もう中流には戻れない!? ピューの2014年最新世論調査で、経済回復基調も、中流意識、ダウンのまま
中国在住の対米不動産投資家中山道子です。
日本では、アベノミクスということで、これまでのところ、株式市場が活況を呈していたようですが、その反面、中期的に見ると、サラリーマンの平均年収は、ここ数年、400万位で足踏みしており、しかも、その実態としては、誰もが400万を稼いでいるわけではなく、女性の場合は、100万から200万、男性でも、300万台の分布が一番多く、さらには、今後、このような格差は、広がっていくと、予測され始めているようですね。
世界の多くの国では、残念ながら、所得格差というものは、ある意味、「当たり前」の現実。ユニクロの柳井会長が、「グローバル企業なのだから、世界同一賃金へと動いていきたい。先進国でも、付加価値が提供できなければ、年収は、100万になるかもしれない」と主張されるのを見ても、納得させられなくもありません。
柳井会長が指摘する「グローバル化」の共通傾向が、この”所得の二極化問題”。
成長期の国民は、「われもわれも」と、誰でもが、年収上昇を目指してがんばることができますが、成熟期を迎えた先進諸国では、付加価値労働に対する期待は、これまで以上に増すものの、そこまでいかないレベルの労働力に対する評価は、下がるばかり。
各所で、このような動向を指摘する動きは、見うけられるようです。(例:「今後、年収は、200万と800万に分かれていく」)
景気回復が日本より一足先に本格化しており、長期展望は、日本より明るいはずのアメリカでも、やはり、「一般ピープルは、自分の置かれている状況が、改善したとは思っていない」というのが、今日のお話。
米国の調査機関、ピュ―研究所が2014年1月に発表したデータです。
Despite recovery, fewer Americans identify as middle class
それによると、この1月に調査に答えた、約1,500人の米国人のうち、中流意識を持てているのは、44%で、直近の大不況前の2008年時の53%水準への回復基調が、まったく見られないとのこと。
それに対して、「下層(lower class)・中の下(lower middle)」という認識がある回答者の比率は、40%で、回復期に入ったといわれはじめていた2012年のからしても、さらに、増加しています。
2008年の段階では、みなが、バブルフィーバー。53%が、中流を自認し、下流・中の下と思っていた人の比率は、25%と、低かったのに、、、
上流(upper class)意識がある人は、2008年の21%から、今回の15%と、やはり、大幅に減ったまま。
より細かく、教育レベルに焦点を当てて、この調査を調べてみると、「大学中退組」においては、2008年次に、24%が、「下流・中の下」意識だったのが、現在は、47%と、大幅アップ。これに対して、大学を卒業しているレベルで調べると、12%から20%と、アップ率は、そこまで著しくなかったということです。
また、世代的に見ても、いまどきの日本同様?、ここでも、若い人が、苦労しているようすが垣間見られます。18歳から29歳の若年層は、2008年においては、4分の1のみが、自らを、「下層・中の下」とみなしていたのに対し、2014年の現在、この層のなんと49%もが、そうした意識で生活をしているというのです。
全世帯の所得の中央値(MEDIAN)を確認すると、事実、2007年12月時に$55,627だった世帯中央値は、2012年には、$51,017へと転落。(それぞれの数値は、物価変動アジャスト済で、2012年次の貨幣価値)これは、17年前の所得水準だということです。
そして実際、最大の後退を示したのは、事実、この中間層であるらしく、トップ20%の年収ダウン率は、2%なんだそうですが、中間20%(額面収入の分布図上、40%から60%の層)のダウン率は、8%。このことにより、格差が広がったということです。
同レポートで取り上げられていたBROOKINGS研究所のあるペーパーでは、総世帯の63%が、中央値以下の年収に甘んじているという指摘がありました。
(A Lack of Social Mobility May Foretell Rising Class Warfareから。)
この「中間層の空洞化」の背景にあると指摘されるのが、
a lack of jobs growth in middle-skill, middle-income jobs.
ミドルスキル、ミドル所得の職種が増えていないこと
ニューヨーク連邦準備銀行の調査によると、1980年から2009年までの間に、この種類の仕事につく人の数は、49%の増加を見せたとはいうものの、それに対して、未熟練労働における就業は、110%、そして、高スキルの職種への就業は、100%の増加を見せたということなのです。
この状態は、経済学では、最近、
”jobs polarization”(仕事の両極化)
と呼ばれているということ。この問題で権威とされるのが、MITのエコノミスト、DAVID AUTORという教授らしく、彼の研究によると、過去30年間にわたり、雇用動向は、低スキル職増加ばかりを強調する流れをもたらす結果に終わった、と述べています。(原文は、The Polarization of Job Opportunities in the U.S. Labor Market: Implications for Employment and Earningsから)
オーター先生によると、傾向は二つあり、この期間、
1)熟練労働を要求する仕事が増えているのに、1970年代後半から、特に男性において、それに必要な教育レベルを満たす層が、順当に増えていない。そのことにより、熟練労働に就業できる層と、そうでない層との間に、大きな所得不均衡が生じている。
2)同時に、熟練労働と未熟練労働が両方増加しているのに、その中間に位置する仕事、つまり、ホワイトカラーにおける、事務処理やセールスの仕事、ブルーカラーでいうと、生産、職人、機械操作の仕事が減少しており、そのことで、大卒の資格がない男性層に対して、特に、悪影響が出ている。
リサーチのまとめは、以下のとおり。
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Employment growth is polarizing, with job opportunities concentrated in relatively high-skill, high-wage jobs and low-skill, low-wage jobs.
