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「年収は住むところで決まる」 エンリコ・モレッティ氏の研究の不動産投資家にとっての意味

対米不動産投資家の中山道子です。

2012年の本で、すでに翻訳されているので、ご存知の方も多いかもしれませんが、米国の人口動態に関連し「高学歴の人間の動きをウオッチングすると」という視点から書かれたのが、

Enriko Moretti, The New Geography of Jobs

日本語の翻訳は、さらにぶっちゃけのタイトル。

似たもの同士が仲良くなる、結婚する、集まる、といった法則というのは、個人レベルでは、自明のこととして誰もが体感することだと思いますが、この本は、具体的に、1980年代以降の米国で、

米国の都市の特徴が、居住者の学歴により、決定付けられる

ようになったプロセスを、追った本です。

ある程度、大卒者が居住していた都市には、より多くの大卒者が押し寄せるようになり、それほど、大卒者がいない都市は、社会経済的に、転落していくことに、、、

大卒者の収入が高いという事実自体は、これまでにも、当然のものとして位置づけられてきました。ハイテク企業などが、大卒者をより多く採用することもわかっていたと思います。それに対し、この研究、大卒者の待遇だけではなく、大卒者、特にイノベーション関係の仕事人が増えるに付け、同じ都市内で、非大卒者の待遇、周辺サービス業の業績も、うなぎのぼりになることを検証したことでしょうか。

世の中不思議なもので、こういわれると、「そういえばそうだよなあ」となる、社会的インパクトのある実証研究には、そういう力がありますね。

例えば、、、

田舎に住めば、給料が安く、物価も安い。

誰もが知っている事実なわけですね。同じ学歴、スキルであっても、都市部のほうが、仕事が見つかりやすく、見つかったときは、収入は高め。これまでも、私たちは、そうした「自明の理」に基づき、地元に仕事がなければ、上京したり、あるいは、地元にいい仕事があれば、子育てには地元が便利だからと地元に残ったりと、それぞれの人生戦術を立ててきたわけで、これは、万国共通だろうと思います。


さらにいえば、私の好きな「隣の億万長者」研究。こちらは、ずっと前の研究ですが、まとめなおすと、こんな感じでしょうか。


> 米国の小金持ち=純資産100万ドル以上の典型プロフィールは、実は、こんな人 <


□ 学業は優秀ではないが、大学進学している人が大多数。(卒業しない場合もある)
□ 小規模ビジネスオーナーが多い。所得水準が低い教師の率も想定外に高い。
□ 所得水準が高い医師や弁護士などの率は想定外に低い。
□ 結婚していて離婚しない傾向が高い
□ 共働きでない可能性が高い。(妻が専業主婦。引退前の仕事ナンバーワンは教師)
□ 生活が質素で、家、車、洋服、食費とすべてにケチ。
□ 中西部居住率が高い。(所得水準が高い西部・東部の比率が低い)


この成果も、つまり、モレッティ先生の見つけられたテーゼをすでに若いときから分かっている人が、お金持ちになるということでしょう。

つまり、

> 都市部に住むと生活費が高くつく
> 田舎に住む場合、所得が低くなる
> 医師や弁護士など高所得でも、高支出が期待されると、蓄財できない
> 田舎に住んで、自分の所得や支出を自分で決められる(自営)場合、一番金が残りやすい
> 但し、教師のように、所得が低くても、安定している場合、生活に金をかけず、優秀な能力を発揮し、賢い投資で資産形成できる場合が結構ある

というわけです。これは、「蓄財に関する個人戦略」レベルのひとつについてのしばらく前の研究成果。

世の中が、分断していくにつれ、実際には、「田舎には刺激がないのでいや」「高学歴者の自分にふさわしい専門職がほしい/似たタイプの人間と集まりたい」「子供のためには、田舎ではなく、教育のよい場所」といった個人戦略もありますので、「これまでの小金持ち」のあり方が、1980年代以降の社会のあり方を受けて、変わる可能性も存在していそうです。

