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学区と物件価格の関係 究極の選択

対米不動産投資家の中山道子です。

日本でも、今、女性がもっと外に出て働くべきだという政策方向が打ち出されたようで、最近、保育園問題、学童問題などが、よく取り上げられるようになりましたね。

諸外国のほうが「働きやすい」、それに比べて、わが国は、、、という論調も見受けます。「米国ならこんなに恵まれている」といった記事まで見ることがあり、びっくりします。

私の実感では、数は足りていないという話ではあっても、公営の保育園があって、しかも、小学四年生まで、公立学校に学童がある日本は、米国より格段にいいと思いますが。。。

米国では、公立の保育園などというものはないので、福祉を受けられるような立場の父母であれば、割安の非営利のセンターのようなところに預けるオプションがある場合もありますが、大都市圏に居住する中産階級の父母の場合は、多くの州では、プレスクール時代から、毎週、300ドル前後、毎月、1,000ドル以上の保育費を払うのが当たり前。

よく、「移民ビザをちゃんと持っていないナニーさん」が話題になりますが、子供が二人以上いれば、保育園に入れるより、月給2,000ドルからの不法移民ナニーさんのほうが安いんですね。

学齢期になると、対策は、放課後とお休み期間だけになりますが、米国では、夏休みは、3ヶ月近くあるので、働く親は、祖父母に預けることが出来ない場合、通常、子供をサマーキャンプに行かせるしかありません。

節約志向の場合に便利なのが、YMCAなんかですが、安いところは、エリアによっては、行かせるのにためらわれたりする環境ですから、結局、郊外型の託児を志向すると、それほど面白みのないものでも、やはり、1週間250ドルからと相成ります。


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《写真キャプション:ミシガン大学アナーバー・キャンパスに面している一軒家。大学のスクールカラーであるネイビーブルーを上手に取り入れた外装がおしゃれです。このあたりは、リフォームしていないような古い家でも、田舎のミシガンとしてはトップランクの50万ドル以上が普通。本来なら家賃2,000ドルが相場ですが、学生に、一部屋ごとに貸せば、4ベッドルームの一戸建ては、月額家賃4×800ドル=3,200ドルの高キャッシュフロー物件になるというわけ。同じ学区でも、ここから車で5分で、物件価格は半額にもなり、また、30分運転すれば、物件価格が10分の1の学区エリアにもいけるという極端な状況です。中山撮影》

同じ夏の託児でも、教育熱心な親が、子供のために喜びそうなタイプの活動、例えば、今幼児や低学年なら、「モンテッソーリ式」、「コンピューター・キャンプ」「科学実験」「スポーツや野外活動」などが提供されるとなると、基本的な託児の倍以上の価格がつきます。

本当に多忙な親は、経済的に余裕があると、子供を、2ヶ月、宿泊型キャンプに長期に送り込み、「日曜だけ会いに行く」なんていう荒業を繰り出します。こういうところでは、毎週1,000ドル近くを覚悟することになります。

このように、「フルタイムで夫婦が働く」家庭では、米国では、私立なんか行かせなくても、夏だけで、1万ドルといった子供関連費を使うことが普通。田舎の祖父母が見てくれるといったオプションがない限りは、それ以下の予算だと、「周囲は、危険なインナーシティー部。子供は、実質、体育館に一日中閉じ込められているだけ」みたいな”残念”な託児オプションになってしまったりします。

国民の多くが、不況感に依然悩む今でも、いまどきの米国人の親御さん、通常は、依然、主としてママが、いくら高学歴であっても、「主婦になりたい、パートタイムでしか働きたくない、子育ては自分がやりたい」と思う傾向があると指摘されることもありますが、それも、むべなるかな。

夫婦二人とも、よほど、仕事が充実しており、しかも、そこそこ高給である場合を除いたら、普通は、一人がフルタイムで働き、一人が家庭を切り盛りしながら、子供が大きくなったら、フルタイム復帰する、その間、予算の折り合いがつく限り、学区の良いエリアに住んで、公立で済ませる、というオプションが、たぶん、一番、総合的な家計効率や教育効果が高いだろうと、はたから見ていて、私も思います。同様に、米国でホームスクール族が多いのは、登校拒否といった「問題児」対策というより、「近所の微妙な公立に行かせるのはいやだ。かといって高額の素敵な私立に行かせる予算もない」といった中間層のニーズの表れといった面のほうが強いのではないかという気もします。