求人機会は、二極化しており、多くの仕事が、比較的高スキルで高所得な仕事と、未熟練低賃金労働との間に分かれている。
This employment polarization is widespread across industrialized economies; it is not a uniquely American phenomenon.
この求人の二極化は、工業化社会においては、広く蔓延しており、アメリカのみの現象ではない。
The key contributors to job polarization are the automation of routine work and, to a smaller extent, the international integration of labor markets through trade and, more recently, offshoring.
この主たる原因は、第一には、ルーチンワークのオートメーション。その次に影響があるのが、国際貿易や、より昨今の工場などのオフショア移転により生じた労働市場の国際化。
The Great Recession has quantitatively but not qualitatively changed the trend toward employment polarization in the U.S. labor market. Employment losses during the recession have been far more severe in middle-skilled white- and blue-collar jobs than in either high-skill, white-collar jobs or in low-skill service occupations.
直近の大不況は、米国労働市場における雇用機会の二極化を、量的に悪化させたが、質的に変化させたわけではない。中間層における仕事の喪失は、両極における求人市場の状況より、ずっと深刻だった。
As is well known, the earnings of college-educated workers relative to high school-educated workers have risen steadily for almost three decades.
過去30年間の間に、大卒者の年収を、高卒者のそれと比べると、より大きな格差を生んでいる。この事実自体は、よく知られている。
Less widely discussed is that the rise in the relative earnings of college graduates are due both to rising real earnings for college workers and falling real earnings for noncollege workers, particularly noncollege males.
それに比べて、あまり議論されていないのが、こうした大卒者の年収が、高卒者のそれと比べて、高く思えるのは、実際に年収が上がっているからだけではなく、非大卒者の年収が、特に、男性において下がっていることが、原因の半分であるという事実である。
Gains in educational attainment have not generally kept pace with rising educational returns, particularly for males. And the slowing pace of educational attainment has contributed to the rising college versus high school earnings gap.
高学歴化によってもたらされうる利益は、どんどん高まっている反面、高学歴化自体は、思うほど達成できていない。特に、男性において、この傾向は顕著である。そして、その結果が、大学卒とそうでないものとの所得格差となって反映しているのだ。
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最後の文章は、少し文脈がわかりにくいですが、具体的には、「産業そして労働市場の高度化に下層労働者がついていけていない」といったことを、意味するようです。
別の記事を利用して、この状況を調べると、2000年次には、25から34歳のアメリカ人の大学やコミュニティカレッジ卒業率は、38%で、当時は、国際的に見て、第4位という地位にあり、悪くなかったものの、2011年になると、この比率は、43%となり、数字自体は、伸びてはいるものの、国際的に見ると、他国がもっと追い上げたため、今となってみると、これでは、国際的に見て、第11位と、若年労働力の高学歴化が、他の先進国と比べ、また、国内労働市場で年々要求されるスキルレベルアップに対応をするためには、不十分である話になっているらしいのです。(Dropping Out of College, and Paying the Price)
現在、アメリカ人の7割が、大学に進学するものの、そのうちの3分の2以下しか、卒業できていないというところが、ネック。大卒の資格がないと、単純労働から脱することができないわけですが、ここがジレンマで、大学のコストは、米国では、日本よりよほど高額になってしまう場合が多く、低所得者層出身の学生にとっては、この不況を経て、なおさら、届かぬ夢となってしまった可能性があるわけですね。
また、本当に、あらゆる仕事が高度になったという可能性のほか、巷では、昔なら高卒でよかったはずのエントリー職が、今は、競争上、大卒が条件となってきている、といった過剰競争?も指摘されているようです。
ロイター配信のある記事(Jobs become more elusive for recent U.S. college grads -NY Fed)によると、過剰学歴問題のことを、underemployment (立場より低い就職に甘んじていること)というとのことですが、関連データは、大卒新卒者に関連し、2001年に34%だった過剰学歴就職率は、なんと、直近、44%。今の米国では、大卒新卒者というのは、失業率自体は、最終的には、それほど高くは無いものの、実態としては、半分に近い若者たちが、バーテンや店員など、本来、大学が条件となっていないはずの仕事に、就業している状況が浮き彫りにされているようです。
