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Deed in Lieu of Foreclosure とは ラッパージェイZの苦悩

今日、ブルームバーグに、有名なラッパー芸能人ジェイZ(Jay Z)が、ビジネスマンとして、報道の対象となっている記事を見つけました。

それは、ニューヨークのチェルシー近くに開発予定だったホテルの底地不動産についての騒動。記事は、こちらから。

いわく、氏の経営する会社は、ホテルを共同開発する目的で、土地を購入し、ローンを払っていたが、昨今の景気低迷で、建設費用をビジネスパートナーが獲得できなかった。この結果、土地価格は、購入額を大きく下回ることになり、会社名義で物件を購入するにあたって個人保証をしていたジェイZは、目的を失った土地所有に対するローン返済に意義を見出すことが出来なくなった。

このため、ジェイZ側は、deed in lieu of foreclosure 《ディードインリューオブフォークロージャー。裁判外の任意担保物件返却のことを一般的に指す。何らかのよい翻訳方法があるのかもしれませんが、英米法辞典等は、ちょっと調べていません》を申し立てたが、融資側は、担保差し戻しに対するタイムリーな協力を渋ったため、その間だけで、ジェイZの側は、利息返済額が300万ドル以上となった。

このため、ジェイZ側は、その額をそのまま、訴訟で、融資側から損害賠償請求により、取り戻そうというもの。

Deed とは、通常、名義証書のこと。ただ、deed in lieu of foreclosure については、証書自体に、そういう名前の用紙があるわけでは、必ずしも、なく、一般的に、返却自体のことをさすことが多いです。

In lieu of とは、in place of, instead of の古語で、lieu は、フランス語の語源。コモンロー流の英語の法律用語には、依然、フランス語が多いのですが、それはよしとして、フォークロージャー手続きなしで、任意に裁判外で担保物権を返上し、それに伴い、残債処理あわせ、何らかの合意に達することを、通常、意味します。

報道は簡略でわかりにくいのですが、これは、本来、合意が必要で、物件を放置しただけでは、deed in lieu of foreclosure が execute (執行)できた、とはなりません。合意書を作成した場合は、Agreement in lieu of foreclosure といった名前の書類となり、それを、登記係に持っていって、名義を、融資側に戻すことになります。

このように、このプロセスが進むためには、向こうが、「了承し、残債についても、何らかの新しい合意に達する/通常免除」ことを、約束しなければいけないのです。

それでは、どうして、融資側は、現物差し戻しに合意するか?
ぶっちゃけると、それ以外のオプションが、もっと金がかかるから。

向こうが物件を放置することを宣言しているわけですから、裁判上のフォークロージャーを経る訴訟費用が節約になります。ここで、拒否したりすると、放置担保物件の価値はさらに下がり、しかも、失踪でもされれば、裁判手続きも進まなくなったりと、さらにもめる可能性があるわけです。担保をはずした後の債務額は、それなりのことが多いですが、名義書換協力と引き換えに、「チャラ」(あるいは、そのとき支払えるだけ)を約束させられるのが、一般的。この場合、IRSが介入してきて、「それは、贈与だ。贈与税を払え」となることがあるので、気をつけなければならない、という話は、昔、別のところでしたこともあります。こちらから。その法案が成立したということについては、こちらから。

さて、このケースの場合、別の報道を読むと(こちらから)、どうも、その双方合意が締結された後に、融資側は、ジェイZに、一定期間にわたり、個人的に利息返済をさらに要求したと主張しているようにも読めなくありません。

しかし、これらの記事のライターは、いずれも、不動産関係のプロではないのか、紙面に制限があるのか、いずれにせよ、報道だけからは、written agreement があったという状況なのかどうか、それが締結された時期がいつだったか、また、利息が請求された期間が、どの期間とされているか、いずれも、はっきりしません。

なので、ジェイZ側の裁判上の主張のロジックが、具体的には、どんなものなのかが、はっきりわかりにくいです。

不動産関係を標榜するあるライターで、「ジェイZは、悪あがきしている。どうせこんな訴訟は成立しない」と書いている人がいましたが(こちらから)、一般論として、合意締結までの利息については、その通りかと思います。

だから、例えば、最終的には、書面合意を締結したが、それまでの間に、融資側で、多少、遅滞があって、その間の利息を、契約どおり請求されただけ、というのであれば、ジェイZは、あまり、法廷で、説得力のある主張を展開できないかもしれません。「盗人猛々しい」と思う人もいるでしょう。

ただ、合意後の期間に発生した利息について、連帯保証人たるジェイZに、書面の合意書が締結された後であるにもかかわらず、請求が続いた時期があったとしたら、合意後の利息支払いについては、ジェイZの主張に利がありそうです。

それでは、どうしてそんな請求に対し、ジェイZは、支払いをした上で、次に、損害賠償訴訟を起こさないといけなかったのか?

300万ドルが「はした金」で、差し戻しのやり取りの中で、その時点では、この点に、気が付かなかったという可能性もあるかもしれませんし、あるいは、支払いをしないと、それを通報されて、個人与信力が落ちますから、そのことにより、他のビジネスの資金繰りなどに支障が出ることを恐れて、まずは、支払いを行い、その後、損害賠償請求をすることにしたのか、どちらかでしょう。

以上のように、シナリオによっては、ジェイZのこの考え方は、完全に合理的である可能性があります。

刑務所暮らしも経験しながら、ラップを通じて新しい生活を勝ち取り、今は、ビジネスマン、プロデューサーとしての存在感が大きいメガ・スター、ジェイZ。世紀の歌姫ビヨンセ・ノウルズのご主人としても有名です。そんな彼らの生活ぶりは、庶民には、想像もつきませんが、deed in lieu of foreclosure を経験した”仲間”として、彼を、”まあ、私たちみたい”と、身近に感じる人が、増えるのカナ?


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