「デトロイト3」は、誤解じゃ… デトロイトメトロエリアの真の問題は、郊外と市内の格差
昔は、GM、クライスラー、フォードのことは、ビッグスリー【自動車業界最大手】といった、ということです。そんなの、「今は、アメリカのこれらの3社は、没落しているんだから、単に、デトロイトスリーっていうんだよ」なんて、言われますが、予備知識がない方に対しては、この言い方にも、誤解がありそうです。
というのは、自動車産業は、ミシガン州のいろいろな市に広がっており、デトロイト市内自体は、それほど、重点的とはいえないから。
デトロイト市内に不動産投資している私ですが、特段、アメリカ経済全般とか、自動車産業に明るいわけではないことは、お断りしないといけません。このブログでも、自分の知識のないことについて、事情に明るいかのような発言をすることは、控えるべきだと思っています。
しかし、よく、「ビッグスリー【転じてデトロイトスリー】問題で、ゆれているけど、デトロイト大丈夫?」「賃借人は、いるの?」といったご質問をされて、なんとも、お返事に困っているところはあります。
例えば、GMの工場で、きちんとデトロイト市内で稼動しているのは、多分、デトロイト=ハムトラック工場中心のような印象ですが【Cadillac DTSとBuick Lucerneを作っていて、2010年に、電動のChevy Voltが作れるかどうか、相談しているらしい】、それ以外の工場は、近隣市のLansing、FlintやLivoniaなどにあるようです。
こちらから、非公式のリストが。
Flintは、GM出発の地ですから、昔はもっとヘビーに自動車産業の拠点があり、それが去って、不況久しいということは、同市出身のマイケル・ムーア映画監督が1989年に撮った映画、Roger and Meでも、描かれていました。
GMなどのベテラン組合員の時給は、28ドルくらいだそうですが【UAWのHPにもそうある】、ただし、各種費用が入るため、結局、時給は、これらの会社にとっては、70ドルになってしまっているというのでしたね。
トヨタなど日系の自動車メーカーが、総合支出40ドル台で、アメリカ人を雇用できているという中、一時間ごとに20ドルの医療費計上【クライスラーの場合らしい】ってどういうことなのか、、、
いずれにせよ、よしんば、これらの方々の直近の毎年の年収が、28ドル×8時間×5日間×4週間×12ヶ月だったとして、それって、所得税前に、5万4,000ドルくらい。医療費、年金は除くのですから、日本人の感覚からしても、「それなりの年収」という感じです。
それに対し、デトロイト市内の世帯の平均年収は、2万ドルとか3万ドルの話ですので、遠く及びません。
日本でもそうだと思いますが、家賃や住居費というのは、月収の30%まで位が、適正。(家を買うために貯蓄している人なら、もっとずっと低くないといけないでしょう。)
つまり、例えば、アメリカでも、郊外の3ベッドルームに、1,000ドルの家賃で入居しようと思ったら【アメリカの一般的なワーキングクラスは、ここら辺で、都市部はもっとずっと高くなります】、表面月収は、3,000ドルでは、足りないということです。
私たちの家は、家賃は、600ドル台が一番多いので、この伝でいくと、月収は、2,000ドル前後ということになるでしょう。やはり、デトロイトの世帯平均の2万ドルから3万ドル台にぴたりと収まる年収水準です。
【そのうちの一部が、政府の福祉である場合もあるわけですが、「家賃手当てだけがある」ような人では、それ以外の生活費が捻出できないので、そうした人でも、多少は、何か、パートや年金などの収入が必要。】
GM、クライスラー、そして、フォード、これらの会社を、ビッグスリーと呼ぶべきか、デトロイトスリーと呼ぶべきかは、わかりませんが、これらの会社で、UAWの組合に所属し、きちんと長期にわたって雇用を確保できている(アメリカでは、seniorityを持つ、といわれる)方々は、多分、デトロイト市内には、居住していないでしょう。
間接的かつ一般的な話をするならば、ビッグスリーの業績が悪化することで、「市への影響がプラスになるはずはない」とも思いがちですが、その範囲が、どの程度のものであるかについて、あるいは、具体的には、どんな流れになるかについては、「こうなる」とは言いにくいのではないでしょうか。
私がこの前の出張で泊まったトロイ市も、「リッチな郊外」のひとつで、ホテルやレストランでは、裕福そうな(白人中心の)方々のクリスマスイベントがこれでもかというほど、展開されていました。
