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日本人の『アンフェア・ディスアドバンテージ』は拡大しつつあります

中国在住の対米不動産投資家、中山道子です。昨日は、ロバート・キヨサキさんの『アンフェア・アドバンテージ』の書評を書きました。こちらから

そのときも言いましたが、この「アンフェア・アドバンテージ」(意味的には、不公平な情報・ノウハウ格差といったイメージでもいいと思います)って、さすがのフレーズです。

「勉強して、いい学校に行き、高給取りになりなさい」という親の教えを守って、見事成功してみたら(そんなことを言われても、失敗する場合のほうが多いわけですから、いわば、勝者になっても、ということですね)、仕事は忙しくなるばかり、しかも、高額所得者として収入の半分は差っぴかれ、、、

それに対し、キヨサキ氏は、「金持ちになる人間は、そんな非効率なことはしない。投資家(I、INVESTOR)クアドラントかビジネス(B、BUSINESS)クアドラントに行けば、儲かりやすい上、手残りしやすいんだぞ」というわけです。

ロバート・キヨサキ氏のいうような「不公平なほどの、立場上の圧倒的な優位」というのは、相当な努力をしないと、生じない優位であるという話なわけですが、私たち先進国生まれの人間は、生まれながらに、なんら努力しなくても、後発国の人々の比べ、「アンフェア・アドバンテージ」(先進国に生まれる運という優位性)に立っていますね。


語学も、そんな『アンフェア・アドバンテージ』のひとつかも。

北米人などの英語を母国とする国の人々は、外国語をなんらしゃべらず大人になっても、英語しゃべりということで、世界中の人々に英語をしゃべってもらえます。また、これといったスキルがなくても、大学を卒業するだけで、英語を教えるという仕事が、世界のどこかで、ほぼ確実に得られるであろう状況というのは、今後も変わらないかもしれません。

実は、世界で、もっとも多くの語学人口を抱えるのは、英語ではなく、中国語(いろいろなバージョンを含め)。その次が、スペイン語や英語、ヒンズー語らしいですが、英語の場合、多くの先進国で、使用されてきたことで、確固たるグローバルな地位が、、、

英語圏の人々は、語学上、「アンフェア・アドバンテージ(不平等な優位)」にある。そして、例えば、少数民族は、「アンフェア・ディスアドバンテージ(不平等な劣位)」にある、ことになります。

中国語の場合、「しゃべる人口」は多かった反面、中国語人口には、経済力自体が伴ってこなかったため、これまでは、それほど、影響力がなかったですが、今、中国本土が経済力をつけてきたことで、堂々たるグローバル言語となってきたのを実感します。

それに対し、日本語の場合、日本人の数が多いため、「トップ10言語」の仲間入り自体はしているものの、話す人口が居住するのは、主として、日本でだけ。また、日本人の人口が伸び悩む中、世界人口は増えているわけですから、今後、「トップ10言語」から、転落することが、予想されそう。

人民元決済が世界に広がりつつあるといったニュースは、日経に出るわけですが、しかし、同時に、中国語が世界に対して持つソフトパワーがいかにあがっているかということは、なかなか、ニュースでは、取り上げられないかもしれません。

ということで、ここからが本題ですが、実は、今週、中国で、カナダ籍の友人たちに、「投資指南をしろ」といわれ、老後に向けての堅実なインデックス投資信託ポートフォリオ作りについて、出張講義をするという機会がありました。

それに当たっては、彼女たちと似た立場である「カナダ人エクスパット」が書いた『グローバル・ノーマッド向けの簡単投資信託入門本』を紹介しておきました。この夫婦はもともと中国出身で、カナダ転勤になった際に、一家そろって移民手続きをし、その後、企業勤務を続けて、中国に戻ったのですが、そんなわけで、今の立場は、「中国で勤務するカナダ籍のエクスパットである」というわけ。お子さんの大学教育と、ご夫婦のリタイヤは、カナダでと決めています。

紹介した本は、こちら。


そうしたら「本は読んだが、よくわからないのでレクチャーに来い」というご用命があったというわけ。

こちらに来て以来、何かと世話になってきた親友Rさんのご依頼ですので、一も二もなく、お宅に伺ってきました。(念のためお断りしておきますが、私のインデックス投資信託について知識は、本当に、基礎的なもので、単に知り合いに、友人として、入門本に一通り書いてあるようなことを話しただけです。この夫婦は、投資信託と株式投資の違いがわからないレベルの人たちなので、それでも用が足りると思い、レクに行ってきた次第ですが、このブログで、そんな恥ずかしいレベルの記事を今後、書いたりするつもりはないのでご安心くださいw)

二人は、英語はとても上手ですが、やはり、教育は、中国で受けられた方々なわけで、欧米式のファイナンシャル教育は、受けたことがなく、英語で、いろいろ説明しても、いまいち、すぐにはぴんと来ない様子。

