保険をかければ大丈夫? 案外面倒ですので、お気をつけください
対米不動産投資家の中山道子です。7週間ほどの米国滞在を終え、ようやく中国に帰ってきました。米国は、何でも車で疲れますが、こちらでは、家のすぐ外に店が何軒もあるので、早速歩いて野菜をたくさん買い込んできました。アジアはなんと言っても便利ですね。
クオリティオブライフにも、いろいろな定義の仕方がありそうです(笑)。
さて、今週は、コンサルティングのご相談があり、電話会議を何回かやっています。その中で、保険の位置づけについてのご質問が出ましたので、こちらで、少し取り上げます。
■■■保険に関するご質問■■■
(テキサスの)沿岸部はハリケーンがくるので薦められないとあるの業者から聞きました。
保険を掛ければそのリスク回避はできると考えています。その場合、沿岸部では一般的にいくらぐらいのレベルのものが必要と考えますか?
たとえば100000US$物件の場合、全壊、半壊、浸水それぞれの場合、どのくらいの保険金がおりるものでしょうか?
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現金で購入する場合は、保険は、いくつかの掛け金の選び方があります。
「どのくらいの保険金がおりるか」は、
「自分が、どのくらいの保険に入るか」
「会社の提示する契約内容の詳細」
「具体的な被害状況とその査定プロセス」
という3つのファクターの複合的な変数ですので、一般論を述べることが難しいことは、ご想像いただけるかと思います。
それをお断りした上で、大体の考えかたについてお話をするとすると、最初の「保険の加入額」については、以下のいずれかの加入方法があります。
1) 購入価格相当=または市場価格まで(market value)
2) 再建築コスト (replacement cost)
3) 自分で希望する額を勝手に決める(上方は難しいが下方は簡単)
10万ドルの物件の例をとりますと、
1)最大10万ドルに加入。銀行の融資を取得していれば、銀行の決めた額、例えば、頭金が2割の場合、購入額の8割までの保険に加入するなど融資側の指示に従うことが義務付けられます。
自分も頭金を2万ドルを投入するわけですから、いわれなくても、その分のステークをカバーするために、購入価格全額を前提とすることに意味があるでしょう。
2)再建築コストを全額想定する場合、必要とされる保険額というのは、結構なものになります。
マンションの場合、外壁は、管理組合の保険になるため、自分ひとりで左右できないので、該当管理組合の保険額や条件を見せてもらい、実際に建物全体を再建築できる額なのかを評価することになります。ただ、気に入った物件の建物全体の保険額が少なめでも、総会のときに提案したり投票するくらいの働きかけ以上は難しいだろうと思われます。
一戸建ての例の場合、どんなに時価が低くても、建築しなおす場合、一から土地を整備しなおすのに、ハリケーンを想定すると、まずは、瓦解ゴミなどの撤去費が、1万ドルといった額で、かかってくるでしょう。
また、自分だけ準備が出来ていても、大規模災害の場合、物件が面する公道の上下水道の復旧がいつ実現するかは、大問題となるでしょう。さらに、そこに水道管を接続しなおす手間も、たぶん、多少上乗せになります。
その次に、同じ間取りの新築を作れば、どんなに安くても、10万ドル以上のコストがかかることが予測されます。最終的に、本当にいくらかかるかは、実際に見積もりを取らないとわからないでしょうが、10万ドルの3ベッドルはームの家なら、全壊時の最大補償額としては、20万ドルも入っておけばよいかと、机上の計算上は、思われます。
ちなみに、保険には審査があるので、10万ドルの市場価値しかない物件を買うときに、保険の申請書に50万ドルといった希望補償額を書き込んでも、具体的な根拠がないと見なされれば、非現実的であるということになり、NGが出ることになるでしょう。
3)上限を5万ドルといった額と決めれば、少し保険料が安くなります。
一戸建ての場合は、被害が大きくなる可能性がありうるので、格安の保険上限を決めるというのは、それほどお勧めしにくいです。
しかし、マンションの場合、屋根を含め、ドアの外の外壁は、すべて、上に述べたように、管理組合の担当なので、室内での問題は、小火や漏水など以上は、想定しないで済むと考える余地もあります。
建物自体の全壊といった場合は、上に述べたように、自分だけで再建築コストを計算することは不可能ですので、その部分は、もう割り切ります。
そうすると、マンション内装を米国で手がけたことがある方は、お分かりいただけるかと思いますが、よほどの高級なマンションはいざしらず、どんなに修理をしても、普通、1,500平方前後以下のマンションに、10万ドルといった額の内装費がかかるということは想像しにくいわけですね。
つまり、「室内だけのトラブルなら、どんな高級マンションでも、テナントが入っている限りは、全面燃焼といったケースはまれ。普通の事故なら、最終的には、たいしたダメージ額とはならないだろう」とも言えるわけで、こういう場合、キャッシュで買っていれば、銀行の駄目出しはありませんから、保険料が高いエリアでは、毎月の利回りを少し、高くする方法のひとつとして、自分で、「修理代の上限は、5万ドルもあればいいさ」といった想定で、保険額を低めに設定することにも、それなりの意味があるというわけです。
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このように、保険のかけ方にも、戦術がいくつかあります。
