine
regulatory strategies that may help individuals avoid financial
mistakes. We discuss laissez-faire, disclosure, nudges, financial
“driver’s licenses,” advance directives, fiduciaries, asset safe
harbors, and ex post and ex ante regulatory oversight. Finally,
we pose seven questions for future research on cognitive
limitations and associated policy responses.

統計上、80から89歳の人口の約半数が、医学的な認知症診断を受けている。10種類の信用を使った経済取引履歴を調べたところ、「最適な判断を下せた」年齢は、中年層で、それより若くても、高齢でも、間違いが多かった。間違いの例は、例えば、クレジットカード加入条件で、他のカード借金をまとめなおす一括タイプのカード融資のオファーや金利条件、手数料の支払い表において、自分にとってもっとも最適なカードを選べているかといったことである。結論として、経済的なリテラシーは、人の一生において、U字型の能力であると結論付けられる。最適年齢は、大体、53歳くらい。このペーパーでは、こうした問題を受けて、個人の経済取引にかかわる判断低下の問題に対する政策提言を9つ検討する。また、将来の認知問題とそれに関連する経済政策に伴う7つの質問を提案する。

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米国でも、高齢者、リタイヤ世帯は、資産が多く、2007年の調査では、65歳から74歳の世帯主を擁する世帯の資産中央値は、 $239,400ドルだったそうです。(年金等の定額収入を含めない)今後、さらに、ベビーブーマーのリタイヤが進みますので、所得より、この世帯資産のほうの伸びのほうが大きいだろうと予測されているということです。

このように資産もあるはずの高齢者世帯ですが、ローンなどの負債もたくさん抱えています。同年のこの調査では、47.9%が、自宅にローンがあり、26.1%が、そのほかに、何らかの月払いローン返済を抱えていました。また、65.5%が、何らかの借金をしていたのです。

こうした中、民間データベースで、「プライムレート(市中最低金利)で融資を受けている人の層」の年齢分布を、人口比で調べると、「若年」や「高齢者」より、中年層が、一番、比率が高いということです。

10件の経済取引を年齢層ごとに調べると、中年層が、最も安い金利や手数料を払っており、そのピークは、53歳。

調査された具体的な取引の内容は、

credit card balance transfer offers, home equity loans, home equity
lines of credit, automobile loans, mortgages, personal credit cards,
small business credit cards, credit card late payment fees, credit card
overlimit fees, and credit card cash advance fees。

つまり、クレジットカードの一括借り換えのオファー。自宅のエクイティを使って、融資を受けるタイプの取引。自宅エクイティを使い、出し入れ自由な融資枠を設定する取引。自動車ローン。抵当権。クレジットカード新規入会のオファー。小規模事業主のクレジットカード。クレジットカードの返済が遅れたときの延滞手数料。クレジットカードの限度額を超過したときに、払う手数料。クレジットカードを使ったキャッシュ前借りの条件。いずれも、複雑ですが、確かに、現代アメリカの生活に欠かせないものばかりです。

具体的に、どんな行動の差が見られるのか。

例えば、自宅のエクイティを使った融資を受ける場合、自宅の担保価値が、20万ドルだとします。米国では、不動産は、通常、融資比率8割までが、金利が一番安く、それ以上の融資比率を要求するときは、利息の上乗せを覚悟しなければいけません。

融資希望額を、20万ドルの8割の16万ドル以下と書類に記入すれば、金利は、最低ランクになります。若年層や高齢者が、高い利率を払っているケースを調べたところ、こうした人々は、自宅の価値を高めに見積もってしまい、その結果、18万ドルの融資を受けたいといった書類を作成していたことがわかったというのです。

こうなると、実態としては、銀行の観点からすると、9割融資。特にその段階で、「その比率では、金利は高くなりますから、16万ドルで我慢したらいいですよ。」などという丁寧なコンサルはなく、「この家を担保に、18万ドルを引き出したいなら、金利はこれこれです」といった回答としかならない、というわけです。