そこで、「上の本の中国語訳があるかな」とアマゾン中国で調べてみたら、見事、ありました。二冊目は、今年出たばかりなので、まだなのですが、2011年に出た一冊目は、北京語と台湾語両方のオプションがありました。

下の画像は、北京語のほう。


andrewchinese.png


例によって、英語原文は、キンドル版でも、米国アマゾンで、11米ドル、ハードカバーなら14ドル近くするのに、中国語翻訳版は、25元、日本円で、480円ほど。そう。中国は、本が安く、特に、翻訳本の場合、ほぼ確実に原典より安いのです。

台湾語(繁体中文)のほうは、もう少し高くて、70元1,300円。台湾の会社が別ルートで翻訳出版したものでした。

早速購入し、プレゼントのための配送手配をしましたが、しかし、調べて、実際に、翻訳があったことで、逆に、私も、びっくり。

中国では、お金の海外送金は、結構な規制があり、私も、中国でビジネスをされていたお客さんを存じ上げていますが、「意味のある額は、貿易の売り買いのやり取りに充填するなどして持ち出すしかない」と聞いています。

この本は、「国際的な転勤を繰り返し、母国の税制や年金体制に所属できない人々向けのリタイヤ資金貯蓄指南本」。開設口座には、スイスやシンガポールなどが紹介されています。海外送金は、「子供の留学」とか、それなりの表向きの理由があるか、ビジネスをやっているかといった限られた立場の人でないと、難しいのではないかと思うのに、そんな普通の中国人向けに、中国の出版社が、このような「オフショア投資本」を出版し、堂々と販売、しかも、たくさんのレビューがついている、、、、(実際、コメントには、「中国国内の状況は違う」というものが多かったようです)

本国では規制ばかりの中国人も、海外勤務をしている間は、どうやら、いまや、こうした方法を取ることは難しくも、珍しくもないらしく、1冊目では、中国人向けの言及はありませんでしたが、2015年の2冊目には、「中国人エクスパットはこうしなさい」といったポートフォリオ作りのモデルケースが、堂々と紹介されていました。1冊目が、中国ですぐに翻訳されるほどの熱意を持って迎えられたという事実も、二冊目でのメンションに、影響を与えたのでしょう。政治については、依然、センシティブですが、なんだか、それ以外は、結構自由な印象。そうとなれば、何せ市場規模が大きいですから、日本のような市場の何倍もの販売力があることでしょう。

ポートフォリオ作りに当たっては、カナダ人、イギリス人、アメリカ人といった先進国のエクスパットのモデルのみならず、このように、中国人の例、シンガポール人エクスパットの例、タイ人エクスパットの例、南米や南アフリカ出身のエクスパットの例などと、広く世界の人々が、カバーされてますが、、、日本人エクスパットの例は、、、、、ありませんでした。(韓国人の例もなかったです。)

この方は、長年、シンガポールにいて、知り合いの投資相談にボランティア的に乗っていたということなので、「日本人に相談されたことなんか、なかった」んでしょう。日本在住の外国人のケースは、メンションがありますけど。。。

そう、この本も、日本語訳は、出ていません。

「タイ人エクスパット」や「香港人エクスパット」より、「日本人で海外勤務しているエクスパット」の数が、少ないとは、思えないのですが、たぶん、「日本企業に勤務する場合は、年金が、企業内で続いている」という体制が特徴的で、日本人エクスパットは、普通、老後のことを心配しなくていいのでしょう。

日系企業の福利厚生体制が手厚いということそれ自体は、素晴らしいことだと思いますが、「インターネット上のグレートウオール」で有名な中国で、情報統制が厳しいにもかかわらず、今、中国人は、たぶん、歴史上初めて?、空前のスピードで、海外情報に容易に触れる立場に立っており、今の中国では、欧米で出た本は、翌年、または、日本より早く、半額で中国語で読めるようになっているというこの現実。

冒頭に取り上げたロバート・キヨサキ氏『アンフェア・アドバンテージ』の場合は、原典が出たのは、2011年4月、日本語版が出たのが、この2015年3月。中国語版も数年かかりましたが、それでも、2014年1月と、日本より、1年以上前に出ています。

しばらく前に取り上げた超話題作、トマ・ピケティの《21世紀の資本論》(2013年8月)すらも、日本は、2014年12月(6,000円)で、中国に3ヶ月、後れを取りました。(2014年9月、1,100円)

上では、「日本では、企業年金があるから、投資信託指南本に対する需要がないのだろうか」と考察しましたが、今は、日本も、2014年1月から、毎年100万円までの投資枠が非課税になる退職金積み立て対策のNISA口座などができたりと、あるレベルでは、国際水準(よきにつけあしきにつけ、米国の動向とほぼ同義)に追従してきています。

