私も、連邦の最低賃金引き上げ案を支持します
2015年4月15日の昨日は、米国主要都市中心に、世界的に、ファーストフード産業に従事する労働者を中心として、賃金引き上げのデモンストレーションが同時展開されたと報道されました。
ファストフード:世界同時 賃上げ1500円アピール
多くの方は、なぜ、4月15日に?
と思われたかもしれません。4月15日は、米国で、確定申告の最終日。この日が選ばれたのは、
「所得格差問題に焦点を合わせてもらうこと、また、こうした低所得層が、就業していながらも、生活を支えるために、政府による福祉の世話にならざるを得ない」
という事実、つまり、国民の税金を使って、ファーストフードや介護に従事する労働者を策することで、営利を得るビジネスモデルを助成しているという皮肉な状況をアピールするために、「この日」だったのです。
また、米国では、ファーストフードだけではなく、介護、小売店など、広い業界で、同様の事情があり、これらの立場からの参加もありました。
オキュパイ運動が本格化したりといった中、しばらく前から、こうした動向は、米国で、世論を喚起してきました。
例えば、ウオルマートで働く人の多くが、フードスタンプ(食糧配給券)を受給しているという事実。フルタイム就業させているのに、生活できないような低賃金しか払わないで、企業としては大きな収益を上げているとは、何事だ、というわけです。
もちろん、ウオルマートにも、言い分はあり、その主張は、金融街の利益を代弁するウオールストリートジャーナルで展開されています。
「ウオルマートは、米国随一の納税者です。なんで、米国一納税しているわが社が、税金泥棒なんですか?また、ウオルマートの仕事をなくした人のほうが、公的扶助を受ける必要が大きくなるわけですし。」
Walmart and Welfare
Low-wage employers aren't to blame for food stamps.
確かに、マクドナルドやウオルマートといった、こうした大企業は、こうしたシステムに「メリットを見出している」可能性はありますが、「これらのシステムを作っている」わけではありません。単に、環境に適応している私企業が、時代のニーズにマッチして、巨大化しただけなわけです。
やはり、これは、政治の管轄。
ということで、現在、焦点は、
《最低賃金上昇》
へと移っています。現在、米国の連邦法によると、最低賃金は、7.25ドル。オバマ政権、民主党は、ずっと、これを、2009年以来の7.25ドルから、10.10ドルに引き上げようと躍起になってきました。表面的には、多少値上がりしてきているのですが、物価調整すると、20年前の1981年と比べ、2割安と指摘されています。
この動向はしかし、共和党、州レベルで、強固な反対にあってきているのです。
昔からの経済学の古典的理論によると、
「市場に政府が介入しすぎるとろくなことはない。労働市場の場合、賃料が上がりすぎると、企業は雇用を控えるわけで、その結果、労働者側は、最終的には、失業したりして、かえって損をしてしまう。なので、最低賃金をあまり上げるといったような積極的な介入をすると、その結果、雇用減少、ひいてはそこから景気停滞にも陥りかねない」
といったようなことが、教科書的には言われてきました。日本では、専門家に近いレベルでも、この認識が、依然、支配的なようで、私も、周囲の経済学に詳しい日本人に、そういうことを言われて、「そうなのか」と思っていた時期があります。この点については、記事の最後で取り上げます。
しかし、最近、報道されている貧困問題が、ますます深刻な社会問題化し、今後の米国の繁栄にブレーキを掛け兼ねないことを、私自身、マイクロ不動産投資家として、体として感じます。
今の米国の不動産市場、このブログでも再三、指摘してきたように、「市場全体が、人口増や経済成長の恩恵をこうむる」のではなく、まだらなのです。
日本などの他の先進国に比べ、人口増の魅力が喧伝される米国ですが、その人口増の最大のベースは、「ヒスパニック系」の方々。
その次が黒人で、2050年には、米国では、非ヒスパニック系の白人の比率は、49%に落ち込みます。ちなみに、「ヒスパニック系でない白人」には、米国では、統計上、アラブ系が入るのですから、日本人が思うように、この49%すら、別段、全員が、ヨーロッパ系ではなく、アラブ系、イスラム系の米国人というまた一枚岩ではない人々の比率を引くと、実際の統計がそこまで細かく計算されていることを見たことはありませんが、日本人が、米国人に求める「ヨーロッパ系白人」の比率は、もっと早く、マイノリティ化するはず。
そして、ヒスパニック系、黒人の資産統計を見ると、いずれも、2008年前後の経済恐慌を経て、「経済恐慌前より、白人との格差が増した」ということがわかっています。
つまり、「2050年の米国は、さじ加減によっては、ぶっちゃけ、教育不十分、福祉の厄介になる人々ばかりが大いに比率を増やす経済大?国」になりかねないのです。
そのようになってしまった米国では、何が起こるかというと、まさに、シリコンバレーで起こってしまったことが一般化するのではないかと私は危惧しています。つまり、
「貧困層は、ストリートチルドレン。普通の中産層の人間にも、まともな生活を成立させることすらできず、一部のスーパースターたちが、入れ替わり立ち代り跋扈する」
落ち着かない経済圏です。
去年あたりから報道が始まった
《シリコンバレーの不都合な真実》問題
を見てみましょう。
グーグル・ヤフー本部の目と鼻の先には、THE JUNGLEという「巨大野宿村」が存在し、行政の立ち退き要求に抵抗しながら、多くの子供が今まさに、そこで、フィリピンのスラム街、ゴミ山の子供たちさながらに、ホームレスとして成長しているのだといいます。
CNNの John Sutter 記者の渾身のシリーズ・レポートは、こちらからどうぞ。
悩みは、低所得者層だけではありません。
シリコンバレーでは、確かに、IT産業においては、大卒新卒の初任給は、10万ドルだったりするようですが、実際には、常に雇用見直しが行われており、成長が続き、人手不足が主張される中でも、業界では、去年、2014年にも、多くのレイオフが敢行されました。つまり、そういうビジネスモデルなんですね。
Why Are Tech Giants Shedding Jobs?
