ZILLOWを見ると、アメリカの不動産は、値上がりが始まっていますが?
中山道子です。この前、ある投資家様から、こんなご質問がありました。
ZILLOWで、「このエリアは、この期間中に、これこれの値上がりがしました」との評価が出ることが多くなりましたが、それは信用できますか?
これは、大変よい質問です。実感と異なるデータって、どこから出てくるのか?
中山の回答:
統計自体は、恣意的、あるいは、解釈の余地があるにせよ、あからさまなうそということは、ありません。しかし、どういう市場で、どういう状況があるために、こういう数字が出るのかを確認することは、必要です。
2013年現在の市場の多くは、依然、”債権処理モード。”
この市場の特徴は、
売り手の多くが、銀行である=処分もの(REO)、任意売却(SHORTSALES)
買い手の多くが、投資家である=実需の比率が、まだ低い
決済形式の多くが、銀行融資利用形式でない=リテール融資業務が正常化していない
です。
具体的な数字を出してみましょう。
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適当な架空の例ですが、あるエリア、ZIP CODEで、先月、1ヶ月に、100軒の売買があったとします。その5割が、銀行の債権処分がらみだったら、第一に、「現状有姿」での売買ですから、満額ではありません。最高条件のオーナーチェンジ案件が、20万ドルで売れるエリアなら、その隣の銀行がらみ案件は、半額でのやり取りになるとします。
この状況で、銀行の顧問不動産会社が、銀行の依頼を受けて、こういう戦略を立てたとします。
先月は、銀行処分ものは、合計100軒が掲載されて、50軒が、10万ドルで売れたな。それなら、来月は、合計掲載件数を、高めに値段がつきそうなものを選んで、60軒に絞ってしまおう。
こうなると、この翌月には、この統計を、「50軒の売買成立、ただし、投資家の入札が殺到し、平均価格は、10万8,000ドルになった!」といった価格上方操作が、可能です。
その結果、このエリアでは、銀行放出物件を中心に、半年後、1年後には、顕著な値上がりを演出できます。銀行は、多数の不良債権を、順繰りに、タイミングを計りながら、処分していくことで、回収金額を安定化させていくことができるわけですね。
しかし、このエリアで、20万ドルで売れていたオーナーチェンジ案件は、この期間中に、値上がりするでしょうか?
可能性として、現状維持か、下手をすると、要処分物に、鑑定額を引きずられ、ダウンすら、するかもしれません。
というのも、銀行が、10万ドルで売却した要処分物件は、右から左に、つまり、現状有姿物を購入した投資家の手を経て、末端消費者にとってより魅力的な価格、つまり、18万ドルで、同じ市場で売買されるようになっていくからです。本当のオーナーチェンジものにおいては、売主は、10年前に、物件を、28万ドルで買ったかもしれない。そうしたら、20万ドルが18万ドルになったら、ローンが払える間は、なおさら、売りたがりませんね。
それじゃあ、こうした動きをとる銀行の要修理物件物の在庫は、このエリアで、後、何か月分、残っているか?
滞納から本来1年半以内に決着をつけることが一般的だったフォークロージャー手続きを、銀行が、自己判断、または、業務に忙殺され、計上を遅らせている状況が慢性化しているともいわれるので、そのためには、まったく別の統計を見ないといけません。長くなるので、そちらの問題、SHADOW INVENTORY問題については、別の記事で、またUPDATEしたいです。
(このトピックの主題からは外れますが、銀行は、こういう際に、こうした物件をバルク売りしたり、ローン滞納者に内々で、元本を割り引いての現金でのお手打ちにOKしたりしていますので、やってみないと、銀行も、わからないでしょう)
それでは、2013年今現在、あなたや私が、このエリアで、フィックスアップされた18万ドルの素敵な物件を買い、テナントを入れて、1年待てば、ZILLOWのいうように、年率で、5%、7%の値上がりが、来年、期待できるか?
答えは、市場の構成が変わるまでは、NO。その理由は、値上がりしている物件の属性は、末端リテールものではないから、というわけです。
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再度、上の市場の特徴を確認しますと、
■売り手の多くが、銀行である=処分もの(REO)、任意売却(SHORTSALES)
■買い手の多くが、投資家である=実需の比率が、まだ低い
■決済形式の多くが、銀行融資利用形式でない=リテール融資業務が正常化していない
です。これが、下のような市場へと生まれ変われば、その値上がりは、「本当の値上がり」です。
□売り手の多くが、オーナーチェンジ案件になった
□買い手の多くが、実需=自分が住む家である
□決済形式の多くが、銀行融資を利用している=物件の鑑定額が安定した、居住者層の経済状況が改善した
いかがでしょうか。統計は、有益ですが、実際に、投資家にとって、その市場がどういう意味を持つか、属性が異なる賃借人にとって、あるいは、実需希望者にとって、市場がどういう意味を持つか、それは、すべて、「自分の属性」にかかわっているということです。
最後に、ZILLOWの過去1年の値上がり率の高い州を見てください。カルフォルニア、フロリダといった州が、ニューヨークに対して、現在、飛ばしている理由は、ずばり、こうした銀行関係案件の取引比率が高かったため、市場全体が、ある意味で言うと、「売り手としての銀行」のコントロール下にあるからなのです。
なので、上で説明したような市場で儲かっているタイプの投資家は、ずばり、「銀行処分物を、現状有姿で、10万ドルで買って、短期転売している」ような投資家。それに対し、遠隔で、長期の値上がりを目標とする大家さん系の投資家が、今の市場で、短期の見通しをつけることは、至難の業だというのが、私の、今の現状判断です。
それについては、先に書いた記事を、いくつか、あわせて、ご覧ください。
今、私たちが買えるレベルの物件に入室してくれるようなテナントさんの驚愕プロフィールとは?」→こちらから。
「今、遠隔投資の小規模投資家に、手が出せる物件が、中長期の大家さんを経営していくホールディングに向きにくい理由」→こちらから。
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