「ハリケーン対策」としての保険は、この例の場合(テキサス湾岸部)、物件価格の2倍の額が必要になるかもしれません。一般に、毎月の掛け金は、日本より高いので、災害対策を想定すると、このようにプラスオンしていくと、保険料は、結構、利回りに食い込むと思います。テキサスといえば、昔は地震はないといわれていましたが、ダラスなんかは、近年地震があるので、地震保険に加入しようとするオーナーが増えていると聞きます。石油などの採掘が理由ではないかといわれたりするようです。しかも、温暖化だかなんなのか、洪水も起こったりするようになりました。
このように、湾岸ではなく、内陸のダラスでも、洪水、地震の被害に人々が警戒し始めているのだとすれば(どの程度の確率かはわからないわけですが)、こういう自然災害というのは、なかなか、全面的にリスク・コントロールするというのは難しいですね。
さて、料率については、エリアによって、掛け金は大きく違うので、相談されている不動産業者さんにまずはご質問ください。地元の一般的な状況は教えてくれるでしょう。ただ、「レアルターの専門ライセンスの射程内」のアイテムではないので、細かい話は、出来ないはずですので、そこは、覚悟してください。実際にもっとしっかりした見積もりが取りたければ、STATE FARMなどの保険会社のオンラインで、購入前に、検討中の対象物件の概要を入力して資料を請求してみるのも、手かもしれません。
ここまでの段階でも、結構面倒ですが、そこで、ここで、さらに「次の大問題」がありえます。
このご質問者は、「保険に入っておけば、問題ない」と考えられているのでしょうか。しかし、日本国内であっても、何らかの保険金を実際に申請した方なら、ことはそれほど簡単ではないことは、ご存知のはず。
保険を実際申請するには大変な手間がかかります。自動車であっても、日本国内でも、対人事故となると、1年といった期間がかかるようです。支払い額攻防で、相当いやな思いをする人も多いはず。
これを、不動産について、海外で、英語で行う手間をお考えください。
私も物件管理は何百件も経験してきましたが、私の日本人の顧客様の多くが、ご自分だけでは段取りが出来ないと思います。もし、留学経験があったり、お仕事の関係でビジネス英語が出来たとしても、時差もあり、また、本業がおありになるわけで、未経験の事柄については、段取り自体のフローチャートがわからないわけですので、当たり前ですね。
そこで、一般的な説明をしますと、通常、金額がそれなりの場合、専門の独立鑑定人(ADJUSTER、アジャスター)を雇うことをお勧めしています。
アジャスターとは何か?については、グーグルで日本語の説明を探したところ、外資系損保の説明ページがありましたので、そちらから引用させていただきます。
「損害を評価し、保険契約者からの保険請求を処理するために損害保険会社に雇用された人をいう。この損害調査担当者は、パブリック・アジャスター(public adjuster)とは異なる。パブリック・アジャスターは、保険契約者のために保険会社と交渉し、報酬としてその保険金の一部を受け取る。独立損害査定担当者(independent adjuster)は、複数の保険会社のために保険金支払額を決定する独立請負人である。」(損保ジャパンHPより)
米国では、結構な損害を受けた人は、上に出てくる「パブリック・アジャスター」をコミッション制で雇い、「10万ドル取れたら、その15%を報酬にする」といった契約で、申請代行をしてもらうのが一番楽です。
普段、物件管理を依頼している管理会社に頼もうとしても、管理とは別のスキルのため、通常は、やりたがらない分野、担当者にスキルがない分野です。アメリカ在住で時間に余裕がある投資家様の場合は、アジャスターに依頼せず、管理会社や修理業者に修理見積もりを取ってもらい、それを保険会社に提示し、練り強く交渉されてもいいかもしれません。
保険会社のやり口として、「被害額の査定に損害調査担当者を派遣するのに、時間をかける」という引き伸ばし作戦が普通で、その間、修理は出来ません。つまり、その間は、物件は、未修理で、テナントも入れなおすことも出来ず、放置!です。(保険には、ある程度の期間について、テナントロスの補填がついていることが多いので、家賃ロスは、それである程度カバーできる場合が多いでしょうが、融資をとっている場合は、ローン返済は、その間、自分が立て替えることになります。)
以上のようにあまりにいろいろな頭痛、手間があるので、結論とすると、遠隔の投資家様については、「保険があれば、何でもリスクがカバーできる」という考えかたには、私自身は、賛成できません。
質問者様は、ある業者さんに、「ハリケーン対策に本腰をいれなければいけないようなところは面倒ですよ」といわれたということですが、私も、その業者さんに同感です。
ちなみに、皆さんは、ハリケーン・サンディーを覚えておいででしょうか?
2012年に発生した、NYなどの米国東部を襲ったハリケーンで、私も、最近知りましたが、保険会社が、損害を回避するために、被害レポートを組織的に捏造し、問題を矮小化しているといった疑惑が指摘されるに至っており、「まだ、保険補償問題は、本当には解決していない」ということで、連邦が調査に入るなど、2015年の今になっても、新たな社会問題化しているようです。。。。 どこも、同じですね。。。
CBSニュース60ミニッツ報道から↓
ちなみに、投資手法として、わざとこういうエリアを選び、ハリケーン直後に、このニュースに出てくるようなダメージ案件に対して投資をするというスタイルの投資もありえますが、これも、大規模被害、特に水が絡む案件が前提になりますので、それなりに、スキルやリソースを使う「現地の熟練投資家の手法」だともいえるでしょう。
雑駁な記事となりましたが、ご参考にしていただければ幸いです。
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