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不動産業者さんが、学区の良し悪しに言及できないわけ

対米不動産投資家の中山道子です。

現代社会では、加速度的に、教育格差が広がっています。この前読んだ本は、2016年8月に出たNYTベストセラー。

スタンフォード大学の学生部長が書いた"How to Raise an Adult-Break Free of the Overparenting Trap and Prepare Your Kid for Success"(大人の育て方ー過保護な子育ての罠を断ち切り、子供を真の成功者に)という本なんですが、日本でしばらく前に批判された<過保護な子育て法>を批判するような内容で、書かれている内実が、日本以上に深刻なのが苦笑でした。

今、日本人の留学熱は下がっているので、欧米大学事情を反映するこの本は、市場不十分なら、翻訳も出ないかもしれません。

この学生部長さんは、「過保護な親が、毛並みはいいけれど、覇気がない若者を大量にアイビーに送り込んでくる」最新事情に気がつくとともに、パロアルトに住む自分たちも、自分の子供に対し、過保護、過度なヘリコプタリング(米国式流行語で、ヘリコプターのように周囲を旋回する、構いすぎるの意味)を行っていることに気が付き、

<親御さん、一緒に、ヘリコプターペアレンツをやめましょう!私もやめますからあなたも!!それが子供の真の幸せです(涙)>

と訴えかけている、というお話です。

掲載されているアルアル実話集を紹介すると、

===

> 親が寮に来て洗濯をしていくなど、生活能力がない。大学の寮で、朝起きるのにお母さんの電話が必要。ある学生は、荷物を親に送ってもらったものの、重すぎて一人で運べなかったため、どうしていいかわからず、寮の入り口に放置。結局、親が寮担当の先生に連絡してきたため、先生がお手伝いを手配する羽目に。

> 問題解決能力がない。科目選択や課題設定も親と相談で決めている。学生が問題に対面した時、スタンフォードだけでなく、昨今は、どこも、大学に連絡を入れてくるのは親ばかり。オフィスに学生が親同伴で入ってきたので、大学新入生かと思って応接を始めたら、博士課程進学希望者だった上、本人は一言も発せず、親が研究トピックを説明し始めた。親の希望が通らないと、弁護士まで出てくる。

> 大学生のメンタルヘルスがキャンパス上、大きな問題になっている。高学歴層の若者のメンタルヘルス問題(うつやドラッグなど)は、教育がなく、20歳前に犯罪をおかすような層で見られるレベルと同じくらい深刻だとも指摘されている。

> 将来に向けてもガッツがない。新卒時の仕事を探すのは当然だと思っていたある親は、30歳を過ぎても、子供が転職先を見つけてくれと連絡してくる状態に、「自分たちは間違っていたかもしれない」と初めて気がついた。勘違いが続く親は、就職後も子供の上司に週末に電話してくる。こうした若者は、「指示待ち君」なことが多く、職場では、「蘭の花」などと呼ばれてバカにされている。


などなど。

===

一昔前は、「アメリカ人は独立心が旺盛」というのが、アジア人の認識でしたが、最近の中産階級、アッパー層は、行動は、日本人が思う一昔前の専業主婦・教育ママ・モデルと全く変わりません。

こういう本が必要な背景として、もう一つ、考えなければならないのが、現実の数字。

トップアイビーレベルでは、毎年受験熱が加速しています。

最近は、期待される学力レベルは、統一試験であるSATで全科目満点をとるくらいはごく普通といった調子。

「受かるかもと期待する層」しか、願書は出さないのが通常ですから、つまりは、願書提出者の過半数は、学力レベル的には、進学できておかしくない状態なわけで、そんな中、選ばれるのは宝くじ並の運かもしれず、同時に、進学コンサルタントや進学塾を使った親の勝ちという状況でもあるではないかと指摘されています。

この前私もウケたオンライン記事によると、

<ある中国人富豪は、子供をハーバードに入れるために、プライベートジェットを使い、子供を1日だけチベットに行かせ、願書泊付けのためのボランティア活動に従事させた>

そうです。アメリカ人も、確かに、同じ気持ちで、子供をアフリカに送り込んでますね。ジェット持ってない人でも。そして、子供は、「アフリカなんか別に行きたくなかった、お母さんのせいで僕の人生はめちゃくちゃだ」が本音、といった具合です。。。

