統計を読むときには気をつけよう 生活費から消えた住宅費!?
対米不動産投資家の中山道子です。
今、米国は超バブル、ウルトラ強気なので、私は、ここ1年、「後退の兆し」(次のステップ)のモニタリングに余念がありません。
その関係でいろいろな統計を見るのですが、ついでに日本の統計もチェックしたりします。米国の統計のとり方と日本の統計のとり方を比べると、だんだん、その齟齬なんかも気がついてきたりします。
米国の統計になれた目からすると、日本の統計が、中央値ではなく平均値を使うことが多いこと、インフレ率を加味した算出をしないこと、季節調整をあまり用いないことなど、不思議に思いだすようになりますが、この度、生活費の動向をチェックしていて気がついたのが、この件。
日本では、多くの生活費関係の考察に、住居費を計算に入れていないようなのですよね。
そんな馬鹿なと思われるかと思いますが、日本で世帯支出統計を見る時に、一番良く参照されるのが、総務省統計局の家計調査。
一応、ホームページや該当箇所には、 《消費支出(除く住居等)》と書いてあるのにもかかわらず、この数字を、家計の総支出額として援用するケースがあとを絶ちません。
このPDFの該当箇所によると、この資料からは、《「住居」のほか,「自動車等購入」,「贈与金」,「仕送り金」を除いている。また,実質化には消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)を用いた。」》とあります。
仕送りをしている場合、自動車を買った場合、ローンや家賃を払っている分、贈与、すべて、支出には入っていません。あしからず。
じゃあなぜみんな誤解するのかというと、まず第一に、この資料からは、住居費を除いてあるのに、「住居」という項目があるからではないでしょうか。除いているのに、項目があり、金額は、平均17,224円。
これだけ見ると、「みんな、ローン無しで持ち家なんか、我が家は不甲斐ないなあ」と恐れ入ってしまいそう。
実際には、ローン返済額、固定資産税、マンションの管理費・修繕予備金や家賃が入っていないわけで、それなのに、住居費って、意味がわかりませんが、お役所のポジションは、「ローン返済は、持ち家という資産になるので、消費支出ではない」、それに平仄を合わせて家賃も入れない、といったところなんでしょうか。
消費支出に該当する住居費の内訳は、「設備修繕・維持、家賃地代、設備材料、工事その他のサービス」とあるので、これらのアイテムだけは、家計支出に、「住居費」として、計上するわけですね。ただ、家賃は入れないはずなのに、「家賃地代」ってなんでしょうか。借地借家権の地代だけ、計算に入れるとかなんでしょうね。これは、消費支出なんですね。そうですか、ふーん。
このように、該当サイトにははっきり、「住居費は除く」とあるので、二人以上の世帯支出の平均は、この数字に上の幾つもの支出を付け足した額になるはず。
しかし、よく、リタイヤ後の世帯支出が収入を上回る、これは問題だ、みたいな記事をネットで見るんですが、そういう記事では、この家計調査の数字を、そのまま使っているようなんですよね。
例えば、こちら。公益財団法人生命保険文化センターという団体のウエブサイトで、槍玉に挙げて申し訳ありませんが、個人ブログなどではなく、権威がある媒体でも、こういうことがあるという例として。
ここでは、上の総務省の家計調査(2016年)を利用していますが、「住居費除く」という、家計調査にあったコメントへの言及はありません。
その結果、老後に必要な生活費も、ここから算出される羽目に。
上のウエブサイトだけではありません。
下は、現役ファイナンシャルプランナーであるオールアバウトのガイドさんの記事。2017年の資料を使っていますから、もっと最近の記事ですね。
ここでも、統計局の調査結果だけを用いていて、「消費支出に該当する住居費」だけが、メンションされています。
さらに、さらに!
