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米国最新都市研究の成果の行方

対米不動産投資家の中山道子です。

最近、米国の「都市研究」が熱いです。この週末は、そちらの勉強を少し。。。

こういうことの情報収集のメインにしているウエブサイトは、ブルッキングス研究所のもの。

ここは、米国で最も影響力の有る中道派シンクタンクとして左派からも右派からも一目置かれているので、ここのサイトをウオッチングしていると、

 > 話題の研究のレビューが読めたり
 > 最新データのまとめが要領よく見られたり

します。

ブルッキングス研究所

 

この週末のリサーチに絡んで、この10年を振り返ることで、どんなレベルで、役に立つのか?というお話を、今日はしてみたいと思います。


この週末の成果は、原著2006年出版の

 フラット化する世界
 トーマス・フリードマン



の世界観が、どのようにして、覆されてしまったかという流れを、具体的に確認できたこと、、、

この本で描かれている世界観とは、、、

読んだことがない方も、多いかもしれません。私も、同じです。

しかし、言われれば、この本がキャプチャーした「時代の空気」というものに、われわれは、みな、ある程度、影響を受けたかも、と思い当たるところがあるのではないでしょうか?

ブルッキングス研究所の孫引きで、今の時点でこの本の位置づけを整理をすると、こうらしいです。


> インターネットや交通などで、世界は、より狭くなり、距離はもう障害ではない

> ロスの仕事がムンバイに移る。その結果、賃金や待遇、生活は、平準化していく


思い当たりませんか?
こういう考え方。

いわば、グローバルな意味での富のトリクル・ダウン学派、つまり、強引にまとめてしまうと、


《富は、上から下へと流れていくので、資本主義社会が成長さえしていれば世の中の問題はすべておのずから解決していく》


という考え方です。

これは、フリードマン氏が、この時期にいたるまでの世界の方向性や、IT革命を経験しながら整理した結果が、2006年に成果として出てきたものです。

しかし、おりしも、「時代」を集大成するこの本が出たちょうど、この頃からが米国は不景気。

そして、この前後から以降という「長く苦しいトンネル」を抜け出た後の米国や世界経済を分析する人たちは、この「楽天的な世界観」を、真正面から否定せざるを得なくなります。


> 世界は、フラットなんかじゃなかったんだよね。

> 確かに上海やバンガロールは、大都市の仲間入りをした。

> しかし、世界は、実は、依然、とげとげ(SPIKY, NOT FLAT)しているじゃないか


と言うわけです。

学問のトレンドとしては、そこから、経済学者らの間で、「都市研究」に火がつきました。

ほうっておいては、成果が出ない。手をかけて「都市」化させなくては、とにかく、世の中、アメリカだろうと、アフリカだろうと、経済成長も進歩もないことが分かったからです。

ということで、米国内でも、「都市は、どうしたらとがらせられるのか」といった研究が、あらゆるレベルで、行われ始めました。

その一環として、出てきたのが、例えば、日本でも早速訳された《年収は住むところで決まる》という2012年の本です。

これについては、この週末、記事を書きました。


「年収は住むところで決まる」 
エンリコ・モレッティ氏の研究の不動産投資家にとっての意味


こんな話をお前ごときが持ち出してきて、どうするつもりだと、おっしゃるかも知れません。

しかし、実は、こういうフレームワークって、実は私たちのその時々の考え方に、ディープに影響を及ぼしていたりします。

これは、ファッションの例なんかが、分かりやすいかもしれません。

例えば、私は、パリのオート・クチュールの知識は、まったくないわけですが、それでも、店頭で洋服を買おうと思えば、それと知ってでなくても、


「ファッション発信者側が、末端向けにその年の流行を押し付けた世界観」


に、何らかのレベルでは、影響を及ぼされざるを得ません。それしか店頭で目にしないからです。10年前、何が流行ったか、私が何が着たいかは、何が店頭に置かれるかとは、あまり関係ないわけです。

同じようなロジックで、世の中の発展や進歩を見る目ということについても、私も、ほかの多くの方々同様、世の中の空気に影響され、

 > 経済成長→トリクルダウン→フラット化

学説の受身の信者だったと思います。これに、景気循環論を加えれば、


>景気は循環する、だから、不動産市場も、上がったり
>下がったりするわけで、そこを我慢していれば、景気
>はいつか上向き、市場も回復する、その恩恵は、皆が
>受けるんだ


というわけです。フリードマン氏の本を読んだことがなくとも、新聞やニュースを受身に見聞きするだけで、こういう考え方が前提になっている情報を摂取することが多かったわけです。