選別は競争なので、ゼロサムの中、レベルは、加速するばかり。申請者は世界レベルで増えるばかりなため、スタンフォードの場合も、合格率は、年々下がって、2016年最新の数字では、5%を切りました。

こういう調子で育てられて、しかも、受からない子供のほうが圧倒的に多いわけです。受かった子にも上のような問題がたくさんある上、受からなかった子達の精神衛生上の悩みは、親の過度な押し付けからのみ、生まれているとしかいいようがないわけで、実際、パロアルト/シリコンバレーでは、「スタンフォードの近所の名門公立校在校生の自殺」が社会問題化しました。受ける前から、受からないかもしれないというストレスで自殺なわけです。

「雨が降る確率が95%と言われているのに傘を持っていかないのは、不合理な行動。合格率が5%なのに、子供に受験を強いるのは、それと同じようなものじゃないでしょうか?」「親御さんには、『だってオタクの大学側が、こういうものを求めているから』と言われると、私も心苦しいですが、お互い、子供の真の幸せを優先しましょう」

というこの本、名門大学受験を意識する層だけしか対象にしていないわけですから(特に、パロアルト地元御用達っぽい雰囲気です)、結構限定的なマーケットが対象ですが、しかし、ニューヨーク・タイムズのベストセラーになっているところを見ると、教育に熱心な層には、大きなインパクトを与えているのではないでしょうか。

「じゃあ、どうすればいいのか」についてのチェックリストまでついていますが、内容は、「洗濯などの家事を教え、家庭での役割を与えよう」「様子を見ながら、一人で、自転車や地下鉄、バスにも乗らせてみよう」とか、天下のアイビー関係者の育児指南は、一般ピーポーにとっての<フツーの小学生の育て方>の基本に戻れのレベル。

人より抜きん出る立場になった人に、フツーに戻りなさい、小利口にならず、いっそ馬鹿になりなさいは、ことほど難しいのですね。

正直、昨今の中産(ミドルクラスと言っても、やはり、アッパーの方でしょうね)アメリカ人の子育て事情は、シャレにならないレベルであるらしいというお話でした。。。


◆◆◆

例によっていつも前置きのほうが長いですが、書こうと思ったのは、不動産のことです。いや、ほんとに。

米国では、ここまで加熱している教育熱を反映し、人口の上半分は、「良い学区」に家を買うことに、大きな執念を燃やします。なんで私立に行かせないかと言われると、行かせる人も多いですが、米国の高ランク私立は、日本で言うインターナショナルスクールくらい、学費が高いので(2万ドルが普通で、1万ドル以下の私立は、教育レベルは高くない)、そこそこの高額所得者でも、子供を私立に行かせるよりは、良い学区に、高い家を買ったほうがオトクなのです。問題の一端は、多分、データが豊富にあることにもあるでしょう。

私もセミナーでお話していますが、米国では、州ごとに、どの公立学校も、成績表を調べることができるのです。

人種比率、低所得者層の比率(給食無料または補助のあるお子さんの比率)、州の統一テストのランキング、学習障害児の比率、卒業率、2年制/4年制大学進学率、すべて、調べればわかるので、行動する力のある親にとっては便利この上ないのですが、社会的弱者と強者との間の格差は、どんどん加速する仕組みなわけです。納税者に対する究極の情報トランスペアレンシー(透明性)が担保されているのが米国公立の仕組みです。

日本なら、「文△区や世○谷区の学校はいいんじゃないかしら」といったある程度のイメージはついても、ここまで、きっちりデータは開示されていませんのでそれといかに違うかということですね。

その結果、過去に取り上げたこともありますが、同じレベルの物件でも、学区によって、価格は全然違ったりします。

過去のブログ記事はこちらから

学区と物件価格の関係 究極の選択

そして、今日、フォローアップで、ご説明したいのは、この問題についての業者さんの立場。ようやくタイトルの内容まで来れました。笑

学区の良し悪しは、米国内では、人種問題についてのセンシティブな情報の一環であると認識されてきています。

というのは、どこでも、所詮、みんな、似たもの同士と住む傾向があり、アメリカでも、「黒人比率が高いエリア」「ヒスパニック系ばかりが住んでいるエリア」「白人中心のエリア」「アジア人比率が高いエリア」など、人種的なポケットがたくさん存在します。

一見、都市レベル、州レベルでは、人種ダイバーシティが実現できているように見えても、郵便番号レベルや学区レベルでは、どこも、偏りのほうが多いわけです。そして、黒人比率の高い学校、ヒスパニック比率の高い学校は、白人やアジア系の比率の高い学校に比べ、多くの場合、成績や治安という観点からは、良くないことが、事実上、一般的です。

