「重要書類」の意味 文化格差編
毎回言いますが、対米不動産投資で、一番ネックになっていると思うのが、言語とともに、カルチャー。
英語ができても、アメリカ文化が嫌いな人もいます。それ自体が、別段、悪いことということはなく、ただし、やはり、海外投資を試みられる方は、無条件に、「その国の文化が好き(で理解したい)」という根底がある必要があるんじゃないかなあ、と思います。
そして、文化の違いが、お金やビジネスに関する意識の違いなのですね。
大上段に構えましたが、私が、これまでに感じたいくつかの例を、あげてみましょう。不動産投資家は、小規模でもビジネスオーナーですから、いろいろな「書類」に囲まれることがあります。こっちは、めっちゃ卑近ですが、私たちにとって「重要な書類」との付き合い方にも、相手のカルチャーを理解する態度が不可欠です。
□ 小切手は、現金ではない
アメリカでは、当然のことながら、小切手は、現金ではありません。日本でもそうですが、日本人は、小切手の流通になれていません。小切手を書くこと自体、結構苦労される方が多いですが、その次に、感じ出すのが、「小切手郵送」攻撃のギャップ。
毎月の家賃も、小切手で支払われ、普通郵送で届きます。頻繁ではありませんが、私も、紛失のケースを知っています。その例については、こちらに、言及したことがあります。
日本の皆さんとお話していると、「小切手を書いて、それが、どこかでなくなると、悪用されるのでは?」という思いを、過剰に抱いているように感じます。
第一に、小切手を現金化するには、原則として、あて先人名義の銀行口座が必要です。そして、銀行口座を開設するには、ちゃんと、IDが必要ですから、そんなに簡単に、小切手がランダムに第三者に渡って、トラブルになるということは、想定しなくても、いいような気がします。
しかも、もちろん、あて先人が裏書譲渡(endorsementといいます)をすることは、理論的には、可能なのですが、二番目に指摘すると、アメリカでは、多くの金融機関で、第三者譲渡小切手(third party check)を拒否するようです。手数料をたくさん取って換金する金融機関はあるようですが、そういうところは、チェックが無効であるリスクを、手数料に織り込んでいるわけですね。
第三に、振出人が、あて先人の裏書譲渡を禁じることも容易です。具体的には、小切手の裏の裏書欄に、線を引いてしまう。こうすれば、不慮の事故により、第三者の手に渡っても、詐欺的なキャッシングをする確率を、さらに減らせます。
アメリカ人は、高額になっても、小切手を、このように、裏書譲渡を禁じたり、支払停止したりすることで、日常的に使いこなしているため、小切手は、現金とは違う性質の書類として理解しており、その使い方には、それほど神経質ではありません。
私も、何万ドルもの額面小切手を、郵送で受け取ったことがあり、「なくなったら、いやだなあ」と、毎日、そわそわしていましたが、アメリカ人にとっては、どうやら、そのような意識は、イメージがしにくいらしいのです。トラブルが起こったら、その段階で、stop payment orderを出してみて、調査して、被害があれば、その段階で被害届けに対処する、といった、よい意味でも悪い意味でも、「その場」的な発想なのかもしれません。
このようなカルチャーの中、管理会社やIRS、融資銀行など、いろいろなところと、それなりの金額の小切手をやり取りしなければいけない場合、こういうところで、高額小切手を受け取るときに、「なくなると困るので、フェデックスにしてください」などといっても、向こうには通じません。
日本からは、EMSが、対米郵送については、結構安いので(書類の最小単位で、1,200円)、郵便局も近くにあり、便利ですが、アメリカからは、トラッキングできる送付方法というと、UPSかフェデックスしかなく、安いほうのUPSでも、40ドルといった額がかかります。
なので、いくらの小切手であろうと、原則、それを、business expenseでデリバリーするような会社はないでしょう。役所はもちろんのこと、、、
私も今はご同様で、一万ドル単位の小切手を平気で普通郵便で出します。逆に、それをしないと、「アメリカドル文化圏のライフスタイル」は、成立しないし、また、この古臭いチェックのシステムこそが、世界中のドルチェッキング口座にての米ドルの国際流通性をサポートする重要な機能の一部を担っているのかもしれません。
□保険証書などの書類自体に、通常、まったく権利性がない
日本では、保険証書って、結構大切なイメージがあります。紛失した場合、権利行使できないというか、、、