■■■

さて、例によって、前置きが長い私のブログ記事ですが、この、「いかに子育ての教育費が、中産階級にとっては負担感となっているか」という問題が、今日のテーマ。

米国一般世帯の中央値は、5万ドル強。ドル高のせいで、日本より高く思えますし、実際、決して安い所得額ではないものの、以上のような教育費支出の前提からすると、この層にとっては、子供が二人いれば、子供を私立に行かせるというのは、家計自殺行為であることがわかります。(私立の学費は、安めのカトリックなど非営利宗教系で、7,000ドルくらい、普通は、1万ドル前半、エリート系になると、2万ドルくらいでしょうか。)

以上の事情を前提に、「いかにして、いい公立学区に住むことが出来るか」が、子供の将来と親の家計マネージメントにとって決定的な意味を持つことがお分かりになると思います。

そこで、統計。

2012年の記事になりますが、ドンぴしゃりの論考が、出ています。


Housing Costs, Zoning, and Access to High-Scoring Schools

ずばり、《住宅コスト、学区制と高ランクの公立学校へのアクセスについて》。

ゾーニングは、不動産用語では、「住専エリアか商業エリアか」などの、行政の土地用途指定のことを言いますが、ここでは、スクールゾーンのほう、つまり、「この学校に通えるのは、この近くの子だけ」という学区指定制のゾーニングのことです。

ということで、ここでは、あがってきているデータを見ていくことにします。

2010年と2011年に行われた8万7,011校を対象として行われたテスト結果調査分析によると、

「平均的な低所得層の家庭の子供は、州が施すテストにおいて、通常、42パーセンタイル(100校ある場合に、上から見て、ランキング上、58位)にランクする学校に通っていた。それに対し、中産層以上(つまり富裕層も入る)の家庭の子供は、普通、61パーセンタイルの学校(100校のうち、ランキングでいうと、39位)の学校に通っていた。」(引用論文の日本語意訳)

統計なので、個別ケースがこのようなものであるというわけではないですが、米国では、一般の公立は、通常は、学区内に居住していれば、誰でも行くことができるわけで、高校段階になっても、入学試験はありません。

つまりは、親の所得分布によって、子供自体の学力レベルに関わらず、子供にとって、通う学校のランクに差が出ているということになります。

その理由は、学区内の不動産価格格差であるという話になっているわけです。

「平均すると、100大都市圏においては、”州の学力テストのスコアが高い公立学校”の学区にある不動産物件の価格は、”州の学力テストのスコアが低い公立学校”の学区にある物件価格より、2.4倍、高額である。これは、年額費用換算すると、年間1万1,000ドル近い価格差。

 価格に直すと、実に、良い学区の物件は、悪い学区の物件に比べ、なんと、平均、20万5,000ドルも高い。物件は、通常、少し大きい上(1.5室分)、賃借人居住率は、なんと、30パーセント・ポイント近く低い。」(論文の日本語要約)

上の写真で援用したミシガン州アナーバー市の例を取ってみましょう。

アナーバーは、ミシガン大学(州立ですが、2015年タイムズ誌・世界大学ランキングでは、17位で、19位のコーネルや、23位の東大より上)のお膝元なため、いわば、カレッジ・タウンということで、市内は、どこも、学区は、大変よいと評価されています。市内の公立高校で、上位ウン%に入っていれば、ミシガン大学の合格ラインに該当するかどうか、大体、見当がつくのだそうで、便利なこと、この上ないですね。

そんなアナーバーに住むと、一戸建ては、大体、25万ドル位。それに対し、車で20分の隣接イプシランティ市に住むと、ここは、学区は良くなく、確かに、物件は、5万ドルからあります。本当に、差額は、20万ドルといって、間違いではないのです。

たまたま取り上げた「物件価格がそもそも決して高くない中西部のご近所エリア」でも、なんと、この統計が、的を得ているって、、、大汗

価格差もそうですが、最後の部分も、衝撃ですね。

つまり、低所得者層向け、劣悪学区の持ち家率が、40パーセントとすると、なんと、近所の良好学区における持ち家率は、プラス30パーセントの70パーセントとなるという。。。

こちらは、価格差以上に半信半疑で、上の例を見てみたところ、アナーバーは、賃借人率は、35パーセントほど、イプシランティは、67パーセントで、賃借人率は、本当に、約30パーセント・ポイント強、違いました!