さて、個人レベルの蓄財戦略は別として、社会問題という観点からすると、しばらく前に紹介したチャールズ・マレー《階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現》においても、似たような現状認識が下され、別の角度から、「米国の深刻な課題」として位置づけられていました。

> 似たものが集まろうとする磁力が強すぎて
> 上の人間は、下流の人間のあり方を知らないで成長し、そのまま過ごす
> このことにより、米国社会のダイナミズム、多様性が失われつつある

という問題です。

この問題を取り上げたポストは、こちら。


怖すぎる! スーパージップってなんだ? Washington Post''s Interactive Map of Super Zip Codes


社会政策は、その国の政治家に任せるしかないわけで、弱小の外国人不動産投資家にとっての悩みは、こうした「社会分断」に対し、どう行動できるかという問題。

モレッティ氏のテーゼにおいて、この問題は、

「どんな大卒向けの仕事でもいいのではなく、特にイノベーション関係の仕事が、それ以外の人間の雇用に対する経済的波及効果がもっとも大きい」

ということが指摘されています。

この理由は、イノベーション関係の仕事の対価は、通常、地元経済からの見返りではなく、国際レベルの貿易から生じることが多いから。

> まず、アップルのエンジニアの給料は高いです。しかも、それは、同社のグローバルの売り上げから支払われる対価。

> しかし、実際には、エンジニアは、地元に生活し、給料を地元で使うわけです。家を買い、コーヒーを飲み、髪を切り、ヨガ・インストラクターや子守を雇い、子供の教育も、地元でしかできない、、、

外から取ってきたお金を、おらが地元に落とす「効率のよい出稼ぎの仕事があるワーカー」のような位置づけだということなのでしょうか?それに対し、普通の仕事、例えば、工場勤務の仕事が増えても、収入も学歴も相対的に低い人たちの仕事は、地元への還元率が、それほど高くない。都市部の将来は、こうしたイノベーション型の仕事をどれほど、持って来れるかにかかっている。。。。


個人レベルのライフハック戦略としては、モレッティ先生によると、「だから、教育がないやつも、みんな都市部に行け」となりますが、大都市のほうが貧富の差が大きいこともありますので、それが、貧富の差を解決するための策とはいえないだろうという批判は多いです。生活の質が上がるかどうかは別ですが、年収があがっても、国際IT企業のエンジニア・レベルの人はいいとして、「付随的に仕事が派生する人たち」が、生活費が高いエリアで、生活が本当に楽になるか、という問題は、上に述べたように、昔から、個人サバイバル戦略のレベルでは、疑問視されてきました。まあ、個人事情や希望」により、都市部でも、そうでなくても、どちらもあり、というレベルかと思われます。

社会分析は鋭いけれど、一人で貧困問題の解決が提案できるものではないのでしょう。

私自身の専門である不動産についてみると、「じゃあ、大卒の増えそうな都市部で投資をすれば、すべては解決するのか?」といわれれば、そうではなく、サンフランシスコのように、一部の都市では、すでに、普通の人間が不動産投資をするような設定は資産的に、無理になっていますし、こういうインパクトというのは、10年、20年単位で、結果的に出てくる波なので、5年、10年を目標にする不動産にとって、そういうより長いスパンの想定では、必ずしも、ペースが合わない場合もあるような気もします。

一般に、どれだけ、高学歴者密集地を選んで投資をしようとしても、逆に、そういうエリアには、「メイドさんなどが生活する物件、地域」が近くに必ず隣接していたり、同じ郵便番号だったりします。周囲と比べ、格段に安いので、気をつけていれば、すぐ分かりますが、こういう物件は、賃貸は出来るかもしれませんが、エリア相応の値上がりは望みにくいに決まっています。

まあ、ごく一般論的に言えば、不動産は、流動性が低いので、長期にホールディングする予定の場合は、エリアの将来性が大切であることは間違いありません。投資先エリアの人種、学歴、所得構成、主要産業により、投資手法も、異なっていくわけで、こうしたデモグラフィーを抑えていくことも、長期投資においては、大いに参考にするべき意味がありますので、これらの本で、米国の傾向を、ぜひ、図書館などで、手にとって見てください。


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