そうした中、日本では、投資信託分野の本は、最近急増していると思いますが、実際には、昔の名著の翻訳以外は、直近、国内の著者のものばかりが目立ちます。

制度は違うのですから、日本の制度について言及した具体的なノウハウ本は、絶対必要でしょう。しかし、投資信託の理論と実証研究については、基本、アメリカをはじめとする海外での蓄積が前提。今でも、世界の市場の49%は米国市場が占めています。その部分については、有料の「新刊」本を買う以前に、VANGUARD.COMに計上されている無料のホワイト・ペーパーをすべて読むだけで、たぶん、日本の専門家の本のネタ元の大部分の基本情報は、カバーできるでしょう。失礼ながら、日経新聞のオンライン記事と比べる範囲では、場合により、日経の記者より知識が豊富になれそうな気がします。

日本でも、ヴァンガードは、同一条件で、販売を開始し、エクスパットでなくても、日本在住の日本人が、わざわざ、米国ヴァンガードで投資をしなくても、日本で、ETFが買える様になったわけですが、しかし、低コスト投資信託ブームの元祖であるこのヴァンガード英語サイトで提供されている情報量というのは、2015年5月段階で、依然、日本サイトとは桁違い。(参考数字:ニュース投稿は、米国サイトで、503件対日本語サイトに、49件なので単純に10倍?)

日本というマーケットが、どれほど重要なものとなるかで、今後、どれくらい、既存の情報が、順次、日本語に翻訳されていくかが、決まるのでしょうか。今の段階で、ここ20年間、経済成長がない日本が、新興国が年率4%、先進国が2%成長している中、それほどの重要な地位を、再度、急激に占めるようになることを、あなたは、本当に、期待されますか?

10年前の情報弱者は、中国のような新興国の一般庶民だっただろうと思います。「すでに、立場は逆転し、日本の一般庶民こそが、情報弱者になった」、くらいの危機感を持つべき時が来ました。

「今までも、英語しゃべりに比べると、情報弱者だったんだから、まあ、同じだよ」、と嘯かれる方も、おいでかもしれません。

しかし、今は、


(1)英語喋りに対するもともとの劣後にプラスして、
(2)英語の情報の翻訳を待っていても、人口減で、本が、売れなくなっているため、遅い、翻訳されない、されても、高いなどで、加速する国際社会のスピードに反比例し、ついていけなくなるのみならず、
(3)周辺成長国や競合国では、英語ができる人口が増えている上(韓国なんか一昔前は日本と同レベルだったらしいが、今は違う)、
(4)しかも、英語ができなくても、中国語ができるだけで、こっちより、情報強者になれる人というのが、めちゃくちゃ増えた(中華圏の情報の価値が、いやます上がりつつあるほか、英語圏の情報も、多少遅れるものの、日本より早く、多く、しかも、英語原典情報より割安に伝わるようになったから)


状態になったわけです。

私の目から見ると、こういう中、日本人にとっての「アンフェア・ディスアドバンテージ(不均衡な情報弱者化)」状況は、相対的に、より深刻になったのではないかと、感じます。

情報弱者を脱却する方法は、最終的には、「日本語だけで情報収集をする習慣に見切りをつけ、海外の情報については、最終的には、ソースに直接当たる」ところまで行くことを目標にする以外には、思いつきません。

キヨサキ氏の本の例を何度もとりますが、2011年に出た《アンフェア・アドバンテージ》が、2015年現在、翻訳されて出版されたばかりだからといって、それを手にとって、「新刊本に目を通し、情報通になれる」と思ってしまっていませんか?

今読むのがいけないとは言いません。この本の場合は、比較的ロングセラーになるように、計画的に執筆され、それほど古くなっていない感じはしますが、一般には、情報には鮮度というものがあります。

周囲の日本語の情報源(家族、友人、同僚。日本のテレビ、新聞、ネット情報。翻訳書を含めて)だけを基準に物事を考えていては、《アンフェア・アドバンテージ(情報優位)》には、もう立てない、それが、今の日本の現実です。

(ここまで読んで、「ここは日本だぞ」「自分は日本人だから、関係ないよ」と思われるような方はあまり私のブログなんか読んでおいでにならないと思いますが、今後の経済動向を踏まえ、日本を離れない方も、国外に、少なくとも収入や所得、機会の一部を求めることでしか、次世代を含め、長期デフレ、低成長傾向に対抗する成長方法はないという前提でお話をしておりますことを、最後に付記します。20年先のことを考えたことがない方にはぴんとこないかもしれませんが、逆に、蓄財や資産形成にご興味を持ち始めたばかりの方は、「資産家は、長期展望があるから資産家になれるのだ」ということを、認識されるといいと思います。)

中山からのお願いです。
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