すべてのエリアで絶対こうということはないでしょうが、しかし、いずれにせよ、一般傾向は、否定できません。良い学区の周辺物件は、より高く、また、賃貸物件の比率が低いのです。

補足すると、この論文の指摘によると、通う学校について、選択の自由が多少ある学区制をとっている都市部のほうが、通う学校について、選択の自由がほとんどない都市部より、学区ごとの物件格差が小さい(40から63パーセンテージ・ポイントもの違い)のだそう。

そこで、この論者は、政策提言として、「指定学区制を緩めるだけで、不動産市場が自由に動きやすくなり、低所得者に対する機会不平等が緩和される」と指摘しています。

そう聞くと、規制緩和は、自由競争原理から言っても、もっともな話だとなりそうですね。

ただ、そうなると、人気校への偏りの問題にどう対応するべきか(ここで選別試験を導入すると、たぶん、金持ちの子弟が入ってしまうという元の木阿弥になりそう)、市が違えば、結局違う市の学区に行くわけには行かない、そもそも、みんなが好きなところに通うことになると、スクールバスの通路対策はどうするのかなど、あらゆる現実的な問題も噴出しそうではありますが。

投資家としての本題である現状分析の話に戻ると、理想であれば、良好な学区エリアで物件を買ったほうが、賃貸が安定するだろうことは、想像にかたくありません。

ただ、実際には、投資家にとって悩ましいのが、中産階級の実需志向が高いこうした堅実なエリアというのは、第一に、物件価格がまったく違うだけではなく、第二に、学区を支え、子育てに良好な環境をサポートするために、固定資産税も高めなこと。それに対し、賃料の差は、通常、そこまで、違わないのです。

ここでも、上の実例を見ると、アナーバーで一戸建てを借りれば、2,000ドル前後、イプシランティであれば、800ドル前後からでしょうか。確かにすごい格差ではありますが、額面リターンを見ると、アナーバーで、10パーセント弱(25万ドル÷2万4,000ドル)、イプシランティで、20パーセント弱(5万ドル÷9,600ドル)と、投資家にとっては、イプシの高利回りのほうが、ずっと輝いてみえますね(笑)。

不動産の評価が、道路をひとつ渡ると、違う、なんていうエリアでは、評価の差の理由には、このように、「こっちの家に住めば、学校はA校だけど、通りの向かいのあっちの家だと、学校がB校にしか通学できなくなる」なんていう事情が潜んでいたりするのかもしれません。

投資家としては、こういった家族志向の高いエリアのほうが環境が良いことがわかっていても、利益を出すためには、学区を度外視することも多いでしょう。しかし、ファミリー向け物件の場合、その結果、ぶっちゃけ、より高い手残り、利回りを取るか、賃貸経営の安定性を取るか、という選択の岐路に立っているという場合もありえます。

もうひとつ、覚悟しておくべきだろうと思うのが、学区が高く評価されていないエリアの物件は、比べると、値上がりを見込みにくい可能性が高いこと、でしょうか。なんといっても、統計上、傾向として、そういう学区は、エリア平均の賃貸率が、異常に高いわけですから、物件売却を希望するときに、実需希望者向けにエグジットを希望しても、その学区に住みたいホームバイヤーは、それほど多くない割には、同じことを考える”売り手ライバル”が多すぎるわけです。

いわゆる不動産バブル時には、学区も、そこまで問題になりませんが、平時には、決定的なファクターです。

ものごとは、言うは安し、「だからこうしなさい」という明快な解決案があるわけではなく、基本的には、個別エリアごとに、「何を選択するか」「どんな戦略をとるか」といった具体的な方策に落とし込んでいく必要があるというだけにすぎないわけですが、投資エリアを選定するにあたって、学区の問題は、賃貸経営の安定性や、将来の値上がり展望に関連し、「知らない」では済まされない米国不動産に関わるひとつの現実ではあるのです。

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