人口増に、経済成長。それでも、米国人の所得は下がっていく!
対米不動産投資家の中山道子です。今、米国で夏を過ごしています。デトロイト近郊、シカゴと投資現場を回り、今は、子供のキャンプに滞在させてもらっています。ここは、宿泊型キャンプなのですが、ゲスト用の宿泊棟があるため、私は別棟に一人、いわば、”ホテル暮らし”。子供とは、1日、数十分顔を合わせるだけの「子供からのバケーションタイム?」を満喫中で、親子関係も良好、仕事も大変はかどっております(笑)。
さて、今日は、例によって、社会問題や都市・人口問題を鳥瞰するために、よく見ているブルッキングス研究所のサイトで、「シンプソンのパラドックス」という言葉にめぐり合いました。
これは、「母集団での相関と、母集団を分割した集団での相関は、異なっている場合がある。」という統計学上のマジックをいうようです。
具体的にどういう例があるかというと、、、
=====シンプソンのパラドックスの例
一昔前、カルフォルニア大学バークレー校は、女性差別で、訴訟を起こされたことがあるそうです。理由は、「応募する女子学生総数に対し、合格する比率が男子学生より低いから。」
そのデータから、組織的な性差別があるのではないかという疑義が生じたのだということですが、実は、進学先ごとに見ていくと、どの学部でも、女子学生のほうが合格率は高かったんだそうです。
どうして、このようになるかというと、
「女子学生は、合格率が低い学科を選ぶ傾向があり、男子学生は、合格しやすい学科を選ぶ傾向があった」
からだったそう。
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日本流に言うと、アメリカの女性は、1970年代から、「肉食系」だったんですね。日本も、今、その波が来ているところでしょうか。女性も男性も、もっとがんばれ!
ということで、今、「壮年米国人男性の年収は、下がっているのか、下がっていないのか?」というのが、この記事のお題。
元ネタ記事は、こちらから。
When average isn't good enough: Simpson's paradox in education and earnings
現在、米国でも、壮年(25から44まで)男性の年収の中央値が、下がっているという統計があるわけですが、
(上の記事から原文引用)
Between the bottom of the early 1980s recession in 1982 up to 2013, inflation-adjusted median earnings of men aged 25 through 44 fell by about $1,000, from $34,000 to $33,000.
(大意)
1982年から2013年にかけて、インフレ率を考慮に入れても(つまり額面年収を比べているわけではなく物価上昇率を計算に入れている)、25から44歳までの男性の年収中央値は、3万4,000ドルから3万3,000ドルに下がったことがわかっている。
しかし、実は、これは、「シンプソンのパラドックス」の一例だというのです。
(上の記事から原文引用)
However, the same earnings measure rose by more than $3,000 for white men, increased just under $1,000 for black men, stayed flat for Hispanic men, and shot up by $10,000 for other men (mostly Asians). Except for those of this last category, these changes are hardly something to crow about, but they’re better than a $1,000 decline.
(大意)
しかし、白人についてみると、年収の中央値は、3,000ドル上がっている。黒人男性については、1,000ドル弱の上昇が認められる。ヒスパニック男性の年収は、変わらなかったが、「それ以外の人種」(主としてアジア人が構成)は、1万ドルという上昇が認められた。この最後のカテゴリー以外については、声高に自慢するほどの上昇ではないが、それでも、「この数十年で、年収が1,000ドル下がった」という指標より、ましなのだ。
そう、その理由は、ずばり、「マイノリティの比率が上がったから」なのですね。
人種ごとで見ると、アジア系は、依然、アメリカン・ドリームを体現している様子。(米国統計では、アジア系には、インド人などのコーカソイド系アジア人も入ります。)それに対し、人種比率が大きく上がっているヒスパニック系の男性は、ほとんど所得上昇を経験していないのです。
この論者の言うように、「個別人種で見れば、悪化したわけではなく、むしろ、どちらかというと、良くなっている」というのは、それはそれで、理ありで、状況をより細かく分析するに当たっては、大いに有益なインプットですが、それでも、国力全体の観点からすると、結論は、避けようがありません。
つい数十年前までは、”白人の国”だったアメリカは、2060年に、白人が、マイノリティになる(人口の50%を切る)まさに、”人種のサラダボールの国”になることは決まっており、人口増の主たるけん引役は、このヒスパニック系だということが、わかっているのですから、やっぱり、「中流のアメリカ人は、貧しくなりつつある」のです。
今後、中産階級は、ますます、断片化し、「なにがミドルか」自体について、人種間の格差がますます分断化し、ビジネスをする側にとっては、「どこのセグメントを狙うか」という問題が、これまで以上に重要になるでしょう。
こういう「シンプソンのパラドックス」、もともと、不動産については常識。ある都市で、「不動産の値が上昇した」という統計があっても、エリアごとに上昇率は違うのは(エリアによっては下がっているところもあるかもしれない)、言及するまでもないほど、自明のことですね。
これを、人種で見てみると、例えば、デトロイト市の黒人構成は、現在、80パーセント強ですが、ミシガン州全体で見ると、連邦平均とほとんど変わらない14%で、南部と違い、黒人の比率が高いわけではありません。人種により居住地域に、大いなる偏りがあるわけですね。
そして、黒人、ヒスパニック系はもとより、数的にまだまだ少ないアジア系であってすら、ハワイの人口の6割近くを占め(アジア人だけでなく、他の人種との混合系も含める)、本土でも、大都市に、コリアン・タウンなどつくるなど、異なる人種グループは、多少の融合を果たしながらも、基本的には、可能な限り、似たもの同士で生活します。
同じ白人でも、いつ移民したかという違いから、ポーランド系、イタリア系、アイリッシュ系などは、イギリス系移民(つまり、初期入植者)とは、どうやら立場は大きく違うようす。その結果、シカゴなんかには、そこここに、「ポーリッシュ系」エリアといったミニポケットが存在します。
さらに、現在、統計上は白人扱いされているアラブ系は、宗教自体がユダヤ・キリスト教文化ではないわけです。
そのため、例えば、ミシガン州ディアボーン市では、アラブ系が占める比率は、実に、総人口比の半数に近いと思われています。(アラブ系は、今後、連邦統計局において、これまでのように、「白人」ではなく、独自カテゴリーとして扱われることになりましたので、将来は、より正確な数字が出てくるでしょう。)
取り扱いには、大いに注意も必要な、このシンプソンのパラドックス”人種”編。
投資家としては、TPOによっては、口に出すことは出来ないながらも(例えば、「賃借人に、これこれの人種の人は困る」などと発言して、それが、相手の耳に入れば、住宅関連の機会均等法上、確実に訴えられます。同様に、管理会社にそのような申し入れをしても、法律違反の片棒は担いでもらえません。)、投資対象エリアの分析上、こうした人種間の社会経済的背景を念頭において行動する必要があるのは、確実でしょう。
米国は、依然、巨大な成長市場です。
総世帯の二割が、10万ドル以上の年収を確保しており、世帯中央値が5万ドル強(米国統計局)をエンジョイする超大国であることには、変わりがありません。投資の透明性、各種制度のありかたと、どこをとっても、長期スタンスで取り組むことに意味がある市場であるということを疑う投資家は、あまりいないでしょう。
しかし、問題は、「どう取り組むか」。
国外の投資家は、この市場のあり方を、確実に理解している現地パートナーとタッグを組んで行動していく必要があります。
あわせて、こちらの記事も、ご覧ください。
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