こうなれば、請求を立てなければいけないときは、紛失届けと一緒に、といった例が多いですよね。別に、日本だけの話ではなく、海外のオフショア金融商品も、こういうものが多いように記憶しています。
いけないとはいえませんが、なんとなく、社内のサポート体制強化や、顧客の利便性よりは、請求を立てる障壁を高め、顧客側の請求コストを高めるポリシーであることは、明らか。
それに対し、万事が合理的なアメリカでは、キーワードは、カスタマーサポート。
私のエリアで、皆さんが、「???」と思われるのが、火災保険証書です。
日本人の感覚からすると、以上の状況から、証書がないと、不安で仕方ないのだろうと思いますが、この証書が、私たちの投資では、結構な確率で、紛失します。どうしてなんだかわかりませんが、ほとんど、届きません。
しかし、それでも、実は、アメリカではノープロブレムなので、スルーしている私。ここら辺、私も、アメリカン化しています。
大体、対象物件の住所や自分の名前やbilling addressなどの一部の情報があるだけで、カスタマーサポートとの話は、100%通じ、途中キャンセルの日割り計算や請求のチェックも、billing addressにちゃんと送ってくれます。
考えてみると、こっちのほうが、カスタマー志向が高いです。会社にとってのメリットは、ITに投資をすれば、カスタマーサポートが電話センターだけで、済み、営業所などが不要になることなどでしょう。対応日数なども改善するはず。実際にポリシーオーナーである顧客について、請求障壁を高めることで、利潤率を高めようとしても、逆に、顧客満足度が下がったり、ペーパーワーク=人員が増えたりする逆効果もありえますので、こちらのほうが、次世代のスマートなビジネス戦略といえそうです。
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話はそれますが、このように、異文化を、評価するのは難しいですよね。
私は、小切手やアメリカの銀行スタイルは嫌いですが、小切手文化のアメリカで、「郷に入っては」で、何とかやるしかないとあきらめており、考えてみると、この保険についてのあり方のように、アメリカのビジネスの合理性(「証書が届かなくても、別に、いいじゃん」みたいな「合理性」も含めて?)に感心することも、多いです。
他方、日本をアメリカから見れば、スムーズな公共機関の対応や、ATMのすばらしさ、お店の人々の礼儀正しさなどなど、数限りない魅力があるらしいのと同時に、あらゆるレベルの不合理が、気になるらしいことは、外国人の友人たちから、いつも感じています。
今日も、この記事を書いていたら、友人のKさんから、「愚痴メール」が、、、
彼女は、私同様、一人親なのですが、日本国籍がなく、戸籍や住民票がないため、保育園にお子さんを入園させるために、優先枠を獲得しないと、私同様、生活が、成り立ちません。
日本人の私にとっては、何のトラブルもなかったこのプロセス、彼女は、「本当に、父親に扶養を受けていないのか、証明してみろ」とか、「今、結婚相手がいないことを、日本語で証明しろ」などと、難癖をつけられ、大変苦労しているそうです。
日本の大学に留学し、卒業して後、20年とここにいるれっきとした納税者仲間のKさんに、なんという態度、、、そう、彼女には、「日本式の証明書」という、「重要書類」が、ないのですね。こういう場合、外国人に対する登録制度もあるのだから、その制度を、こうした問題に対応するように、運営することが求められているのだろうと思いますが、行政は、「外国人の一人親」支援まで、対処しきれていない様子。
子供に日本国籍があれば、まだ、ペーパーワークがあって、よいのでしょうが、、、行政よ、ただでさえ、人口が少なくなっているのに、そんなことしていると、日本で育ってくれるかもしれない大事なお子様方が、みんな、母国に帰っちゃうゾ。
私も含め、私の投資家グループは、大体、日本在住者が多いため、毎回、「アメリカに住所がないための悲哀」に苦労していますが、彼女のさらに一層切実な悲哀に、私も、「ここでも、やっているなあ」と、ため息をつくしかありません。
どちらを見ても、異文化交流の道は、遠いですが、解決は、love thy neighbor(隣人を愛せよ)と、one step at a time(一度にひとつずつ)のスピリットですね。
ネバーギブアップ、Kさん!
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