米国人が大学の学位を取得することの経済的なメリットは、OECD諸国内比で見てもっとも大きいと、多くの識者は、依然、指摘していますが、オーター教授の指摘する二つの状況、つまり、
1)過剰学歴者が、低学歴者のお株を奪っている
2)ミドルスキルの仕事の増加率は思わしくない
を足し合わせると、今の世代にとっては、昔のように、「エントリーレベルの仕事」から、ミドルスキルの必要な仕事を経て、高度のスキルが必要な仕事へと徐々に上昇していく道は、「これまでの米国」に比べ、険しくなったのではないかと、想像します。
ブルッキングス研究所で公表された別のペーパーの指摘によると、すでに、統計上、年収トップ20%世帯出身の子供が、親と同じ所得位置につける確率は、40%近く、同様に、ボトム20%世帯出身の子供が、やはりボトム20%の暮らしをする確率も、やはり、40%近いのだそうです。(Skills, Mobility and the Glass Floor)これは、階級のSTICKINESS(粘着度のこと)と呼ばれており、実力主義と思われてきた米国では、実は、他の先進国より、この固定性が高いといわれ始めています。
全世帯の6割以上が、世帯中間値の年収より下の年収で甘んじているわけですから、階級間の流動性の欠如が、ウオールストリート占拠運動をもたらしたのも、むべなるかなということになります。
くどくどと、何をいいたいかというと、大不況前には、このPOLARIZATION(二極化)というものが、不況のせいなのか、そうでないのかが、はっきりしなかったのに対し、今、不況が緩やかな回復を見せているのにもかかわらず、”THE OTHER HALF”(あちら側の半分)の賃金は、上昇していかない。つまりは、今後、先進国でも、低所得者層(しかも、その数自体が増えている)が、成長回復機運に乗れないで底辺生活を続ける確率が、高まっているという状況が、生じているということ。
そして、それをもっとも正確に予測するための指標のひとつが、いまや、学歴(いろいろな業界におけるスキルを一元的に評価する容易な方法はありませんから、代替する要素として一番近いのは学歴と思われる)となったのですね。(この他、人種を取り上げることには、実際的な意味はあるといえば、大いにありますし、そうした統計もありますが、不動産業界では、FAIR HOUSING、住宅関係上の機会均等法が施行されており、関係者は、人種や性別、出自、宗教などの区別をしてはいけないことになっています。)
ちなみに、日本では、未熟練労働や、パート労働は、低学歴であるという特徴よりは、女性が担う構造が著しいようで、こうした立場の労働者は、その意味では、多少、米国の今の状況と、違うニュアンスもあるかとは思いますが、しかし、ある程度、先進国として、似た悩みを持つ「再出発」を今後していくのだろうということは、容易に想像されますね。
例えば、2014年のこの春に、安部政権によって打ち出された移民強化の方向性。専門性の高い職種、技術者に定住性を高めてもらうという方向性のようですが、この時期、若年層のみならず、全世代における就職氷河が長引いている中、このような動きが必要であると主張されるのは、長期的な人口対策もあるようですが、それと同時に、日本にも、米国同様、求人と求職の市場にミスマッチが生じており、その齟齬は、すでに、既存の失業者に対する就業訓練で対策できるような範囲ではなく、リアルに日本の成長を阻む要因になりうることを、政権が受け入れたという状況を反映していると理解すれば、わかりやすいでしょう。米国の政治状況同様、一般国民の支持は、絶対得られないことはわかっている、しかし、やるしかないのでしょうね。
私自身、今回の大不況までは、「不況のサイクルは、好不況のサイクルの一環」だから、恐れるにはあたらないということを、思ってきました。この意識自体は、5年前には、多くのアメリカ人がこう思ってきたのだと思います。
しかし、回復基調が出てきて、その現実を分析するこうした数字を目にするにつれ、グローバル化の構造というものが、これまでは、
「先進国が、後発国から、安いものを購入して、利便性を得ることができる」
「先進国が、後発国に、レベルの高いものを売って、利益を得ることができる」
という、先進国優位とでも、理解できていたところが、長年の搾取?の時代を経て、後発国の猛烈な反撃や成長を受け、
「トップ2、30%は、先進国と、生活振りが変わらないほど、後発国が追いつきはじめた」
「先進国のボトム20%は、後発国の”その他大勢”的な生活レベルへと、落ち込みはじめる」
というところまで、進んでいるのではないか、と感じさせられるようになりました。
一個人としては、胸が痛みますが、少なくとも、米国では、ここしばらくは、「みんなが元気になることを目指せる時代」は、もう、終わり。今後の成長方向を見極めていくためには、冷徹なビッグデータ分析が、不可欠だと、感じるに至った次第です。
上の図は、異なる所得層にとっての「戦後」。1980年くらいから、「一緒に上を目指す」傾向が乱れてきて、直近の景気回復にもかかわらず、このばらつきが、回復しない。A Guide to Statistics on Historical Trends in Income Inequalityから。
トップ5%(95TH PERCENTILEとある赤い線)
中央値(上からも下からも中間である黄色い線)
下から20%(20TH PERCENTILEとある黄色い線)
* 投資の具体的な方向性を検討するにあたっては、しばらく前に、SUPER ZIP(高学歴、高所得の人間が集まるエリア分析)について、言及したこちらの記事も、あわせて、ご利用ください。「怖すぎる! スーパージップってなんだ? Washington Post''s Interactive Map of Super Zip Codes」
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