下がNHKの老後スペシャルのためのサイト、私は海外なので見てませんが、NHKよ、お前もか!(2014年のデータが使われています)
このページを見ると、高齢者の平均年収と平均支出を引き比べた場合、2004年次の家計調査結果によると、夫婦世帯で、毎月、6万2,000円の赤字になっていたんだそうです。
違いますって。
しつこいですが、家計調査は、消費支出に該当するアイテムだけをピックアップした資料なんですって。
民間側も、プロなはず。政府統計の読み込みが甘いのは問題ですが、実は、統計局自体が、この数式を使って情報を発信し続けているので、誤解が生じるのは仕方ないのかもしれません。
このページによると、役所側の資料として、家計の黒字、赤字の定義自体に、「実際のローン返済額や家賃等」を参入することをしていないんですよね。不動産関係者がこういう投資資料作ったら、どつかれますけど。(「お客様、投資リターンは、20%です。但し、経費やコミッションは、計算に入れてません。これは、当方の資料作成上の用語法で、この用語法で統一してご案内しております!!」)
ただ、一応、この数字は平均で中央値でなく、通常、中央値は、平均より低いということは、視野に入れても良いでしょう。なので、この数字に準じる数字で、家賃を捻出できているという方は多いかもしれません。
最後に、実際には、個人が自己防衛のために、この数字を参考として、「リタイヤ後、どれくらいの総出費を予想しなければいけなくなるのか」を考える場合は、
第一に、住居費がこの数字に別に掛かることを覚悟
第二に、インフレの問題が度外視されていることを理解
第三に、平均値なので中央値や自分の生活レベルの掌握
第四に、狭義の消費支出には、「非消費支出」が加算されていない!
をクリアにする必要があるでしょう。
第一点。
高齢者の持ち家率は高いです。ずっと賃貸なら、住居費はより多くの額を計上する覚悟が必要です。他方、持ち家族も、リタイヤ時に、若い時に買った家にずっと住み続ける決意でローンを返済してしまうということであれば、築浅の家を維持するよりずっと修繕費がかかるだろうことを覚悟する必要があるでしょう。実際には、高齢者の持ち家では、老朽化が進んでいるんではないかと危惧されます。そのことから、親の家を相続しても、その家を放置する層が生じているのでしょう。
私自身だったら、最大5、6年しか生活しないことがわかっているところでは家は買わず賃貸を続け、それ以上の居住をする場合、10年から15年毎に、修理が必要になる前にライフスタイルに合わせて買い換えることを考えると思います。自分で修理をするのは面倒なのでやりたくないです。また、キャッシュで買うだろうと思います。
第二点。
日本ではインフレ率が2%が目標だ、デフレが長く続いているなんて言っていますが、インフレ率1%と想定したとしても、計算は複利なんですから、10年後には、今の試算に10%以上の上乗せが必要になります。いろいろなFPさんの試算を見ても、教育費の算出方法と同じで、日本では、必ずしもインフレへの言及がありません。(最新統計を見ると、今、かかっている学費の平均はこれこれだから、その額を貯蓄しなさいとか、今、高齢者は、これこれの生活費をかけているんだから、今勤労世帯のあなたは、その額を想定して行動しなさいとか。)
第三点は省くとして、第四点。
実は、住居費に加えて、狭義の消費支出に関する政府統計には、税金や社会保険料などが計上されていません。政府統計カテゴリーで言うと、「非消費支出」というんだそうです。上の用語解説のページを御覧ください。なのでこの数字を利用する場合、別途に非消費支出カテゴリーも加味する必要があります。
かくいう私も、大人になって、身銭を切って投資や生活をしている立場に立ってはじめて、こういうデータを目を血走らせながら読むようになった口。普通にサラリーマン生活を続けていれば、収支表なんか作ってなかったでしょうから、これらの発信情報をそのままぼーっと真に受けていただろうと思います。逆に言うと、お役所の資料は確信犯として、それを援用する民間資料作成者の方々は、皆さん、自分の生活費を掌握していないのでしょうか。
アメリカでも、実は、ジャーナリストは、数字が苦手だと言われ、報道上、数字の取り上げ方には問題があると指摘されることがあるようです。逆に言えば、フツーの人のレベルって、情報発信側ですら、この程度なんです。少し気をつけるだけで、世の中の多くの人に先んじることが可能になります。世間の人たちより、ほんのちょっとだけ、注意深くなりましょう。
不動産投資プロパーについての記事ではないのですが、「データの扱い」について、投資生活や消費生活、リタイヤプランニングのご参考になれば幸いです。
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