2009年の全米不動産動向 Improving is About Not Declining So Much
2009年の統計がまとまってきだしました。
傾向としては、
■購入金額は、下降傾向
■購入件数は、上昇傾向を確認
で、多様なサイトの報道ニュアンスには、苦笑することもあります。
スタンダードプア/ケース・シラー指標は、毎月発表だそうで、2009年12月29日分発表分が、すでにオンラインでPDFファイルとして確認できますが(こちらから。資料は、2009年10月分までです)、そのタイトルが、
Home Prices Still Improving but at a Moderating Pace
物件価格は、依然、上昇中だが、ペースは遅い
とあり、「物件価格上昇中?」と、期待を持たせますが、実は、その内容は、「下降率が下がっている」という趣旨だったので、笑ってしまいました。冗談ではなく、影響力のある金融関係の方や、報道関係の方は、あまり主観的または強い表現を使ったりして、逆に、それが、空気に悪影響を及ぼすことを懸念されたりもしなければいけないのでしょう。
実際のグラフは、下のとおり。
2009年1月から、20%の価格下落率が、どんどん改善し、最近では、8%しか下落傾向が認められないのです。うわお!よかったですね(爆笑)。
主要都市の物件価格は、2003年次水準へ。比較的動向のよいデンバー市、ダラス市の下落率は、1%以下だった(それぞれ、0.1%、0.6%)。
但し、ラスベガスだけが、38ヶ月の連続価格下落の末、2000年次に準じる価格帯へと絶頂期から55%の下落を記録。「これ」といった産業がなく、低学歴者層向けの観光、カジノ産業中心だったということが、やはり、敗因でしょうか。但し、現地のレアルターさんによると、市内の家賃が下がるところまで入っていないということです(私は、ノースラスベガスサブプライムエリアの自分の家の家賃は、50ドル下げましたが《こちらから》)。
私自身は、もともと、市場回復には、下落開始時の2006-7年から、5年、7年の時間を想定していましたので、今の段階では、「よその都市より悪い」からといっても、「そんなものかな」程度で、スルーすることとします。短期の統計に胸を痛めたかったら、株式市場に参入するべきでしょう、、、
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中古住宅ウオッチャーの全米不動産協会(National Association of Realtors)によると、2009年11月30日段階で、2008年同月比7.4%の中古住宅売買件数増加が認められました。《こちらから》
その背景には、
■新規実需物件取得希望者《first time home buyers》が、物件購入に当たっての政府の税優遇措置(tax credit)を利用して。この時期、アンケートによると、レアルターを利用した取引の51%が、FHAローン取得者だった。
■住宅金利が、歴史的な低さを記録し続けていたこと/30年固定金利が、4.88%。
などがあったと指摘されています。FHAローンやfirst time home buyerについては、こちらの記事を参照。
在庫のほうはというと、全米レベルでは、352万戸。これは、6ヵ月半のサプライだそうで、さびしい気はしますが、少なくとも、10月期の7ヶ月分余剰在庫状態より改善、また、去年度同時期と比べても、15%の減少。
この在庫量が、どれくらいのものかということは、賛否分かれるでしょう。直近過去にこれより在庫量が減っていたのは、2006年4月時の6.1ヶ月《バブル時》ということです。この「在庫」の定義までは調べていませんが、大体統計というのは、とり方もわかっていないと、本当の利用は難しいと思うので、ここは、表面的な紹介であることを、お断りしておきます。
不動産協会にとっても、依然、最大の脅威なのが、distressed sales《抵当流れ等の事情あり物件》。売買件数の33%を占め、このエリアが、改善するまで、本格的な住宅市場回復はなし、との悲壮な決意が、行間に読み取れます。Distressed propertiesについては、こちらの記事参照。
レアルター中心の組織である全米不動産協会《ちなみに、NARは、全米不動産業界とか、全米不動産業協会とかいろいろ訳されているようですが、不動産業全体を代表しているわけではなく、あくまで、中古物件を中心とする仲介業の方々中心です》
NARのサイトでは、ディストレスセール《昨今は、銀行REO物が一番多いことが予想される。銀行REOについては、こちらの記事から。》が多いことで、不動産鑑定士が、「ちゃんとした物件売買の場合でも、近隣のディストレス案件を計算に入れて物件評価を下げてくる」ことが、大いに問題だ、ということを言っています。
これは、”不動産業界永遠の論争”で、3年前は、近所に単発的にワケあり物件があったとしても、それを、鑑定に計算に入れることは、ありえないということで、関係者が合意していたのではないでしょうか。
それに対し、このご時世では、
■エリアによっては、ワケ/要修理売買しかない
■きちんとした融資付きの実需者から実需者へという修理なし正規売買の場合の価格は、これらの近隣要修理案件の価格と独立して、算出することが、難しい
という状況があり、「近所のどの物件が、実際に比較の対象といえるのか」で、鑑定額に、大きな違いが生じるわけですね。
例えば、「実需で、修理なし。20万ドル」で売り手も買い手も合意しているのに、鑑定士がやってきて、「この物件の価値は、19万ドルしかありません。近隣わけ要修理物件は、14万から18万ドルで売られています。こういう売買のほうが多いですよ」と報告する。
そうすると、銀行融資は、19万ドルを前提に行われ、「20万ドルを前提に、FHAローンの頭金3%である、6,000ドルプラス諸費用を用意しており、鑑定さえそろえば、その19万4,000ドルの融資を受けられるであろう買い手」は、「後、1万ドルないと」と、下駄がはずされる形となります。
結局、売主を中心に、関係者全員が多少泣いたり、あるいは、ご破算になったり。そんなシナリオが、多いわけですね。
難しいのは、「融資が付くか付かないか」という売買に本来に決定的な要素が、物件鑑定では、評価の対象とならないこと。
隣の同ランクの要修理物件を、投資家が現金で14万ドルで買っているとしたら、修理なしでローンをつけた物件を買って、次の日から通勤したい買主にとっては、相当なハンデとなるわけです。《融資が商品の一部であることについての過去の私の記事参照》
レアルター協会のほうは、「これでは、回復する市場も、回復しない!自分たちが中古物件の安定取引が行われる市場をゼロから作り直すために、こんなに努力しているのに、鑑定士のやつらは、なんだ!」と考えています。
仲介手数料報酬が出発点のレアルターと、物件が売れようと売れまいと固定額、それも、レアルターと比べるとたいした額にはならない鑑定士とは、利害の方向がまったく違うので、このような恨み節となるわけです。
不動産鑑定士協会の公式サイトまでは見ていませんが、バブルのときは、鑑定士は、帳尻あわせにずいぶん利用され、しかも、バブルの片棒担ぎということで、評判を落としたりといったトラブルもありましたから、今度は、慎重に行かないとな、位の感じなのかもしれません。いずれにせよ、銀行側は、バブル時は、プラス思考の鑑定、今は、保守的な鑑定を要求していますし、、、
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いかがでしょうか。ちょっと脈絡がないですが、表面的な統計の裏には、こういう業界内の葛藤があり、それが数字としてつみあがっていってプレスリリース、新聞報道になるわけですが、ベースを思い返しながら、統計を見ていかないと、本当にその業界で起こっていることがわかるとはいえません。
過去のブログ記事で取り上げた専門用語にリンクも張ってみましたので、ぜひ、いろいろ読み合わせてみてください。
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