統計上、70歳が、「金利が一番低いローンではない自宅のエクイティローン契約をしてしまう」確率は、50歳のそれに比べ、16%も増えるというわけ。あまりにいろいろわかりすぎて、怖い論文です。

若年者についても、同様の間違いはあり、上のケースで、20歳の人間が同じ間違いを犯す確率は、50歳に比べ、驚きの35%と高齢者より、さらに、ずっと高いです。

ただ、若いうちは、認知症の問題ではないほか、所得を伸ばして回復することができます。

では、金融取引に関する能力とそもそも、どんなものをいうのかというと、論文では、経済取引に利用される知力には、「認知力(fluid intelligence)」と、「経験力(crystallized intelligence)」があるとされています。

後者は、社会経験を通して培われ、高齢になってもそれほど失われず、むしろ、認知力の低下を補いえます。若者は、認知力があっても、経験力がないため、間違いを犯しますが、中年は、若いときより、多少認知力は落ちてくるものの、経験力は、大きくピークを迎えるため、スイートスポット。しかし、経験力は、ある程度のレベル以上は、伸びません。そのため、中年層の認知力が、さらに大幅に下降すると、高齢者の総合的な決断能力を支えるほどの力はなくなるのだそうです。

上の間違いの例をとると、20歳のときは、掛け算なんかでは、間違いを起こさない反面、「融資比率が、金利に関係する」という経験知がないために、オーバーローンをしてしまうという間違いを犯すわけですが、その後、社会にもまれるようになれば、この社会のからくりを理解するに至ります。

そのため、50台では、最も多くの人が、「8割ローン」で満足するという自己の利益に最適な投資判断行動を取れるに至っています。

しかし、70歳の時に同じ間違いを犯す段階では、「いったん、それがわかっていたはずなのに、この経験知による蓄積にもう依拠できないレベル」の何らかの知力悪化(例えば、その法則を忘れてしまったとか、パーセンテージの算出方法がわからなくなっている、または、自分の物件の市場における価値を受け入れられないとか)を迎えてしまったことを示すわけですから、若いときより、ずっと深刻なわけですよね。

これ以外に、具体的な政策提言などがありますが、ここではいいでしょう。


いかがでしょうか。

高齢化に伴い、「リタイヤ資金を作らないと」という熱心な「金持ち父さん化」が、世界中で起こっていますが、私が知り合いになる最も一般的な壮年期のサラリーマン系不動産投資家というのは、皆さん、とことん、肉食系。

□ 物件を取得し、満室経営だ
□ 中古で実績ができてきたら、次こそ、新築だ
□ 地方で始めるが、いつかは東京に
□ 日本で成功したので、今度は、海外だ
□ リタイヤしたので、仕事がある子供に減価償却を使わせる

と、欲望には限りがありません。

サラリーマン系大家さんでなくて、「駆け込み系」というのもあります。ビジネスなどで、資産があり、それの相続対策に、70歳を過ぎて、初めて不動産に着手。「中年の子供のために、新築アパートを立ててあげてから死にたい」というわけです。こういう場合、お子さんも、不動産は初級者。壊滅的だとしか、言いようがありません。

この資料を見る限り、「50過ぎまでは、拡大志向でよし。しかし、60歳以降は、資産を守りながら、どうやったら、決定的な投資決断から、徐々に距離を置き始めるか」のほうに、重点を移していく必要があるかもしれません。

別の言い方をすると、若いときでも、起業はリスクがあるわけで、30台ではじめた不動産投資が、成功し、安定したため、50台で拡大するとか、会社経営のトップが、ベテランの60台であるという話なら、順調に経験知を増やしていっているケースといえるだろう半面、60を過ぎてから、個人が、一人で、まったく新しい投資=ビジネスに一から着手するとしたら、それは、統計的に、大いに疑問符がつく高リスク行動である可能性を、考えて行くべき。

