不動産にも、survivorship bias(サバイバーシップ・バイアス) の考えかたを取り入れよう!
対米不動産投資家の中山道子です。2016年2月の日本でのセミナーの準備に余念がありません。20日土曜日の大阪は、まだ、お席の余裕がございます。ぜひよろしくご検討をお願いします。
2016年2月20日土曜日大阪1日VIPセミナー(1年間メールコンサル付)
すでにコンサルを開始している顧客様もおいでです。
たとえば、今日は、こんなご質問がありました。
「ハワイに、物件を無事購入し、テナントさんを入れるために、管理会社さんが、オンラインで、物件掲載をしてくれていますが、なかなか、決まりません。掲載写真がよくないと感じますが、どうすればよいでしょうか?」
「空室対策については、実は、遠隔でも、写真差し替えの段取りを含め、オーナー様ができることは、複数あります。それは、、、」といったようなご回答をさせていただいたところです。
さて、本題の、サバイバーシップ・バイアスです。
しばらく前に、空室対策を例にとって、不動産の「長期シナリオ分析」(長期にわたり、シナリオ別、つまり、うまくいった場合、普通にいった場合、うまくいかなかった場合にどうなるかを、ケースバイケースで、考えておくこと)について、お話をしたことがあります。
その際に、サバイバーシップ・バイアスという考えかたを、不動産でも、理解しておくことにメリットがあります、ということをお話しました。
しかし、肝心の「サバイバーシップ・バイアス」が何かということは、下の記事では、ご説明に至りませんでした。
サバイバーは、文字通り、生存者。バイアスは、偏見で、直訳が難しいので、そのまま、カタカナで用いられることが多い気がしますが、アバウトには、
「生き残ったものだけを計算に入れることで、実態が、よりよく見えてしまう」
状態が、資産にとってのリスクになりうる、という感じで使う言葉。
経済用語では、投資信託理論でよく出てくるのだと思います。
有名なのが、「ヘッジファンドのサバイバーシップ・バイアス」問題。
ヘッジファンドといえば、独自のリスク計算で、驚くべきリターンをあげる「大人の世界」の資産運用法というイメージ。高額からでないと、出資を受け付けないことが多いとか、また、普通のファンドではありえない成長をするとか、いろいろいわれていますね。
しかし、数多くの実証研究を調べてみると、実際には、ヘッジファンドというのは、私募債なため、データを調査機関にきちんと年次報告する義務がありません。その結果、いわば、「うまくいったときだけ、報告する」傾向が強く、実際には、ヘッジファンドが、100、200とあれば、全体のリターンを調べてみると、実際には、インデックスファンドのリターン率を大きく下回る確率が高いのではないかと、指摘する向きも。
企業年金連合会のウエブサイト上の定義を見ると、こんな感じです。
「ヘッジ・ファンドでは、途中で廃止になったり、パフォーマンスが悪いためにデータを調査機関に提供しなくなったファンドなどが除かれ、結果的にパフォーマンスが良い、最後まで生き残ったファンドのみで投資形態別の過去のリスク・リターン特性が計測され、実態が十分に反映されず、過去のパフォーマンスが過大評価されてしまっているケースがある。これをサバイバーシップバイアスという。」
実は、現在、ウオーレン・バフェット氏と、あるヘッジファンド・マネージャーとの間には、FORTUNE誌上で、有名な「10年越しの賭け」が進行中。
バフェット氏は、S&Pインデックスファンドが、長期運用では、どんなヘッジファンドにも絶対勝つと主張し、今のところ、余裕で勝利をし続けているというニュース、英語報道では有名ですが、日本では、それほど取り上げられていないかもしれません。
2012年次の日本語の記事はこちらから。バフェット氏は賭けに勝ち?ヘッジファンドは市場に勝てない
最新アップデートについては、日本語紹介が見当たらないので、英語のほうをどうぞ。2015年2月のFORTUNE誌記事です。
Warren Buffett adds to his lead in $1 million hedge-fund bet
この7年で、バフェット氏推奨のS&P500インデックスは、63.5パーセント増、しかし、対抗するヘッジファンドは、やはり、累計で、19.6パーセント増というお粗末な結果しか、出せていません。
