米国政府の浸水危険度測量水災マップは時代遅れ!!
対米不動産投資家の中山道子です。
この前ニュースで、米国の2020年の国勢調査が、予算不足で順調に進められないかもしれないという報道がありました。
全米総人口を10年に1度、網羅するべきこの調査は、実に、想像を絶する意義と影響力を持っています。前回の予算は、実に120億ドルと桁違い(12 Billion)。
選挙区や連邦予算配分はもちろん、学術リサーチも、民間調査も、すべてここが出発点。私自身、エリアの分布を見るのにこの調査を見ているので、「がんばれ」と応援したいところです。
連邦政府の重要なお仕事の一つが、全国レベルのデータ収集ですが、実は、地球温暖化のせいで、国勢調査のデータよりさらに有効性が問題になっているらしいのが、連邦水災マップ(Federal Flood Map)のデータ。
FLOODING、つまり、台風洪水などによる洪水や浸水による水災の危険度を、エリアごとにマッピングしてあるハザード・マップです。
私のいるここ中西部(ミシガン)も、毎年のように浸水するエリアがあります。自宅は大丈夫でも、道路が浸水したりして混乱することも多いです。地下室があることが一般的なので(土台がほぼ地下室として作られている事が多い)、気を抜くと、両隣が浸水していなくても、自宅のSUMP PUMP(地下室用の排水ドレンパンプ)が作動していなかったりして、自分だけ、ダメージを受けたりします。
今でこそ標準装備化したサンプパンプ、築浅なら、かならずあると思いますが、古い家だと、ついていないので、フィックスアップ転売目的で家が販売される際には、フルリフォームがしてあっても、これを取り付けないで済ませる安普請式の転売をする場合もありうるかもしれませんのでお気をつけください。
いずれにせよ、米国内の住宅の6割が、水に悩まされるという統計もあり、また、この10年、「100年に1度」の洪水が続くので、実務は、地球温暖化を前提に行動を起こしつつありますが、その反面で、困るのが、連邦水災マップの古さ。
マップは、国勢調査と違い、10年毎に決まって更新されるものではないらしく、
「データのほとんどは、2000年台に更新されているが、15%は、1980年台、1970年台といった時期以降更新されていない」
という驚愕の事実が指摘されています。
2005年、ハリケーン・カトリーナ(被害額1,080億ドル)が猛威を奮ったニューオーリーンズのCASEでは、まさに、1984年次の危険エリアマップが利用されていたそうで、マップ更新は、今年、2017年と相成ったそうです。
2017年今年、ハリケーン・ハービーがヒューストンを襲った時に、水災保険に加入していたのは、15%に過ぎなかったという報道がありましたが、これも、水災マップが古くて、多くの住民は、「自分は水災リアではない」と認識していたからなんだそうです。
タイムリー更新できない理由は、ここも予算。
ハザードマップ軍資金は、今年、312 MILLION、つまり、3.12億ドル。やはり効果的な実施が困難視されている毎10年次国勢調査の実施に必要になる予算と桁違いに少額なのは、メンテモードの予算だから。
実際には、ある団体の調査によると、一気にこの状態をアップデートさせるには、単発的に、70億ドルが必要になり、その後の年次更新に、3億ドル弱というのが順当なんだそうで、よくわかりませんが、国勢調査の規模に匹敵する重要性のある地図なのですから、額を比べると、素人は、そんなものかなと言う気になります。
というのも、このマップは、
> 連邦の水災・浸水保険の保険料算出
> 民間の水災・浸水保険の保険料算出
に使われているのです。
それが、「過去のデータを見るにはいいが、今後どうなるかについては、古くて、しかも、温暖化の最新データが盛り込まれていないので、これに基づく将来のリスク計算なんか出来ない」(アナリスト)と酷評されているのですから、困ったものです。
How Federal Flood Maps Ignore the Risks Of Climate Change
ハザードマップ作成は、政府の仕事という気がしますが、予算が少なすぎるという指摘に頷かされます。しかし、実際には、連邦の水災・浸水対策プログラムは、総合的に見ると、大変な金食い虫で、監査局に、レッド・カードを出されまくっています。
というのも、状況が、複雑化するばかりだから。
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連邦政府は、浸水しやすいエリアで、個人が家を買いやすいように、浸水保険を、経済度外視で支給している。その結果、そうしたエリアでは、採算を計算しなければいけない民間保険の競争力はますます低下し、民間が浸水対策保険を売ることが出来なくなる。