さらには、自分が70歳のとき、遅く生んだ子供が、まだ30歳だったら? 調査によれば、現代社会における普通の人間の金融判断能力のピークは、53歳。よほどの英才教育を施さない限りは、普通のサラリーマンは勤まっていても、また、お子さんにやる気があったとしても、複雑な投資判断の連続である不動産投資ビジネスを継承できる器に育っているとは、限りません。

成功している不動産投資家というのは、私の印象でも、本当に、若々しく、前向きで、エネルギッシュ。しかし、それでも、老化は、進行し、認知症の診断を受けるまでに至らず、日常生活は十二分に送れる場合であっても、高度に知的な判断能力は、年々、劣っていくことが、知力テストの結果から、わかっています。

なので、相続対策もいいですが、不動産というのは、盆栽と一緒で、高いバリューを持たせることはできますが、実態は、手を入れる人が、価値を作る、最終的には、私は、そういう商品だと思います。確かに、普通の仕事のように、1日8時間、週40時間かけていじる必要はないのですが、市場価値を、最大限、高く維持し続けることを考えたら、慣れない人間がはさみを持つのも駄目なら、目がかすみ、手が震えるようになってしまった人間が、はさみを手放さないのも、大いに問題なわけで、挙句に、最後の最後になって、「どうして、息子は、丹精をこめて育てた私の盆栽の世話を引き継いでくれないのか? 手をかければかけるだけ、応えてくれるのに。」などと言い始める時点で、第三者から見れば、もう、完全に、アウト。


今は、先進国では、どこでも、高齢者は、稼げる限り、できるだけ長く、働かないと、といった社会機運。特に日本は、急速な高齢化が著しいですから、いくつになっても、現役気分でいられる不思議な社会が急に登場してしまいました。しかし、私にも、あなたにも、大家がつとまらなくなる日が、必ず来ます。お役所が、ブーイングを受けながら、「高齢者対策」に、後期高齢者(75歳以上)という別カテゴリーを作ったことには、統計上、医学上、意味があるのです。

不動産投資家だけではありませんが、投資家は、市場や商品のリスク評価をするときのみならず、自分自身や家族を見る目自体にも、統計と確率とを冷徹に適用できるようにならなければ(それができる「理性の年齢」にある間に)、本当に成功したとは、いえません。

米国の調査で用いられた上の不動産のエクイティローンの例で出てきたように、仲介やセールスの人は、それが、社会的にステータスのある有名銀行の関係者であろうと、わざわざ、「こういう融資が一番お得ですよ」などとは言ってくれません。むしろ、高齢者に対する不健全な営業活動にどう対応するかは、犯罪行為も含め、米国のみならず、日本でも、すでに、深刻な社会問題となって久しいわけです。高齢者の消費者被害についての消費者センターの相談実例集は、こちらから。

SNSで、この記事を読んだある日本の不動産関係者様は、早速「80代になると、ようやく、オーナーの意識が変わり、その段階で、相談を受けることが多くなるが、熱心な大家さんほど、子供たちは、存外、興味を持っておらず、本人は本人で、所持物件の市場評価額に納得できなかったりと、なかなか、大変です」という趣旨のコメントをくださいました。市場が高く評価する投資物件なら、子供も、欲しがるはずでしょう。反対に、市場が低く評価する物件を、40、50になるまで、別のことで生計を立ててきた子供が、わざわざ苦労しに、継ぎたがるはずがありません。いいエグジットが見つからなくなってしまったケースというのは、つまりは、エグジットのタイミングを見失ってしまった物件である可能性があるわけです。

私だって、面と向かって、目上の方に、こんな話は、できません(のでこの記事を書きます。私のブログの読者は、ほとんどが、65歳以下なので、感情的にならずに済む今、読んでくだされば幸いですm_m)。これは、私たち一人ひとりが、自分自身に対し、言い聞かせないといけないことなのです。


中山からのお願いです。
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