お金持ちが富を独占すると、経済が回らなくなるわけ
対米不動産投資家の中山道子です。
しばらく前に、有名な日本のブロガーの方が、「お金持ちにはもっとお金持ちになってもらって、どんどんお金を使ってもらったらいい。富の集中は問題ではない」というようなことを言っていたのを読んでびっくりしたことがあります。
この考え方が正しくない理由は、以下のとおりです。
それは、お金持ちというのは、あまりお金を使わないから。
普通の人からすれば、信じられないような派手な生活をする人はもちろんおいででしょう。なので、こんなことを書くと、「え?そうなの?」と思われる方もおいでかもしれません。
しかし、統計を見ると、普通、お金がある人がそれを使い切るより、お金のない人が、所得を使い切る傾向のほうが強いのです。
これは、貯蓄率、そして、そのようにして形成された資産がどのように使われるかという調査から見ても裏付けられます。
下に調査をグラフ化した便利なサイトがあったのでリンクをしておきます。
How Much Do People Save, by Income?
これを見ると、手取り年収10万ドルの層で、可処分所得の3割、手取り年収が20万ドル前後になるくらいから、実に4割を貯金するようになります。それに対し、米国の世帯平均に近い手取り5万あたりの層は、10%も貯蓄できていません。
平均的な生活をするのに、5万ドルかかる場所で、100人の人に5万ドルずつ渡せば、そのほとんどが年末には消費されているでしょう。それに対して、8割の人に3万ドルを渡し、残り260万ドルを、残った20人に渡せば、年度末に消費に回らないお金の総額は確実に増えるのです。
世の中のお仕事を増やすには、先進国では、中間層が沢山消費を行う状態が、一番、手っ取り早いのですね。なぜなら、先進国では、GNPのほとんどは、個人消費で賄われているから。米国で7割、日本では6割です。
消費の観点からもそのことを示すデータがあったので、そちらも紹介したいと思います。
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The many ways to measure economic inequality
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ある経済論文の内容をピューというシンクタンクのウエブ上でグラフィックに加工したもの。データは、2013年のものです。
調査対象となった全世帯の全所得の中で、トップ2割が占める比率は、なんと、6割以上。しかし、その人達は、消費となると、全消費のうち、4割も貢献していない。
Household Wealth Trends in the United States, 1962-2013: What Happened over the Great Recession?
世の中の多くの人は、ビジネスに従事して消費財の販売に関わった生活をしているので、消費財が売れないと、経済が成長しません。
そうなると、富の独占の加速により、「その他大勢」にとって、生活が苦しいのはもちろんのこと、実は、トップ20%にとっても、不都合が生じるはず。
というのも、最終的には、「国内で、儲かっている企業が減り、その結果、蓄積した資産を投資する先がなくなる」ことになりかねないから。金のガチョウが国内でやせ細っていく構図ですね。
そのことは、トップ20%の資産内訳からも見て取れます。
この層の資産の内訳を見ると、6割以上は、年金基金、株式とビジネス/不動産に投資されています。中間層向けの消費に関与するビジネスの業績が振るわなくなると、資産家にとっても、困った状態となるのです。自分のビジネス自体が傾く可能性も生じるでしょう。
不動産においてもこの構図は然り。
一部の高級住宅が売り買いされても、20万ドル台以下の普通の人たちが住む家が売れないとなれば、広い業界は、成立しません。資産家が、賃貸住宅に投資をしていても、中間層が家賃が払えなくなれば、賃貸経営が成り立たなくなります。
そして、今回の景気回復にあたっても、格差自体は2000年次より更に広がったということが広く言われてきています。
消費に関わるセクターを見ると、MACY'SやSEARSなどのように、中間層向けだったリテールビジネスが次々とやられていっています。
今、たしかに、経済は回復、成長しており、人々は活気だっています。場所にもよりますが、ここ中西部でも、デトロイト市内を始め、多くのエリアで、数年前とは見違える感じがします。
しかし、それと同時に、2017年を振り返り、撤退していく小売チェーン店の一覧を見ると、ゾッとします。JCペニー、Kマート、ペイレス・シューズ、ステープルズ、トイザラス、ギャップにマイケル・コース、、、
今年のブラックフライデーには、「ギフトカードなんかやり取りするのはやめよう。買った店が閉鎖したら、使えなくなる。むしろ、今まで貰った分を全部使ってしまうのが安全」なんて指摘まで出ています。そういえば、ブラックフライデー関係のセールで、「買うと、ギフトカードがもらえる」というパッケージがよくありますね。。。
Retail alert: 63 Sears and Kmart stores are closing in January 2018
キーワードは、ここでも二極化。
最近、名前をTAPESTRYへとリブランディングしたCOACHを分析したNYTの記事によると、「上位志向の高かった中間層(aspirational shopper)」向けのポジショニングだった婦人向けハンドバッグブランド、COACHは、最近、GUCCIなどの本格高級派、オンライン購買層を寡占状態のアマゾン、さらに、ZARAなどのファーストファッションに押され、伸び悩みが長引く状態。
再生を図るため、より高級な靴ブランド、STEWART WEIZMANと、より庶民的なブランド、KATE SPADEを両方買った上で、LVMHグループのような高級ブランドグループを目指す戦略を打ち出し、タぺストリーへと相成ったんだそうです。
Coach Inc. Is Dead. Long Live Tapestry.
そう。上のだめになっていく小売業の特徴は、まさに、この中間層相手だということ。
対して、「ぶっちゃけ価格でしょ」でやってきたウオルマートは、アメリカ随一の雇用主として不動の地位を築くに至っています。
そして、ウオルマートは、今や、別にそれほど安くない店。
最近のウオルマートの安売りライバルは、(少し上を見れば、KROGERやMEIJERがありますが)DOLLARTREEやDOLLAR GENERALのような、日本で言うと100円ショップとして出発した店なんですよね。
10年前の常識からすると、信じられないことに、こういうところでは、最近、食料品が一式、普通に買えます。昔の米国のダラーショップって、日本の100円ショップと比べると、全然品揃えが悪かったのに、、、
ダラーツリーで見た冷凍チキン。これが本当に1ドルならしいんです。ケチな私も流石にこれは買ったことないですが、最近の米国のダラーショップ、日本のダイソーなんかお呼びじゃない充実ぶりになりつつあります、、、?
アメリカンドリーム、移民の国だった米国、今、富の格差を示すジニ係数を見ると、ロシア、イランよりひどく、南米ペルーと並んでいます。
COUNTRY COMPARISON :: DISTRIBUTION OF FAMILY INCOME - GINI INDEX
ジニ係数は、米国の歴史を見ると、1945年の0.36から現在の0.45まで、基本、大きくなっていく一方。
Economic Inequality in the USA
多少の経済回復では、この流れは止められないでしょう。民主党のオバマ政権も、打開案を打ち出すことは出来ませんでしたが、今の政権にも、冒頭のブロガー同様、この状況に対する認識が、薄いように思えます。今回の経済回復に不透明感がつきまとう理由の一つなのではないでしょうか。
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