しかし、不動産業者さんは、均等法(Fair Housing Act)を守る義務があるため、人種、性別、宗教上の言及はしてはいけません。(正確には、 race, color, religion, gender, disability, familial status, or national originすべてが対象)

「このエリアは、黒人の方が多く、ご予算は合いますが、白人のあなたには住み心地はよくありませんよ」などとは、間違っても言ってはいけないわけです。

イマドキ、そんなあからさまな発言で処分になる業者さんは流石にいないかもしれませんが、しかし、更に一歩踏み込むと、みんなが気になる学区についても、「この家の指定学校は、州のランキングが低いです」といった発言は、現状、成績が人種にリンクされている状況を踏まえると、実質上、人種差別的なトーンを伴ってしまう可能性がある、というわけです。

例えば、あるNPOの覆面調査(不動産業者さんに対し、顧客のふりをして調査員が連絡する)によると、人種によって、業者さんの学区についての説明内容が異なっていたという例が紹介されていました。

ヒスパニック系の子供の在学率が高い学校への言及は、白人に対してだと、「いい学校ではありません」、ヒスパニック系に対してだと、「いい学校ですよ」と発言は、180度、違っていたとか、、、

いわゆるあからさまな差別と違い、悪気があってという感じでもないので、人間として無理からぬ行動という気もしないではないのですが、発言内容自体は人種には言及していないようにみえる反面、相手の人種によって発言を変えているわけですから、人種差別的な営業姿勢であると言われたら、問題ではないとはいえません。

Race, School Ratings And Real Estate: A 'Legal Gray Area'

その為、全米不動産協会は、「学区の良し悪しについては、言及方法は、気をつけよう」という注意を呼びかけています。

Steering, Schools, and Equal Professional Service

学区についての情報を持って顧客を誘導する(steering, 方向付け)ことは、既存の差別を増幅する加担行動になりかねないので、控えようというわけです。

どういうのが、法的にトラブルになりにくい回答方法かというと、以下のような例が出ています。


★ だめな例

顧客 「ここの学校はいいですか?」
レアルター 「州のランキングは高くないですね」


☆ 良い例

顧客 「ここの学校はいいですか?」
レアルター 「お客様にとって良い学校とは、どんな学校ですか?」


つまり、自分で決めつけず、相手が何を求めるかをまず聞き直し、そこから、「回答内容に応じ、学区のウエブサイトなど、客観的な情報を掲載している外部のウエブサイトを紹介し、自分からは、明言を避けよう」というわけです。

他に、トラブルに巻き込まれないテクとして、以下の方法が合わせて紹介されています。

> 「学校はどうですか?」と聞かれたら、紹介した家がある学校の連絡先を教え、「気にいるかどうかは、自分で行って調べてみてください」と回答する。

> 違う学校圏の家をいくつか紹介し、反応を見る。顧客側が特定学校に対する好みを表明した段階で、それをフォローするが、自分からは、「このエリアが学区が一番いいですから、ここから始めましょう」といった予断を前提にした発言、行動はしない。

はっきりは書いてありませんが、上の全米不動産協会のページで紹介されている例からすると、親御さんの口コミサイトなんかは、客観的ではない可能性がありますから、あまり紹介してはいけないサイトとして位置づけられているイメージです。

そうなると、一般人がよく見るZILLOWの提携しているGREATSCHOOLS.ORGなんかは、言及がないかもしれませんね。

業者さんが、質問にストレートに答えてくれない時、「気が利かないな」とか、「言っていることを理解してもらえていないのかな」と思うことがあるかもしれません。「いい学校?そんなのはお客さんが勝手に調べてくださいよ」「学校の良し悪しなんて、人それぞれの考えじゃないですかね?」とか回答されて、「知識がないのか?やる気あるのか?」とむっとする場合もあるかもしれませんが、業者さんは、立場的に、言えないということが、あるのですね。

どう使うかはたしかに人それぞれですが、買う方にとっては、確かに決定的な情報。

日系レアルターさんとやり取りできる場合は、あうんの呼吸で、日本人に人気のエリアを探してもらえる可能性もあるとは思いますが、自分が住むにせよ、投資用にせよ、自分自身がイニシアチブを行使し、地元情報通にならざるをえない場面です。


中山からのお願いです。
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