ホテルから5分のショッピングモール、サマーセットコレクションなどは、スクエアフィート毎の売り上げが、2004年次には、620ドルと、同年の全米ショッピングモール平均売り上げ341ドルを大きく上回り、全米内でも、トップモールのひとつと考えられているそう。
黒人層が中心のデトロイト市と、白人らが居住する郊外との間の物理的な境界線は、エイトマイル通り【Eight Mile】に求められますが【ラッッパーエミネムの映画デビューは、『エイトマイル(8 Mile)』という自叙伝的な青春映画】、8マイルを超えたエリアには【例えば、16 Mile通り、といったように、北上するにつれ、数字があがっていく】、全米主要都市比でいっても、相当豊かな地域が存在します。
自動車産業で、現在、「失業するかも」と言われている方々の多くが、多分、市内ではなく、この、周辺富裕エリアに居住していることは、間違いありません。
とすると、これらの会社が、縮小や清算に入ることで、【これまで生じていた、白人の都市部からの逃避、white flightに基づく】人種分断に逆行するゆり戻しが、生じていかないとも限りません。すでにその兆しがあるといっている人もいますし、若い世代は、人種断絶を、旧世代ほど固定的なものと見ているわけではないですし、、、。もしそうなるとしたら、市内で、人種再混合が始まり、安く住める市内の人口が、こうした、より高収入の所得期待を持つワーキングクラスに近い白人を中心に、増える可能性だってゼロではないわけです。
他方、世の中というのは、常に不平等なものですから、まったく正反対のシナリオも描くことができるでしょう。
ビッグスリー業績悪化の結果、これまで黒人がメインだった、より魅力がないと思われていた低所得の職場に、こうした郊外族の白人が進出し、しかも、市内には、戻らない。その結果、市内の黒人の失業率がさらに高まる、そういう可能性ですね。
ここら辺については、いろいろなspeculation【あれこれ案じること】が可能でしょうが、「こうなる」と断言できる専門家がいるとは、私には、思えません。リアルタイムに、起こることですので、、、
私自身は、(米国経済にとってはわかりませんが)、デトロイトメトロエリアにとっては、デトロイトスリーが精算に入って、雇用契約等を一新する権利を労組側に対して得ていくことが、最終的に、プラスになるのではないかと思います。
デトロイトメトロエリアの真の問題は、この21世紀になっても、8 Mileであり続けているように見えるからです。
現地出身の黒人でなくても、「白人のラッパー、エミネムが、デトロイト市内のラップバトルで、白人であるが故の逆差別に悩みながら、それを実力で克服し、黒人たちに一目置かれる存在に成長する」という映画、『エイトマイル』が、全米で、ヒットした、その皮肉さには、微苦笑せざるを得ません。
ウオールストリートジャーナルも、12月16日に、「精算を恐れるな」というある大学教授の意見を掲載し、その記事は、それなりに、注目されているようです。今朝の、日経ビジネスオンラインにも、「やっぱりおかしいビッグスリー救済」という、日本の経済学者の論考が、発表されていました。
但し、【アメリカの】メインストリーム(主流)論壇のこの問題の議論においては、これらの論文を読んでもわかるように、エイトマイルという、人種カードは、使われてはいません。古臭すぎて、使いようがないのかもしれません。なんといっても、黒人の次期大統領、バラック・オバマ氏からしてが、「これからは、白人のアメリカも、黒人のアメリカも、ラティノのアメリカも、アジア人のアメリカも、原住アメリカ人のアメリカも」ない、というcolor blindなアメリカを訴求しているのですから、、、UAWだって、黒人組合員の地位向上に歴史的実績があります。
しかし、通りがかりの関係者である私が見ても、「政府が、金融街を救済したときと同じ批判、つまり、この、企業救済案というのは、本当に一番困っている人を助けるものとは、言いがたいのではないか」と思います。
ぶっちゃけ、私たちのテナント層が、ビッグスリーが破産を免れることに、階層的にいって、大きな関心を寄せているとは、いえないのではないでしょうか。そして、そうだとすれば、世界経済の血脈という役割を担っているというrationale【理由付け】があった金融機関と比べると、個別産業である一部自動車産業は、ダイナソア【恐竜】である自分を、外から、見直すべき時期が来たといわざるを得ないのではないでしょうか。
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本業のほうの話に戻ると、他方、本来、デトロイトは、日本人が、「GM大丈夫?」と思い出すずっと前から、犯罪率、空室率、近年では、特に、物件競売件数についても、全米主要都市比で、相当高い数値を見せてきた、ダメダメな都市全米ナンバーワン。