1年、2年といった期間だけ、ウン10万ドルで雇用されるということで、呼んでもらえても、すぐに追い出されるのでは、たまったものではありません。もっと若年の、インドや東欧のプログラマーとかが、いくらでも、自分を追い越しにくるわけです。
しかも、テック産業以外の産業は、天下のシリコンバレーとはいえ、それほどの収益性がないので、恩恵はなく、物価高ばかりに苦しむのは貧困層と同じです。
例えば、高学歴者にとっても、地元のサンホセ州立大学なんかでは、「生活が苦しくなるからと、教授陣のなり手がいない。博士号を取って大学の教師をしているだけでは、共働きでも、絶対、家なんか買えない」のが実態なんだそうです。
Nearly 300 Share Stories on High Cost of Living in Silicon Valley
つまり、この経済では、低所得者層のみならず、専門職、中間層も、どんどん生計が立たなくなっていき、上層部を見ても、常に入れ替わり、長期的に見ると、勝者生活が維持できる層は、本当に1%いるかいないかといった話。
メディアのこうした報道には、コメントで、「高額所得者しか住めないエリアに住むのが悪い」「出て行って子供の面倒をもっとちゃんと見ろ」といった発言をする読者も見受けられますが、米国のどの都市でも、多かれ少なかれ、このようなことが起こっていることを考えると、基本、「新しい経済に適応できない?人たち」に対し、社会は、どのような解決を与えるべきなのか、という政治の問題に、話が戻ると感じます。米国の大都市は、今後、どんどん、「シリコンバレー化」(途上国化と言い換えてもいいかと思いますが)していくことでしょう。
というのも、この「非適合者たち」は、実は、普通に人口の大多数であるだけなのではないかというのが、この「ラットレースぶり」を見て私が感じることだからです。
負け犬陣営は、実は、新しい経済体制の中では、どんどん増えていくばかり。というのも、「出自だけでOKだった2世紀前の勝ち組と違い、21世紀の勝ち組は、能力主義をも体現しなければいけない」から。
想像するに、米国上院議員の家庭に生まれて、高額の教育費をかけてもらえても、能力的に、自分自身が、プレップスクール、アイビーリーグで一応やっていける、ウオール街で通用する、そういったくらいの素地がないと、やっぱり、「負け組転落」の可能性があるわけです。
トップの人々以上に、「そこそこ中間層」?の私たちは、今は大丈夫でも、来年はわからない、自分が大丈夫でも自分の子供の時代はわからない、子供がうまく行ったら、孫はだめだったといった調子で、「毎日毎日、一生、代々、ゲームに参加しなければいけない」わけですから、加速度的に、くじで負ける確率は、上がっていくばかりだというのが、実態ではないでしょうか。
1パーセンターならともかく、たいしたエッジのない中産階級の私たちの代わりはいくらでもいます。うちの子の将来のライバルは、きっと、ちょうど今、アフリカで、オンライン(MOOCS)でMITの講義でも受けていることでしょう。這い上がる人というのは、何百万人の中から。かなうわけがありません。
そうした中で、不動産投資家としても、長期投資をしたら、自分の投資エリアが、思ったように向上せず、隣の町は、うまく行ったのに、この町は、スラム化したといったような「不動産という資産自体が、どんどん流動化する」ことも、ますます起こってくるかもしれません。
不動産ホールディングは、そもそも、通常、3年や5年では決着がつきません。インフレ率を超えた長期資産へと成長してくれると思って購入してるわけですから、その間に、「これ」と見込んだエリアが、思うより伸びなかったどころか、インフレヘッジにならなかったショックを想定しててください。すでに、サンフランシスコどころか、ヒューストンであっても、私の周囲の個人単位、家族経営単位の投資家様は、そのレベルでは、相当資産がある方であっても、「もう投資に値するような値段では、これと思うエリアでは、買えないんだよね」といった話になってしまっています。
そんな中、「普通の中産層の私たちに今、買えるエリア」は、すでに、場合によると、「今後の動向が微妙なエリア」なわけです。だから、今、まだ私たちのような「普通の人」が手が出るのです。その程度の「そこそこ案件」、3年5年単位はいいかと思いますが、長期的に、吉と出るか、本当に確信がありますか?