ヘッジファンド業界というのは、「現在、紹介されているものを見ると、すごいリターンを出している」ものがあることは事実、しかし、実際には、投資に対するリターンは、全体として、印象操作により、成功を過度に演出している局面がある業界だといえるかもしれません。
投資家には、ギャンブル好き、一攫千金が好きなタイプの人もいますから、インデックスなんか、つまらない、競馬と同じで、自分が選んだ勝ち馬でないと、やる気がしないといった人には、需要があるということでしょう。マーケッティングコストも、潤沢に上乗せされていますから、FPや銀行が薦めてくるのは、売るとコミッションがもらえるヘッジファンドに決まっています。
私も、ヘッジファンドに投資をしたことはありませんが、若いとき、正しい投資知識を学ばなかったために、こうした傾向があったと思います。学校で、もっと統計の勉強を増やしてくれると、いいんじゃないかな、、、汗
ということで、この言葉、日本では、まるで、ヘッジファンドについてしか使われないかのような専門用語扱いですが、実際には、このコンセプトは、あらゆるところに当てはまります。
不動産も投資ですので、この考えかたを、わきまえておくことには、大いに意味があるでしょう。(ビジネス起業も同様です。)
例えば、成功している投資家さんとお話をし、「ああするといいんだな」と思っても、実際には、1人が成功する裏で、似たようなことをやった何人が、失敗しているかはわかりません。
「資産ゼロから初めて、4年で、3億の融資を引っ張り、今の不動産収入は、3,000万に届く勢いで、本業は、もう、やめました」
というスゴイ人がいたとしても、同じようなことをやって、失敗し、散々な目にあった人は、本を書いたり、セミナーを開催したりはしないわけです。(例外として、有名なのが、健美家さん連載の「まりおくん」さんでしょうか。今回も予定していますが、私も自分のセミナーでは、自分やそれ以外の人の過去の失敗例集を取り上げ、失敗ポイントのご説明とあわせ、大変ご好評をいただいています。)
投資着手に当たっては、まずは勉強、「成功者を目標とすればいいのか」とは思っても、実は、「成功する確率」は、いくら成功者自体を研究しても、わからないわけです。ひとつの手法に関連し、1人が成功する裏で、3人が、失敗しているのか(成功率25パーセント)、9人が泣いているのか(成功率10パーセント)。
あなたなら、成功率が、何パーセントだったら、その手法に、着手されますか?
普通の神経の人なら、最低でも6、7割くらいは、成功の確率がないと、100万、1,000万単位の事業投資には、着手できないと思いますが、その成功率までは、いくら調べても、実態はわからないのが、投資の怖いところです。
まあ、極端なことを言ってしまいましたが、実際には、一番よくあるのがこんな例かもしれません。例えば、管理会社さんを選ぶために、「お宅の管理物件の空室率は、どれくらいですか?」と聞きます。
私の経験から言うと、普通の米国の管理会社は、通常、5パーセントくらいですと回答するものです。
この数字を聞くと、なんとなく安心し、「自分の物件の空室率は、5パーセントくらいで納まるんじゃないか」と思ってしまいませんか?過去の私は、そうでした。
しかし、実際には、この数字は、うそをついていないとしても、統計的に有意でない確率が高いのみならず(こちらの物件とは比べようがない物件が一緒くただし、統計的有意なほどの数のポートフォリオとは限らない)、サバイバーシップ・バイアスの対象にもなっている可能性があります。
どういうことかというと、管理をしていて、その管理会社さんが、うまく管理ができなければ、オーナーは、おいおい、別の管理会社を探して物件を動かすでしょう。ですので、その管理会社さんの今のポートフォリオは、「その管理会社さんの現在の状況」を示すものではあるかもしれませんが、しかし、「管理手腕」を示すものとは、いえないからです。
このコンセプトを知って、大いに得をしたというものでもないのが、申し訳ないところですが、しかし、これを知らずに、猪突猛進することで、昔の私のように、多くの失敗や誤解をしてしまいかねない可能性は、皆さんにもあるかもしれません。
「だからこうするべき」という解決が、一律、あるわけではありませんが、投資をするときには、統計をできるだけ多く見ること、数字(の裏)を解釈する努力を怠らないことに、大きな意味があることを、心しておくべきでしょう。
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