更に、浸水対策保険を連邦が出しまくってくれるので、個人は、危険をヘッジしやすく、あえて、浸水しやすいエリアに住み続け、そうしたエリアの住宅価格は、連邦浸水保険が補助金を出して支えているような状態となってしまっている。(浸水保険が買えなくなれば、銀行ローンは降りないので、該当エリアの家は値段がつかなくなってしまう。)
しかも、保険が出る限り、個々人は、「水災リスク」についてそれほど考えないので、地球温暖化で、こうしたエリアが増えても、「水際が好き」、「ここで育った」と、引っ越しする人はおらず、災害補助金が更に多く必要になるばかり。しかも、ハワイのような観光地ならいざしらず、多くのエリアでは、補助金だけでは民間活力は戻らず、そうしたエリアは、底辺層が「取り残された」と不満がいや増す。
その間、台風対策は、不採算事業として、赤字、借金は増すばかり。事業運営は非効率、官僚的で、既存権益は撤退には断固反対になり、なおさら保険の重要性はいや増すばかり、な悪循環のループが止まらない。。。
参考 監査局レポート
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ここまで事態が複雑だと、「小さな政府に戻ってマップづくりだけしろ」とは、コストカット好きのトランプ政権ですら言えないでしょう。
え?
いや、実は、大統領、言ってます。「もう、洪水エリア(FLOOD ZONE)では、わざわざ連邦予算を組んでまでして、新築住宅に対して水災保険を提供するのなんか、やめてしまおうぜ!」
Trump Wants to Halt Government Flood Insurance for New Homes in Flood Zones
なぜかというか、当然というか。
今回、地球温暖化問題対策を提唱する立場の環境関係の専門家たちは、トランプ大統領のこの提案には、大賛成。本来、大統領は温暖化の存在自体を否定する立場で、これらの人たちとは対立していますが、この点は、気があってしまっています。
他方、トランプ大統領の出身業界である不動産、建築業界は、当然のごとく、「そんなことされたら、フロリダの新築件数はガタ落ちになり、経済に深刻な影響が及ぶってば!」などと、大いにブーイングしています。
複雑な問題なので、この提案、どうなっていくのか、彼の提案に政治的な支持が集まるのかというと、多分、ダメじゃないかという気もしますが、興味深い状況ではあります。
予算の組み方についても、本来は、マップ充実に一挙にお金を使うのが一番効率的なのでは、なんて思ったりしますが、実際にハリケーンの被害者が大勢いる状況で、救援が優先するでしょうから、その段階で、「調査事業に単発年度でウン十億」なんて、なおさら、議会を通らないでしょうね。
海岸近くの物件というのは誰でも一度は憧れますが、不動産投資家としては、災害の危険性はもとより、そもそも、こうしたエリアの物件の価格というのは、実は行政補助によって人為的に成り立っているのだという事実を認識しておくことには、大いに意味があると思います。
というのも、経済だけを見ていると、「人気があるから値上がりしているんだな」と思ってしまいがちですが、実際には、そのエクイティは、FEMA(緊急事態管理庁)が、毎年のように、財務省から10億ドル以上の借金(災害救援金)をしていることで、実現しているのかもしれないわけです。
行政補助というと、セクション8の家賃補助とか、SNAPプログラムの食費援助とか、貧困層が支給を受ける施しのように思われている方も多いと思いますが、実際には、富裕層が、ハワイのビーチフロント物件を買って、値上がり益を得たとしたら、それだって、一部、税金の再配分の一環として、連邦浸水保険の恩恵に預かっているとも考えられるわけですね。
不動産市場は、完全自律の市場とはいえないので、行政がどのような介入をしているかを考えると、この状況が変われば、価格がガタ落ちする可能性も無いとは限らないというお話でした。景気の動向を踏まえるのみならず、政府による不動産介入政策に対して多少の目配りをすることにも意味があるでしょう。
ちなみに、今年、テキサスを襲ったハービーの被害予想額は、カトリーナを上回る、1,800億ドルなんだそうです。今後、さらなる悪しき記録更新がどんどん続くのではないかと、心配ですね。
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