このように、新しい経済のあり方というのは、「貧困層=無能力な人々が落ちこぼれているだけ」の実力主義の経済なのではなく、能力や経験、学歴にすらかかわらず、誰でもちょっとしたことで転落しかねない恐怖の過剰流動化社会。
ここで、最低でも次世代へのセーフティネットによる世代格差硬直化をとどめなければ、たぶん、将来の米国人口においては、高校もドロップアウトしたようなストリート出身者が、投票のマジョリティを握ることになりかねません。
というのも、上で報道されているシリコンバレーのある統計によると、サンホセエリアでは、子供の3人に1人が貧困だというのです。
こうした子供たちが大量に成長し、成人労働人口の中で、意味のあるクリティカルマスを構成するようになったらという恐怖を想像してみてください。米国市場は、消費者市場、労働力供給の場としても、その魅力は大いに落ち、そうとなれば、金持ちは、最終的には米国を捨てて、「次のシリコン・バレー」を見つけるだけで、ついていこうとするだけ、こちらはくたびれ損なのです。
最後に、最低賃金引上げ論に戻ると、上で取り上げた昔の古典経済学の自由主義理念に対し、実際には、米国では多くのリサーチが行われ、現在、経済学者のコンセンサスは、最低賃金引き上げのメリットを長らく主張するものへとなっています。いわく、現実には、
《最低賃金の合理的な範囲の引き上げは、地域経済圏において、雇用に対し、意味のあるマイナスのインパクトを及ぼすことはない》
ということは、専門家レベルでは、ほぼ、実証されているといっていいのだそうです。
私はこれらの論文原典の詳細なロジックを自分の力で検証するレベルの知識はないのですが、例えば、日本でも有名なジョゼフ・スティグリッツ博士をはじめとして、ノーベル経済賞を受賞した経済学者も数多く賛同した「経済学者600人以上がサインをした共同声明;連邦最低賃金を10.10ドルに引き上げる民主党の政策を支持します」をご覧ください。ローレンス・サマーズ元ハーバード大学学長の名前もあります。
また、米国に存在する64本の研究事例を検討した総括論文は、こちらから。
Why Does the Minimum Wage Have No Discernible Effect on Employment?
結論として「雇用に意味のあるインパクトがない理由の候補として、最大の可能性があるのが、解雇控え、組織改善、より高額な労働者の費用カット」があげられています。
特にスティグリッツ教授は、まさに、こんな本も、出されているそうで、私の思ったことが、きっとより正確な形で、論証されているのかと思います、、、
レビューによると邦訳は、イマイチらしいので、英語の最新刊はこちらになります。
興味があるけど、本を読むまでもない方は、2011年のバニティーフェア誌の彼のテーゼをどうぞ。
Of the 1%, for the 1%, by the 1%
The 1 Percent’s Problem
日本では、米国と異なり、非定型就労している労働者の多くは、子供を持つにいたりません。
それにもかかわらず、シングルマザー問題に見られるように、子供の貧困は、日本でも大きな問題になってきましたが。。。
これは、人道主義的な見地から重要な問題であるのみならず、社会政策としても、「金持ちにとっても、ここら辺で格差問題に立ち向かわないと、自分も後々困る」レベルの話になってきていると心から思います。私の実感同様、スティグリッツ先生は、「1パーセンター自身が、長期的に見ると、本当にうまくやれているわけではないかもしれない」とも指摘しています。圧倒的大多数がどんどん貧乏になっていく中で、総消費は、減少し、市場が縮小してしまうわけですし、不満層が増えるにつけ、「エジプトの春」が、米国に来るのはいつか、このままでは、米国が、「次のチュニジア、リビアなみに、政情不安に直面するのは、時間の問題だ」と。
日本については、私は意見を言えるほどリサーチをしていないので、ここら辺で筆をおきますが、先細り大国、日本でも、米国以上にこうした困窮層の家計安定が、実現していくことを、心から祈っています。
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