アメリカの、いろいろな不動産投資家の中でも、「今が、エントリー時期」と思っている方と「ここだけは、絶対いや」と思っている方に二分されます。ミシガン内、あるいは、メトロエリアでも、意見を聞けば、投資家の意見は、やはり、二分されるでしょう。
わたしがいうのも変ですが、「素敵ないい投資ですから、ぜひ、ご一緒に」などと、気安く、お誘いするような確実な投資方法ではありません。ぶっちゃけていえば、投資話って、そういうものです。
この前も、興味をもたれている方から、
「今、デトロイトは、投資家がたくさんエントリーしてきていて、投資家同士で、賃貸物件の過剰供給があると指摘されているようですが、その状況の、空室率に対するインパクトについては、どう思われますか?」
というご質問がありました。
失礼ながら、こういったご質問に、統計的に意味があり、投資のリターンリスクの計算を数学的に可能にするようなお返事があると期待されているのなら、それは、間違いです。
デトロイトメトロポリタンエリアの一戸建ての空室率は、8.7%という数字が、包括的なものとしては、最新のようですが【例:2003年度連邦統計レポートページxi Table 1.1。大きいファイルですので気をつけてください】、逆に、それをそのまま援用すれば、安心できるのでしょうか。
第一に、これは、Detroit Metropolitan Areaの統計ですから、より環境良好な郊外も含む数字です。しかも、市内では、その後、競売問題が激化しましたから、当然ながら、2008年の現在、エリア的に、あるいは、通り的に、これよりひどいところを探すことは難しくないはず。現時点のデトロイト市内統計を、今、取り寄せることが可能であるとしたら【無理ですが】、10%よりは、15%、ヘタをすると、20%に近いかもしれません。
統計に対する、私の態度は、こうです。
家を一軒、あるいは、数軒持つ予定の方が、そのエリアの平均統計(何万軒単位の話)を聞いて、それが、自分に当てはまると思っているとすれば、それは、日本女性の合計特殊出生率を聞いて、若い女性が、「私って、これから、子供を1.29人生むのね」と思い込むのと同じくらい、意味のない話です。
私が、こうした質問に、お答えするときは、こうした細かい話は、大体、はしょって、結果のみに、なります。
「私には、お答えできません。なくなって困るお金なら、デトロイトに、投資されないでください。これは、元本他いかなる保証型の投資でもありません。」
まったく別のレベルで、「お前のところの空室率や問題発生率については、どうなっているのか?」と聞かれれば、もっと具体的なお答えをすることは、可能です(そっちについては、また、別の記事で)。ただ、それが、自分の、あるいは、個別の投資案件の将来について、統計的に有意な意味を持つ数字だと思われるのは、やはり、最終的には、間違いです。
ファンドと同じで、過去の成績は、将来の業績を意味しません。
そもそも、例えば、100軒、家を買ったら、いずれについても、同様にリサーチしたつもりであっても、一部の家のほうが、客付け成績がよく、それに対して、一部、見込み違いで、あるいは、何らかの運で、ある時期、空室がより長く続く、といったパフォーマンスの誤差も、出てくるかもしれません。
保持期間中の空室率の他にも、空室時の空き巣や放火等の事故率、ひいては、より決定的なポイントとして、エグジット時の売却値段など、「個々の投資案件のリターンを左右する出来事」には、事欠きません。これらについて、すべての統計を集めようと、いかに努力したところで、それらが、自分の物件にどういう意味を持つかは、事前のシミュレーションでは、出てきません。
私に言わせれば、ここの部分が、気になり、乗り越えられない方は、「中程度のリスク」以上のリスクを持つ投資案件に投資する投資家、あるいは、アグレッシブな不動産投資家には向きません。ご本人も、それを自覚されることが必要だと思います。
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デトロイト投資を検討されるにあたって、もっと情報をご希望される方は、
2009年1月31日セミナー
2009年2月28日売主来日セミナー
2009年6月上旬現地視察旅行(予定)
などへのご参加を、お勧めさせてください。
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