それに対し、2011年くらいからは、米国の景気回復基調は、マクロ的には見え始めましたが、私の市場ウオッチングの範囲ではそういう兆候がなかなか出てこない。

また、オキュパイ・ウオールストリート運動の発端が、この2011年です。

ピケッティ著《21世紀の資本論》が出る以前から、「経済回復は、下半分どころか、中流の人間にとってすら、絵に描いた餅」という現実の声に押されるように、研究レベルでも、これを裏付ける資料が続々出てきていました。

米国内ですら、フラット化は実現せず、スパイキーの「とげ」は、鋭くなるばかりだったわけです。

そういう中、私は、


《経済成長が、そのまま、国民すべてを豊かにしていく時代は、一端、終わった》


という認識を、実践レベルでも、受け入れることになったのです。具体的には、


《低所得者層向け案件への不動産投資はもう危険だろう》


となるわけです。景気回復の恩恵を受けない層なのですから、、、

もちろん、今後も、エリアのGENTRIFICATION(高級化)のような流れは、生じ続けるでしょう。

有名な例は、いくつもありますね。例えば、ニューヨークの「ミート・パッキング地区」。昔は、スティグマのある精肉業者のエリアだったのが、一夜にして、セレブの集う高級地区に。

悪名高いデトロイトですら、ダウンタウンの一部、川沿いのエリアは、金融やITが「安いから」と、建物・エリア買いをはじめており、自社の従業員を近所に囲い込み始めました。

しかし、これらは、「スパイク」=とげなのであって、決して、ニューヨークや、デトロイト市全体の居住者がすべて、モレッティ先生の本に出てくるように、IT企業に就職した高給取りの人たち向けの地元ビジネスを開設したりして潤ったりできる、といった単純な話ではなかったわけです。

そんなわけで、話を元に戻すと、こうした現状を踏まえ、今の米国内の都市研究の最先端は、

「生き残る都市とは?」
「都市再生の方法は?」

といった「スパイク(とげ)」研究へと視点が移っているわけです。

ただ、学者先生のいうことは、世界観的には、整理に役に立つにせよ、実際には、現実の後追いなわけで、他方、じゃあ、これからどうするか、という具体的な将来予測レベルで、こちらが利用できる研究というのは、限られています。

例えば、現在、未来人口動態学的には、2050年には、米国で白人はマイノリティに転落することは分かっていますが、台頭する若いヒスパニックの方々が、都市再生・成長を牽引する人種融和のばら色の将来に期待をかけるのは早すぎます。むしろ、今現在の投資家の関心は、ヒスパニック、黒人の世帯が、一般には、白人の10分の1以下の資産しか、保有できていないという実態、彼らが、白人とはまったく別のエリアにクラスターとして居住し、貧困や低学歴を再生する傾向があるという事実であらざるを得ません。

 
 調べれば調べるほど、先行き不安な米国の格差分布 人種編


もちろん、将来の政策レベルで見れば、今後、こうした「貧富の差を是正するための政策転換」が行われ、こうした”不平等な世界”に歯止めがかかる可能性もあります。

歴史を振り返れば、大恐慌後、富の不平等を是正する目的で施工された1930年代のルーズベルト大統領のニューディール政策では、実に最高税率は、75%だったそうで、この「金持ちから取り上げ、社会にばら撒く」政策で、実際、その後の社会は、標準化し、戦後、米国にとっての1950年代というのは、私たちが知る「古きよきアメリカの白人中流層」が郊外に大量出現したわけですから、今後、こうした実効性を伴った政治のイニシアチブが取られるかどうか、これは、大いに見守るべき動向でしょう。今年、オバマ大統領が、一般教書でこの問題に言及しましたね。米大統領、富裕層に大幅増税案 一般教書演説で 株式譲渡益が柱、共和党の反発必至

しかし、それは、今は、所詮、絵に描いた餅。実践の指針ではありません。

今は、負け組がとことん負けていくいやな世の中。

こういう中、私が、実践レベルで学んだことは、また、別にあり、この「実践と、理論的フレームワークという二つの視点」を組み合わせることで、今の私の立ち位置が成り立つわけですが、実践のほうは、ブログでもよく書いていますので、今日は、ビッグ・ピクチャーのほうのお話をしたくて、珍しく、大上段に構えてしまいました。


長くなりましたので、ここら辺で。実践については、2月のセミナーもご参加ご検討ください。参加者様向けに、懇親会も、企画しております。

画像の説明文

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