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郊外万能神話の崩壊

対米不動産投資家の中山道子です。

いま夏休み中で、毎日、子供の勉強を見ているので、仕事はあまりしていません。自分自身、ぜんぜん学んだことのない北米開拓史を勉強しています。この前は、近所にある、革命期に作られた駐屯地の見学に行ってきました。(笑)

さて、最近までの米国の居住モデルというのは、若いときには都市部に居住し、生活に余裕ができたり、または、子供ができたら「お庭のある郊外の夢のおうち」に引っ越すというものでした。

よく、

house with the white picket fence

(白いフェンスに囲まれた郊外の一軒家)

という表現が用いられます。アメリカンドリームですね。

今は、子供ができても郊外に引っ越せない場合、都市部(inner city)は通常、学区が悪く、貧困の再生が深刻な問題となっています。

今の北米は、所得と教育レベルとの相関関係がますます著しくなってきていて、子供の学力も、小学校後半になるころには、いろいろなリサーチで発表されているように、本当に、良い学区とインナーシティーの学区では、2、3年分の格差が生じているのが当たり前。

私も実際にこのエリアで子供を育てているので、こういう事情を目の当たりにしていますが、デトロイト市内のお子さんは、普通に毎日通学できているお子さんでも、6年生なのに、郊外部のお子さんだったら4年生相当と判断されるくらいの学力しかなかったりするわけです。

このように、子育てしている側からすると、今の北米の不動産事情を左右する最大の要因は、学校、学区なんじゃないかくらいの気がしますが、その反面で、実は、都市部対郊外という構図は、より複雑化しており、郊外に貧困が、大きく広がり始めている、貧困とはいえないエリア、郊外の高級住宅地も、マクロな人口動態の動きに呼応して、一部、空洞化が始まっているというお話です。


郊外の貧困化は、2000年代の現象らしく、最初にこのトレンドを大きく発表し、話題を得たのは、ブルッキングス研究所の研究員たちが発表した研究。

それによると、貧困層人口は、1970年代、90年代と、絶対数的に都市部に居住している状況だったが、2000年代に、貧困人口の絶対的増加とともに、増加の多くは郊外で起こったことが、わかるということです。

連邦の定義する貧困ライン以下の生活をしていた人の数は、


1970年

> 郊外 640万人
> 都市部 740万人

1990年

> 郊外 84万人
> 都市部 96万人

2000年

> 郊外 1,004万人
> 都市部 1,000万人

2011年

> 郊外 1,640万人
> 都市部 1,340万人


と、郊外のほうが、大きく増えていることが分かっています。

総人口比に対する貧困率も、1970年前後は、11パーセント台と20世紀以降の米国の歴史の中で最も低かったのが、ここ数年は、15パーセント台で、高め安定に入っています。

該当研究の原典は、こちらからどうぞ。

郊外に行けばなんでも解決するというのが、一面的な考えだったのでしょうが、現在の郊外は、一部において、経済停滞の影響を大きく受け、2011年以降の経済回復の恩恵を受けられずにいる状態。

アトランタ(ジョージア州)のような、もともと経済状況がよくないエリアの場合、これは、大きな驚きではない気もしますが、今日は、貧困郊外とは対極のエリアで生じている郊外族の悩みについて、見聞する機会がありました。

下のアトランティック誌のオンライン記事では、富裕イメージのあるコネチカット州郊外やボストン市郊外(いわゆるニューイングランド)も、2003年次の下落から、まだ、回復できていない、しかも、これは、どうやら、エリア的、人口動態学的に、長期的なトレンドだというお話なのです。

An Unsteady Future for New England's Suburbs
As people move to warmer climates and cities, small towns throughout the region are weathering decline.


いわゆる北東部は、昔のイメージでは、エスタブリッシュメント、米国をけん引するアングロ系白人優位なイメージがある感じですが、今は、このエリアのリタイヤ組は、寒いところはもう嫌だとばかり、子供が大きくなると、サンベルト、フロリダに行ってしまう、そして、親の世代に人気だった高級郊外住宅地は、子供の世代には、もう、手が出ない、、、 そんな長期停滞サイクルに入っているのだそう。

人口比率的に、年齢中央値が40歳(人口の半数が子供をもう産めない)と高めなのがこれらの州の特徴。

USニュースには、以下の州が挙げられています。

Maine, Vermont, West Virginia, New Hampshire, Florida, Connecticut, and Pennsylvania.


中産階級向けの仕事は、大不況で失われ、昔だったらリッチな郊外高級住宅エリアにはもう、帰ってこない。そんな中、北東部も、ラストベルト(中西部中心に製造業の万年空洞化に悩む州)化しはじめている、そんな人口負け組の構図が描かれており、一部の統計には背筋が寒くなります。


「ニューヨーク地域(NY、ニュージャージー、コネチカット)においては、1975年から2005年までの間に生まれた仕事の9割は、郊外にあった。それが、過去10年間の間には、9割の新規雇用はNYC市内のみで生じた」


もともと、高級エリアなので、居宅は100万ドルUPが標準。しかし、そんな家に住める高給取りは、もういない。

需要がなくなり、値上がりしすぎたエリアに、価格調整が起こっているわけで、こうしたマクロなトレンドにも、気を付けていきたいですね。


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